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ショートフィルムは聖域

先日、パップコーンの松谷さんと食事をしました。まあ、飲みに行ったんですけどね。今度、松谷さんがショートフィルムを作るんですが、その相談的な飲み会だったんです。

そこで松谷さんが「ショートフィルムは聖域」と言っていてすごく驚きました。私は20年ぐらいショートフィルムを作って来ましたが、「ショートフィルムは聖域」という視点が全く無かったからです。

「ショートフィルムは聖域」というのはどういう事かと言いますと、映像表現でショートフィルムだけ、お金が絡んでおらず、権力者への忖度もいらないメディアという事です。

例えば、長編映画は出資したお金を回収するのが前提のビジネスなので、誰が主役で誰がテーマソングを歌って誰が監督でみたいなのは、儲かるか儲からないかを基準に選ばれます。お金です。(乱暴に言ってすみません)

例えば、CMはクライアントがお金を出してクライアントのメッセージを伝えるメディアです。100%ビジネスでお金で忖度の塊です。(乱暴に言ってすみません)

例えば、ミュージックビデオはミュージシャンの曲が売れるために作られる映像です。プロモーションビデオとも言いますからお金です。(乱暴に言ってすみません)

例えば、YouTubeは再生回数がシンプルにお金になりますから、再生が回るような企画をして編集をします。まさにお金です。(乱暴に言ってすみません)

例えば、テレビ番組やテレビドラマはスポンサーのお金でスポンサーの意向に反すること無く作ります。視聴率が稼げるように有名人を出します。芸能界とメディアはがっちりスクラムを組んで、TVというメディアをお金に変えています。(乱暴に言ってすみません)

しかし!

ショートフィルムはお金とは無縁なんです。作りたいから作るんです。そして、作りたいように作れるんです。誰にも遠慮せずに、誰にも忖度せずに、作りたい表現を作れるんです。まさに「ショートフィルムは聖域」だと思いました。

逆に言えば、「ショートフィルムはお金にならない」とも言えます。私もいろいろな若者から「ショートフィルムをマネタイズをしたいんです!」と相談されて来ましたが、遠い目をして「無理でしょうね…」と言ってきました。だって、単純に計算してみたら無理なのが分かります。分かりすぎるぐらいに分かってしまうのです。1本5万円で上映の権利を売れるかも知れませんが、そんなのはマネタイズとは言いません。心付けみたいなものです。飲み会をやったら終わりです。

そのショートフィルムの最大の弱点によって、いつの間にかショートフィルムだけが、作家が純粋に表現出来る「聖域の」メディアのとして残ったんでしょう。誰も見向きもしなかった不便な土地に絶滅危惧種(1A類)が生き残っていた様な、そんなイメージですね。

そんな視点でショートフィルムを見ると面白いですし、もっと大きな可能性を感じます。ショートフィルムこそ「作品」と言ってもいい映像なんですよ。

そしてもっと突っ込んで言うならば、ショートフィルムは永遠のアマチュアリズムなんです。プロのショートフィルム監督はほぼいません。プロのショートフィルム監督というのは、ショートフィルム制作だけで生活している監督のことです。奇跡的な環境でプロ足り得ている人が、世界のどこかにいるかも知れませんが、そんな人はシーラカンスみたいなものです。いろいろな奇跡が重なって生存しているんです。そういう人は、短編アニメーションを作っている作家が多い気がしますね。アニメーション映画祭を活動の軸にして、その作家の次回作が映画祭で待たれている作家です。

ショートフィルムはアマチュアリズムなので、アカデミー賞やカンヌ映画祭の短編部門もアマチュア世界一という事になります。軟式の世界一なんです。軟式だからこそピュアでいられるんです。世界一になっても栄誉が手に入るだけで、巨万の富は手に入りませんから。

そしてショートフィルムのすごいところもそこなんです。近所のお爺さんが「適当に作ってみたら面白いのが出来たんだよ」と言って出来た作品が、世界一になる可能性があるんです。ショートフィルムは映画祭にエントリーするのに資格はいりません。そして、映画祭をどんどん勝ち抜いてしまうと、最後の最後にはアカデミー賞を受賞してしまうんです。本当に公平で透明な道が開かれているんです。

長編映画ではそうは行きません。アカデミー賞では水面下のロビー活動が必要ですし、カンヌ映画祭で上映されるには、カンヌ映画祭に強い配給会社と組まなければなりませんし、近所のお爺さんが作った映画がアカデミー賞を受賞したり、カンヌ映画祭で上映されることは100%あり得ないんです。何重ものプロのフィルターを通らないと到達出来ないんです。

しかし!

ショートフィルムはその門戸が開かれているんです。誰にも平等にです。死ぬまで長編映画を作り続けることは、極限られた一部の人しか無理ですが、ショートフィルムはそれが出来ます。極端に言えば1人で作れますから。

だからショートフィルムをライフワークにしたら素敵な人生になると思うんです。60歳や70歳からショートフィルムを作り出したっていいんです。それを映画祭に出して選ばれたら、その国に行けばいいんです。単なる海外旅行じゃなくて、自分の作品の上映を見に海外に行けるんですよ。そんな素敵な老後ありますかっての!

『65歳からのショートフィルム』ってタイトルの本が書けそうな気がします。ショートフィルム制作がいかに人生の後半を充実な日々にしてくれるかという本です。映画の制作はコミュニティづくりが大事で孤独の防止にもなりますし、完成した時の喜びで若返りホルモンが放出するでしょうし、外国人の視点を考えながら作る工程は、脳の神経細胞の新しい連結を生み出すはずです。やっぱり私は書くのが面倒くさいので誰か書いて下さい。

いや本当に高齢者のショートフィルム制作ブームが来ても不思議じゃありません。今はスマホで撮れますから。ショートショートフィルムフェスティバル&アジアに、25歳以下を対象にした「アンダー25」という部門があるんですが、それの高齢者バージョンの「オーバー65」部門を作って欲しいものです。

まさに「聖域」だからこそ市民が参加出来るのがショートフィルムなんです。

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