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オーディションはつらい

映像のディレクターを20年ぐらいやってますが、いまだにオーディションには慣れません。人間関係のナーバスな空気が流れている感じが苦手でして。

今までものすごい数のオーディションをしてきました。人間から動物まで。

通常の仕事では、「キャスティング」と呼ばれる人にお願いすると、複数の事務所に連絡してくれて、事務所所属の人がオーディションに集まります。キャスティングの人を入れられるお金が無い仕事の時は、個別に事務所に連絡していくこともあります。それでもやっぱり、事務所に所属している人しかオーディションには来ません。事務所に所属しているメリットは、オーディション情報が入ってくる事も大きいんじゃないかと思います。仕事の場合。

去年作った映画『Shell and Joint』では、初めて出演者をネットで公募しました。最初は公募してオーディションで選ぶことに、ものすごく抵抗がありました。「よろしくお願いします!」って頭下げてるのに、次の瞬間「あなたは落選しました」なんて言えないと思いました。悩みに悩み、それでも新たな出会いがあるんじゃないかと思い、でネットでの公募に踏み切りました。

すごくこっちの勝手な条件を書かせて頂いたのにも関わらず、300人以上の方々から応募いただきました。いつも仕事で接することのないフリーの方々からの応募が本当にたくさんありましたし、演技なんかやったことの無い人たちからもたくさん応募がありました。

仕事のオーディションだと、何度も何度も同じ人をオーディションしたりします。仕事によって合う合わないはあると思いますが、「あ、またこの人を落とさなきゃならない…」と思ったりします。その人が悪いんじゃなく、その仕事にはまらないだけなんです。優しいお父さん役のオーディションに、イケメンのホスト風の方が来ちゃう感じでしょうか。

私がやっている仕事は、クライアントがいる仕事ばかりなので、大冒険はしません。経験から「どうせ通らない」というのを知ってしまっているからでしょう。「お前もつまらない大人になったな」と言われそうですが、何度も何度も大冒険して却下されてきてるので、これは本当なんです。ここ数年、圧倒的にクライアントの立場が強いので、クライアントの求めている人から大きくズレた人を持っていく事にリスクすらあります。「キミらわかってないね」と言われたら終わりなんです。

『Shell and Joint』のオーディションに話を戻します

『Shell and Joint』ではまず書類選考をさせて頂きました。まずは書類の隅から隅まで読みます。経歴や写真がわかりずらい人は、ネットで検索しまくりました。「ネット検索班」というのを作って、情報が足りない人の情報を検索しまくりました。横顔しか写ってないプロフィール写真の人の、正面の顔を探したりしました。動いた姿を見たい人の動画も探しました。Facebook、Twitter、Instagramもチェックしました。現代のオーディションは情報戦でもあるのではないでしょうか。検索して情報が出てこない人は、「いない人」のように扱われてしまいます。これは監督やスタッフも同じです。

たくさんの書類を見ているうちに、書類選考に通る人と通らない人の書類の違いが分かってきたりもしました。一番強いのは、その人が出演した作品を、私やプロデューサーがすでに見たことがある場合です。そして、その人の印象が強く残っていた場合はさらに強いです。有名な監督や厳しい監督の作品に出ているのも、ものすごく強いと思いました。「あの監督のオーディションを勝ち抜いたのか」という風に見えますので。

あとは、映像になった時にどういう風に見えるかが分かるプロフィール写真の人も残りやすい気がしました。例えば、逆光の中、髪の毛が一瞬フワッとなった瞬間の写真は、フォトジェニックではあるけれども、映像になった時の姿が全くイメージ出来ないのであまり良い印象を残さないと思います。意外と会話をしている瞬間の写真なんかを、プロフィール写真の「その②」あたりにする作戦はありなんじゃないかと思いました。「会話をしている表情はオーディションで見ればいいだろ」と言われそうですが、書類で通らないとオーディションまで行けないですから。

そして、私が心を動かされたのは自己PRの文章でした。プロフィール写真とか経歴なんか関係なくです。私は自分のPRがすごく下手という自覚があるので、とても勉強になりました。「今回の作品にはこういう姿勢で取り組みたいです」と書くよりも、その人にしか書けない事を書くのが良い気がしました。作品について言及すると、相手の土俵に上がってしまいますので。『Shell and Joint』では、SMの女王時代の客の性癖の話や、大きな病気をした事を書いていた方がいて、シンプルに、会って話をしてみたいと思わされました。

逆に自虐は最悪な結果につながる気がします。プライドや恥ずかしさから自虐的な事を書く方もいますが、自分からダメだと言っている人を採用する人はいないでしょう。

実際のオーディションには100名ぐらいの方に来て頂きました。本当につらいのはここからです。わざわざ足を運んで来てもらったのに、「落とす」などという事をしなければならないからです。挨拶をして、目を見て、笑顔で会話をした人をですよ。日本人が一番苦手なやつです。そういうハッキリした判断をしなければならないのは、本当に嫌です。

でも、実際にお目にかかってみると、あとは「タイミング」と「流れ」と「運」みたいなもので決まってしまう気もします。

『Shell and Joint』には50〜60の配役がありましたが、例えば、20代男子の役はすごく少ないんです。だからものすごい競争率になってしまい、選ばれない人がたくさん出てしまいました。あるいは、すごくいい役者さんなのに、今回の映画にはまる配役が無い、という方も多かったです。

でも、私たちは小さな仕事をいっぱいやってますので、『Shell and Joint』のオーディションで残らなかった方の中から、何人もの方に他のお仕事をお願いしたりしています。本当に小さい仕事ではありますが。

そういう意味でも、『Shell and Joint』のオーディションは、本当に財産になるほどのいい出会いがたくさんありました。

それにしても、オーディションは精神的につらいなあと、しみじみ思います。

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