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【試し読み】育児と母親のうんこについて

2024年文学フリマ東京38で発行のエッセイ『遅く起きた朝は……』より、
一部試し読みとして抜粋します。



子供を妊娠してから、大変な目に沢山あってきた。

大学病院で産むことになったのだが、初診では、約三時間待たされた。診察は十分で終了。診察料は三万円だ。

 沢山待ったご褒美に回転寿司にでも寄ろうと思っていたのに、高額な料金にビックリして、「親になるって、大変だな」と、しょんぼりした。

 帰りは、近くのゆで太郎で四百円の蕎麦をすすった。
 

  ただ、もっと大変なことがあった。
それは、「子育てによって好きなタイミングでうんこができなくなり、ひどい便秘になった」ことである。


 
どうか、ページを閉じないでいただきたい。
私の話を聞いてほしい。


まず、それまで便秘に悩んだことが無かった。
どちらかというと、「出すぎて困る」くらいに思っていた。
 

排便リズムとしては、毎日ではないが、三日に一度大量に出るというタイプ。ちょっとお腹が張ってきたなと思うころに出てくれるので、それなりに良い関係(うんことか腸とかと)を築くことができていると、考えていた。
ただ、三日に一度は出てくれるのだが、タイミングは測れないという点が困りごとだった。
便意には、ジワジワタイプと、突発的タイプがある。
「…… なんか、そろそろ出そうかも?」という、そろりそろりタイプと、「十四時の方向、来ました。ウンコです!!ウ~カンカンカン(サイレン)」の蒙古襲来型の二種類だ。
当時の私は蒙古襲来型であった。突然、勢いの良い便意が来るのである。
肉や揚げ物が好きで沢山食べていたので、それが関係していたのだろうか。
 


二〇代後半~三〇代前半の多くはコールセンターで勤務していたのだが、困るのはお客様対応中に便意に襲われることだった。
 「なるほど、さようでございましたか……」など相槌を打っている最中にも、便意はお構いなくやってくる。終話が先か、私のうんこがまろび出るのが先か、チキンレースになってしまう。

 未熟だった頃は早くトイレに向かいたい一心で早く話を切り上げようとしていたが、お客は敏感だ。電話を切ろうとすればするほど、「そういえば、もう一つ聞きたいことがあって……」と、話が続いていく。

コミュニケーションの九十三パーセントは非言語らしい。電話越しでも、こちらの「早く切りたい」は伝わるのだろう。どうせなら対応員のうんこが漏れそうらしいということまで伝わってほしい。

最終的に私が学んだのは、「急がば回れ」だ。丁寧に接すれば接するほど、時間をかければかけるほど、お客様は安心する。「他に、お尋ねしたいことはございませんか?」それが、一番早くうんこに行ける魔法の言葉だ。

 ちなみにパソコンの使い方を教えるコールセンターにいたので、序盤でうんこしたくなった時などは、「そうしましたら解決策をお調べして、折り返しご連絡いたしますね」と一旦電話を切って、走ってトイレへ行くというテクニックをよく使っていた。
 

とにかく、「世の中便秘に悩んでいる女子が多いけれど、私はうんこが出すぎて困るくらいだな。」
「しかし、全く出ないよりはマシだろう。」くらいに考えていたのだ。
 

そんな風に便意襲来をなんとかくぐり抜けていた私。出産直後の股が裂けた状態でのうんこは流石にスリルを感じたが、それ以外特に困ることは無く過ごしていた。
しかし、徐々に異変が起こるようになってきた。
「自分の好きなときにうんこへ行けない」という異変だ。
 




以上、試し読みとなります。

この先もうんこについてつづっています。

何卒よろしくお願いいたします。


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