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興ずるマガジン

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今年の12本目

今年の12本目

今年の12本目、Barbie、観ました。

「もしもバービーとケンが人間世界に行ってみたら?」という映画です。そういう映画の場合、「バービーが自我に目覚める」というオチを予想します。

でも、この映画ではケンの方が覚醒します。添え物でしかなかった彼が男中心の人間世界に感化され、バービーランドを乗っ取りケンダムにしてしまいます。

人形世界が人間的な価値観に侵食され始め、私たちは、「あのユートピアは

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今年の11本目

今年の11本目

今年の11本目、No Man's Land、観ました。

戦争の最前線の中間地帯に取り残された2人。アジアの片隅で暮らす私たちには、彼等のどちらがボスニア兵でセルビア兵なのか、その見分けも付きません。

同じ言語を話し、共通の知人もいる2人が、そっちが先に戦いを仕掛けた、そっちこそと言い争い、銃を向け合います。でも、状況は、あまりに絶望的です。

生き残りのために協力し始める2人。けれど少しの行き

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今年の10本目

今年の10本目

今年の10本目、映画 ◯月◯日、区長になる女。、観ました。

何十万という人が暮らす町に暮らす人は、得てして自分には何十万分の1の存在意義しか感じられません。何をいっても、何をしても、世の中は、変わらない。

そう諦め顔で暮らしています。この映画は、そんな私たちに少しの希望を与えてくれました。地方政治は、私たちの声がより届きやすい場のはずである、と。

でも、そんな興奮もやがて冷め、旧態を批判して

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今年の9本目

今年の9本目

今年の9本目、Boy Erased、観ました。

同性愛者の転向療法プログラムにおいて、性的指向は、後天的選択と位置付けられます。だから人を愛する気持ちも矯正できる、と同性愛者に迫ります。

体を鍛え、「男らしい」所作を身に付け、「誤った」性的指向のルーツを洗い出し、これまでの関係を清算する。それは、洗脳と人格否定でしかありません。

でも、矯正を行う人、受けさせる人、そして受ける人さえ「正しいこ

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今年の2冊目

今年の2冊目

今年の2冊目、星新一著「余暇の芸術」、読みました。

技術革新がめざましく進み、労働時間が短縮された世界。余暇を持て余した人人は、美術や詩や文学等の趣味に没頭し、その発表意欲を満たします。

周りの人間は、付き合いで発表会や展覧会を見に行かざるを得ず、余暇が余暇になりません。増えた余暇によってかえって人人が疲弊してしまう矛盾。

「ああ、なんということだ。つとめ先で午後まであくせく働いていたむかし

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今年の8本目

今年の8本目

今年の8本目、Winny、観ました。

例えば包丁という道具で人が刺された事件で包丁の開発者が逮捕される世の中であれば、開発者が萎縮してしまい、誰も世の中に包丁を送り出さなくなります。

にもかかわらずWinny事件では、違法なアップロードをほう助した容疑でファイル情報交換ソフトという道具の開発者が逮捕されました。

この不当逮捕は、誰のせいなのか。問われて開発者は、いいました。「誰かのせいにすれ

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今年の7本目

今年の7本目

今年の7本目、ANATOMIE D'UNE CHUTE、観ました。

仕事で挫折を味わっている夫は、作家として成功している妻を「お前に人生を奪われた」と責め、妻は、被害者面する夫をなじり、激しい口論になります。

翌日、人里離れた山荘で夫が転落死し、妻に殺人の疑いが掛けられます。裁判では、夫婦の間の確執を切り取った証言や証拠によって妻が窮地に立たされます。

解剖とは「事物の条理を細かに分析してこ

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今年の6本目

今年の6本目

今年の6本目、Jagten、観ました。

私たちの社会は、個個人の心に宿る正義感によって、どうにか維持されています。でも、その種の正義感とは、もろく、不安定なものでもあります。

これは、少女の他愛のない嘘を疑わず、善良な幼稚園教師に「変質者」というレッテルを貼って、制裁という名の暴力を振るう集団ヒステリーを描く映画です。

群衆に芽生えた小さな恐れや疑いによって、善意が暴力に変貌します。「怖いな

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今年の5本目

今年の5本目

今年の5本目、Amour、観ました。

映画は、コンサートホールのシーンから始まります。客席に座る観客が長回しに映り、私たちは、その中に主人公を探します。けれど当然、よく分かりません。

これから始まるストーリーは、この中の誰か、いや誰にでも起こり得るストーリーなのだ、という予感が広がります。

私たちは、もろい生き物で、ある日を境に他人の力を借りなければ命をつなげなくなったりします。そんな時の他

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今年の1冊目

今年の1冊目

今年の1冊目、星新一著「底なしの沼」、読みました。

地球は、バギ星と長く戦争状態にありました。貴重な資源と人人の労力が戦争に費やされ、両星の住人たちは、疲弊し続けていました。

何度か、停戦の試みもありました。けれど、互いの言語や文化を理解できず、誤解と疑心暗鬼の中で交渉は、いつも裏目に出てしまいました。

戦争の大義もなく、戦果も見込めない。「思い切って、こっちが一方的に攻撃をやめてみようか。

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今年の4本目

今年の4本目

今年の4本目、Mio fratello rincorre i dinosauri、観ました。

障害のある兄弟姉妹を持つ人たちは、きょうだい児と呼ばれます。彼等の生活は、きょうだいが中心。親に甘えられない寂しさや、障害に対する恥ずかしさ。

そんなきょうだい児特有の葛藤や悩みを抱えて成長する人も多くいます。この映画も、ダウン症の弟を持つ少年の物語です。

彼は、弟のことが本当に好きなのに、彼の存在

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今年の3本目

今年の3本目

今年の3本目、The Sixth Sense、観ました。

ホーソンは、いいました。「夢にうなされて目覚め、胸をなで下ろすことがある。死んだ瞬間もそのようなものかもしれない」。

いわれてみれば本当にそうで、死後の世界が苦渋に満ちている確証は、今のところどこにもありません。死後の世界の存在すら、科学的に証明されていません。

人が死を忌み嫌う唯一の理由は、それが未知のものだからに過ぎません。それは

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今年の2本目

今年の2本目

今年の2本目、Der Hauptmann、観ました。

偶然の巡り合わせと巧みな嘘によってナチス将校の威光を手に入れた若者が、ヒトラーをも連想させる怪物的な「独裁者」に変貌していきます。

ちいさな独裁者は、身近にもいます。ポストを笠に着て、上層部の意向をほのかに示しながら、それらしく横暴に振る舞う人が。

けれど、独裁者は、1人では決して生まれません。権威を盲信し、あるいは権威がイカサマと知りな

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今年の1本目

今年の1本目

今年の1本目、ゴジラ-1.0、観ました。

ゴジラとは、痛快な怪獣退治の映画である。きっとそんな認識で映画館にやって来た後ろの席の男の子は、退屈して「映画まだ終わんないの?」とグズります。

−1.0は、ただの怪獣映画ではありません。戦争で壊滅的な状況になった日本がゴジラによって更に悲惨な状況に陥る中、立ち上がる人人を描いた映画なのです。

戦争の傷から立ち直り未来を切り開いていく日本人の共通敵と

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