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映像業界のセクハラ・パワハラ問題

ある映画監督のセクハラ・パワハラの記事をきっかけに、いろんな人が声を上げているのが伝わって来ています。私は映画業界の外側にいるので、どのぐらい酷いのか分からずにいましたが、何となく想像を遥かに超える量のセクハラ・パワハラがされている感じを受けます。

もはや「セクハラ」「パワハラ」という言葉にはちょっと甘さがあって、真実が伝わりづらいとも感じています。「性被害」とか「性加害」なんでしょうね。

それにしても、まだまだたくさん被害者も加害者もいるんでしょう。そしてそれが現在進行形で行われていたりもするんでしょう。

私のすぐ身近では起きてないと信じたいですが、映像の仕事はたくさんの人が関わる仕事なので、誰が何をしているかは分かりません。かつて私が作った仕事や作品の関係者の中にもいなかったとは自信を持って言えません。

「性被害」は無かったとしても、パワハラはあったと思います。いや、性被害すらあったかも知れません。「平林のやつ、自分は正義ぶって潔白ぶってるけど、オマエの現場でもこんな事が起きてるんだぞ。」と思っている人もいるでしょう。

だから、このセクハラ・パワハラ問題に対して、私が全く関係の無いヤジ馬のポジションから意見を言う事が出来ないんです。監督というポジションはそういうポジションなんです。

私の自分の仕事にしても、他の監督にしてもよくあるのが、「監督があれをやりたいって言ってるんだから、オマエら死ぬ気でやれよ。赤字になってでもやれよ。」と、いろんな部署の人達が追い詰められてしまうことです。制作部が追い詰められてしまうこともあるでしょうし、各部署のスタッフが追い詰められてしまうこともあります。監督のお言葉(皮肉です)によって、パワハラの被害者が出てしまうんです。それを監督である自分と無関係と言い切ることは出来ません。

だから監督も「演出だけを考えてればいい」と思うのではなくて、自分の言ったことが誰かを追い詰めてないか、常に考えなければダメだと思います。「自分は演出家なので演出家の正論を言ってるだけです。」と言っててはダメなんです。その意識がパワハラを生みます。というか、それがパワハラなんです。今のロシアと同じです。核兵器を持っている国はやりたい放題なんです。監督は核兵器を持っている国と同じなんです。

監督やプロデューサーは、自分が思っている以上に権力を持っています。権力とはどういう事かと言うと、その人の一存でその人をクビに出来るポジションにいるという事です。そういう意味では、監督をクビに出来るプロデューサーの方が監督の上にいます。キャストをクビに出来るという意味で、監督はキャストの上にいます。一方で、有名人のCMのキャストは監督をクビに出来るので、監督の上にいます。その有名人のキャストもクライアントはクビに出来るので、クライアントの方が上にいます。権力とはそういう事です。クビの逆のキャスティングも同じ様に権力です。

そして、そんな権力を持ってしまった人で「スタッフィングやキャスティングをチラつかせて人をコントロールしてやろう。」とか「制裁を加えて自分の思い通りにしてやろう。」と思ったことが無い人はいないと思います。なぜなら、そのチカラがその立場の人達のチカラの源泉だからです。それがなければ、監督もプロデューサーも、クライアントも代理店も、上の立場にいる事が出来ないんです。

でも、ほとんどの監督もプロデューサーも心の中では思っても、自分の倫理観や自制心が働いて、あからさまにはやりません。それをやったら信用を失うからです。映像業界は良くも悪くも信用で成り立っている業界です。口約束の世界ですから。

あ、クライアントとか代理店とか制作会社とか、そういう会社対会社ではあからさまにやってるんでしょうけどね。下請法違反と感じることもよくありますが。

私も心の中でその権力を使おうと思うことがたまにありますよ。でも私の場合、ずっと同じスタッフでやっている事が多くて、どちらかと言うとスタッフの方々には「トータルで損」をさせている意識が強いので、「大変お世話になっております。」としか言えません。「今回も安い案件ですみません。」「長い付き合いだからやって頂いているのを重々承知しております。」「今後とも末永くよろしくお願いいたします。」というスタンスになるんです。

いやしかし!

自分が権力を持っていることを、かなり意識して行動しなければと思っています。「平林さんのためなら」と言って、安いギャラや厳しい条件でやってくれているキャストやスタッフの方々がいますから。

私の立場で書くと、パワハラの話ばかりになってしまいますね。

それにしても、いまだに権力を使って肉体関係を強要している監督やプロデューサーがいることに驚いています。キム・ギドク事件を知らないんですかね。知ってても欲望を抑えられないのか。表沙汰になったら、映画業界のみならず強烈な社会的制裁を受けます。

それでもそんな性被害があとを絶たず、それを防止する方策すら作られてないのは、映画業界に多くの加害者がいるからなんでしょうか。かつての加害者が、業界の重要なポジションにいて、弱みを握られているからなんでしょうか。映画会社や映画スタッフのいろんな協会や団体から声明が出されないのは何ででしょうか。映画業界が小さい業界で、みんな知り合いだから言えないってのもあるんでしょうか。権力に対しては威勢よく声明を出すのに、そういうところが本当にダサい気がします。

私が映画業界と利害関係が無いから言いたいことを言えるんだと思いますが。そういう意味でも、脚本家の港岳彦さんのアクションをしっかり支持したいと思っています。私なんかとは比べ物にならないリスクを取って行動したんですから。

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