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ハゲをジャッジする係をおおせつかった私


その話は耳が痛いからしないで!という方には大変申し訳ない話題かもしれないが、私はある人がハゲた際にはそれを本人に告知するという大役をおおせつかっている。ハゲのファーストオピニオン担当だ。

「俺、ハゲたら絶対に坊主にするからさ。俺が気づいてないとこからハゲ始めてたらほんと遠慮なく言って!すぐに坊主にするわ」


ある知り合いにこう宣言された私。
え〜そんな大役(というかプレッシャーのかかる役)やりたくないよ!と言うも「いや大丈夫。怒らないし、傷つかないから。知らないうちにハゲてて、気を使われて誰にも言われない方が絶対嫌だからお願いだから言ってくれ」と切望されてしまい、目上の人ではあったがフランクな関係で無礼講というか仲も良かったため「じゃあ、わかった」と断りきれずに責任重大な大役を任されてしまったのである。

とは言っても、彼は現時点ではかなりフサフサだ。
しかもちょっとくせっ毛っぽい感じでウェーブがかかっているので、ボリューミーにも見えてそんな懸念は当分しなくてもよさそうではある。

いや、あったのだが。

私は先日、たまたま一緒に外を歩いている時に気づいてしまった。
日差しが眩しくてそう見えたのかもしれない。外だったし、たまたま風が吹いて髪型がちょっと乱れただけかもしれない。そこがつむじで偶然そう見えただけかもしれない。
でも...もしかすると...これは...。


どうしよう。
そんな日が直近で来ることなどないだろうと思っていた私は、たまたま前を歩いていた彼の頭を眺めながら心を震わせていた。
これは、私の出番が来てしまったということなのだろうか...。
いやでも、わかってはいたが、とてつもなく言いづらい。
どうしよう。彼を傷つけることにならないだろうか。


そんなことを思いながらもやはり決心がつかず、気のせい気のせいなんてやり過ごしていたのだが、その数カ月後、再び彼に会った時に私は確信してしまった。

これは、やはり、その時が来ている気がする......。


彼の後頭部には、あの冗談だと思っていたやり取りを本当に遂行しなければいけないタイミングがどうやら訪れてしまっているようだった。
しかし、最初に言っていた彼の言葉を思い出して私は決心する。

「いや大丈夫。怒らないし、傷つかないから。知らないうちにハゲてて、気を使われて誰にも言われない方が絶対嫌だからお願いだから言ってくれ」

そうだよね。
むしろ私が言いよどんでいたこの数ヶ月でそれは進化(進行?)してしまったかもしれない。
このままでは彼が一番嫌だと言っていた状況になってしまう。それを防ぐために、私はこの役を担っているのだった。
あぁ、なんて責任のある大役を任されてしまったのだろう。


安請け合いしてしまった自分にちょっと後悔しながらも、言っても気まずいし、言わないと責められてもおかしくない状況になってしまったのであれば、私は責務を果たさなければならない。

にしても、どんな調子で言えばいいものか...。
深刻な感じで言うと、彼もびっくりしてしまうかもしれない。
ちょっと冗談っぽく、軽い感じで言ってみた方がいいだろうか。

そう考えた私は、終始明るい口調で思い切って口を開いた。

「ね、ねぇねぇ!前にさ、ハゲたら言ってって言ってたよね。今一瞬思ったんだけど、もしかしたらね...その時が来たかもしれません!ぱぱーん!」


違ったか、と思いながらも気まずさに負けておどけながら客観的事実をお伝えする私。

「えっ!ほんとに?」

「うーん、わかんないけど...私の方が背が低いから位置の問題?かもしれないけどちょっと今後ろから見てふと思ったり...思わなかったり...」

謎のフォローを入れつつ、もごもごと言う。

「うわー。えー!? ちょっと、写真撮ってよ写真!」

びっくりしながらも、事実確認をしたかったらしい彼は私にそう言った。
な、なるほど...。

私は携帯で彼の後ろ頭を撮り、再び明るく言った。

「こんな感じ〜。どう?」

「.......。」

「その時が来ちゃいましたかね?...坊主デビューしちゃう?」

「…いや、これは分け目だよ!大丈夫!ハゲてない!」


なんてこった。
まさかの「認めない」というパターンのルートが待ち受けていた。
いや、確かに私の言い方がいけなかったのかもしれない。もしくは、もっと前に一度写真を撮っておいて見比べられるようにしておいた方がよかったかもしれない。だがしかし。
ここ数ヶ月、おそらく彼よりも彼の後頭部と向き合っていた私の目は「いや、これは多分分け目ではない...」と言っている。


潔く坊主にすると言っていた彼から予想外の返答が返ってきて私は動揺した。これは真剣にもう一度言うべきなのだろうか。
でも、彼の反応を見るに、おそらくこれはどう伝えても分け目になってしまう気がする。一体何が正解なのだろうか。

そうだよね、分け目かぁ〜ごめんごめんと言うべきなのだろうか。
それとも「目を覚ませ!これは、ハゲだよ!」と両肩をがっしりと掴みきちんと告げるべきだろうか。
しかし、仲が良いとはいえ言うても目上の方である。


本人が告知されることを希望したと言っても、いざ現実に直面するとそれを認めることができないということもある。いや、それがまさに今現実で起こっている。
そんな状態の彼に追い打ちをかけるようにハゲてるハゲてると繰り返し言うべきなのだろうか。

正直悩みすぎてこっちがハゲそうだ。
変なカルマを背負ってしまった。いっそ私も一緒に坊主にでもした方がよいだろうか。
私はまじまじと携帯を見つめる彼を眺めながら、考え込んでしまった。

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