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【試し読み】陰鬱な私にママ友ができるまでの百五十六ヶ月

文学フリマ東京38で発行のエッセイ『遅く起きた朝は……』より、
一部試し読みとして抜粋します。



「ねぇ、ママ友作るのに、ママ名刺っていうのを配る人がいるんだってさ!」という話を聞いたのは、二十代で新宿のバーでバイトしていた時だった。
ある日何かの話の流れで、店長が話し始めた。

「ママ名刺?なんですか、それは?」「なんか小さい名刺を作っておいて、連絡先とか自分と子供の名前を書いておいて、公園とかで仲良くなった人に配るらしい。」「へぇ~、なんかめんどくさそうですね!」「そうだよね~!」

本当に面倒くさそうだという気持ちと、当時は出産とか子育てとかはまだ自分にとっては他人事だったため、その辺で会話を終わらせた。(と思う。確か。)
 

ママ友に関して、元々良いイメージは無かった。
当時は、メディアでもママ友いじめなどハードな話題が出ることが多かった。それにすっかり影響されて、なんだか大変そう…とマイナスのイメージだった。

それに、育児中の子に「ママ友が〜」など話されると、子供がいない自分には入れない世界を知っているんだ……と、さみしい気持ちになった。既に育児をしている友人は当時数名いたが、違うステージに行っちゃったなー、と、一線を引いた気持ちで見ていた。
「大変そうな人間関係」と、「自分は入れない世界」の両方の側面から、良いイメージは無かったのである。
 


時は流れて四、五年後。大田区のとある団地に、〇歳の赤子と、丸々一年産休と育休をゲットし、時間を持て余す女がいた。私だ。
 
育児疲れで若干鬱っぽかった。実家までは片道二時間ほどかかったし、夫は仕事で不在が多い。近所に友達はゼロ。気晴らしをすることは難しかった。

少ない友人はだいたい皆働いていた。会う約束をしたとしても、ベビーカーをひいて移動したり、赤ちゃんを連れて入れる店を探すのがとても億劫だった。入っても赤ちゃんが泣かないか心配になって話に集中できないし、寝不足と授乳による貧血でいつにも増してボーッとしていた。せっかく友達を呼び出しても夜遅くまでダラダラ飲むとかできないし、頭も回ってない状態で会話するのも悪いな、と思っていた。
 

「近所に、気軽に話せる人がいたら良いのでは?」「それはつまり、ママ友では?」
そう思い、育児サークルを探すも、〇歳児から入れるところは思いの外無い。
まだママ友の揉め事ドラマを引きずってもいたので、
「もし上手くいかなくなって揉めたら気まずいから、とりあえずうっすらとした人間関係を目指そう」と、児童館に向かうようになった。
 
 

突然なのだけど、私は人間関係で沢山失敗している。多かれ少なかれ皆さんそうかもしれないが。

特に二〇代の時がピークだった。もう勉強したくないと大学を中退したのだけど、この時複数の人から「辞めないでよ」と電話がかかってきて、大変疲れた。
中でも「親に申し訳ないじゃん 」という意見には、大変疲弊されられた。親に申し訳ないというのは、まず当事者の私が真っ先に思いつくことであって、それを踏まえて辞めるって言ってるのだから、なぜ第三者がまたぶり返してくる?と、とても面倒だったのだ。

小さい時から人と話すより一人でボーッとしていることが好きだったけれど、この時期のことがあって、人間関係が本当に嫌になった。
 
 
人付き合いが嫌だったので、接客業ばかりしていた。何故かというと、「普通の仕事」に就くと業務+人間関係が発生し、二重の疲れを負うからだ。

接客業なら「人間関係とそれに付随する業務 」となり、人間関係のメインが大きいのではと考えた。
しかも仕事での人間関係なので、とにかく相手のことを考えて喜ばすことが出来れば仕事として成功なのではと思ったのだ。

浅はかだが、それしかできなかったのだ。
 
そんな浅はか人間にも、友人は少し残ったりできたりした。
でもたまに、「なんか、いつも一線引いてるね」ということを言われたりして、自分でもどうすればいいかわからないと思っていた。
 
そんな風に、長らく人間関係に消極的になっていたのだが、ママ友がほしいなという気持ちになっている自分に驚いた。出産のとき胎盤とともにネガティブも少し排出されたのだろうか。

ただ、一気にスイッチを切り替えることは難しかった。
「ママ友が欲しいな」という気持ちと、「めんどくせぇな」「何話したらいいか分からねぇな」「何をもって仲良くなるのか分からねぇな」


「こっちは楽しいと思って話していても、あっちは聞き役になってくれてただけで、同じく楽しいと思ってるとは限らないからな」などの気持ちが混在していた。




以上が試し読みになります。
この後、ママ友を作るための試行錯誤や自問自答が延々と続きます。
何卒よろしくお願いします。

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