皮膜

今あった話、昔あった話や、今も昔もなかった話。

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1,000記事目

1,000記事目の節目に際して、999の記事を掘り返します。これまでみんなのフォトギャラリーから画像をお借りした皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。 【執する記事】 【物する記事】 【興ずる記事】 【旅する記事】 【抄する記事】 【糊する記事】 【着する記事】 【1記事〜900記事】

    • 堯帝

      堯帝は、古代中国の伝説の皇帝といわれます。ある日、お忍びで町に出掛けた彼は、そこで腹鼓を打ち、地面を踏み鳴らしながら歌う老人を目にしました。 「帝の力がどうして私に関係あろうか」と歌う姿を見て、この賢帝は、「自分が理想とする政治を実現できている」と確信した、といいます。 この故事から生まれた四字熟語「鼓腹撃壌」は、民衆が平和で幸せな暮らしを送っている様子を指し、理想的な政治の形とされます。 人人が政治に関心を抱かず、それを意識せずに、それでも日常が進んで行く。その点でい

      • 京都タワーにまだ大浴場があった頃

        京都タワーにまだ大浴場があった頃、半日だけ京都で過ごす時間を得ました。「何をしようか」。ひとまず駅前でレンタサイクルを借りて町へ繰り出します。 向かった先は、祇園。細い路地を選んで進めば、趣のある町家や老舗の店々が軒を連ねています。表通りとは対照的な静寂と風情に、今更癒されました。 祇園会館の大きさに今更驚き、円山公園の緑に今更心を弾ませ、知恩院の威容に今更圧倒され、平安神宮に至る一本道に今更心を吸われました。 裏通りばかりの京都を満喫した後、旅人ばかりの湯船に身を沈め

        • 今年の12本目

          今年の12本目、Barbie、観ました。 「もしもバービーとケンが人間世界に行ってみたら?」という映画です。そういう映画の場合、「バービーが自我に目覚める」というオチを予想します。 でも、この映画ではケンの方が覚醒します。添え物でしかなかった彼が男中心の人間世界に感化され、バービーランドを乗っ取りケンダムにしてしまいます。 人形世界が人間的な価値観に侵食され始め、私たちは、「あのユートピアは、バービーで遊んできた女たちにとっての逃げ場所だったんだな」と気付きます。 そ

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        記事

          #0205300

          乗客たちは、その夜、不機嫌だった。人身事故の影響で、電車がひどく遅れていた。深夜にもかかわらずホームは、人であふれ、皆、イライラを隠さなかった。 「折角、気持ちよく飲んだ帰りなのに」、「何十分も足止めを食らって」、「明日もまた仕事なのに」、「どうせどこかの酔っ払いの不注意だろう」。 不満渦巻く車内においてもホームにおいても、しかし、事故の犠牲となった「どこかの酔っ払い」に思いを馳せる人は、いなかった。 不快なサイレンが鳴り止み、誰かの子か、連れ合いか、あるいは親かもしれ

          #0205300

          花屋の看板に

          花屋の看板に、今日が母の日と知らされる。何かにせっつかれる思いで、その人に電話をする。特別なプレゼントも、心のこもった言葉も用意していない。 ただ、母の日という日に電話をする。その事実をもってすべて察しろ、という態度を彼女にとがめられず、2人、ぎこちもなく他愛もない話をする。 思い出した様子で、だけど満を持して、彼女は、兄にカノジョができた話を切り出す。「2年も黙ってるなんて」と怒って見せつつ、その声は、弾んでいる。 「まぁ、別に悪いことしてるわけじゃないし」と、変な取

          花屋の看板に

          感染症の流行

          感染症の流行や大規模災害の発生等の非常事態に際して国から地方自治体への指示を可能にする地方自治法改正案が国会で議論されています。 改正案を支持する人は、新型コロナ禍で国と地方の調整が難航した例を挙げて、非常事態時には個別法に基づかない国の強力な指示権が不可欠と主張します。 でも、政権内部や専門家会議との連携が不十分な中、アベノマスクや一斉休校等の政策が場当たり的に決定された過程が検証によって明らかになっています。 中央集権的な指示が混乱を招く例は、枚挙にいとまがありませ

          感染症の流行

          居酒屋のいつものテーブルにAさんと2人

          居酒屋のいつものテーブルにAさんと2人、向かい合って座っています。来月、Aさんは、「自己都合」という理由で退職します。 「どうして退職なんですか」「これからどうするんですか」。聞きたい話は、あります。でも詮索目的の場とも思われたくなくて、黙り込んでいます。 察しのいいAさんは、それとなく心情を明かしてくれます。上司が上司たる仕事をしてくれずしんどかった話。これからのことはまだ白紙という話。 「弱かったからかもしれません」とAさんがつぶやいた瞬間、自分でも思い設けず、泣い

          居酒屋のいつものテーブルにAさんと2人

          出産が間近い

          出産が間近い女性が、クッキーに赤ちゃんのイラストと「産休をいただきます」「ご迷惑をおかけします」の文字が入った産休クッキーの写真を投稿しました。 好意的な反応の一方で、「産休で迷惑掛けるのに幸せアピールかよ」「不妊治療してる人に渡したら一生恨まれるよ」というネガティブな意見も見られました。 知ってる。それは、大して怒っても傷付いてもいない「外野」の人人の妬み・モヤモヤが「〇〇な人に対して不謹慎」という形で噴出する、いつもの構図です。 人は、誰でも、自分なりの理由で生きて

          出産が間近い

          隠岐

          隠岐は、古くは流刑地として知られ、多くの歴史上の人物が追放された場所です。島内には、流人としての彼等の生活をしのばせる史跡が点在しています。 都に戻り名を成した人もいれば、ここで生涯を終えた人もいます。歩きながら、彼等がここで死んだ史実より、彼等がここで生きた日日の方に思いを馳せます。 今一タビ宮コヘ帰ランノ御心ザシフカカリシカド、ツイニハムナシクテヤミタマヒニシ事イトカタジケナク、アハレニナサケナキ世モイマサラ心ウシ。 「この島で、挫折や恨みよりも他の何かの境地に達す

          今年の11本目

          今年の11本目、No Man's Land、観ました。 戦争の最前線の中間地帯に取り残された2人。アジアの片隅で暮らす私たちには、彼等のどちらがボスニア兵でセルビア兵なのか、その見分けも付きません。 同じ言語を話し、共通の知人もいる2人が、そっちが先に戦いを仕掛けた、そっちこそと言い争い、銃を向け合います。でも、状況は、あまりに絶望的です。 生き残りのために協力し始める2人。けれど少しの行き違いが互いの不信を増幅させ、国連の無力やマスコミの偽善と相まって事態は、混乱を深

          今年の11本目

          #2405162

          Hくんへ。 連休は、ちゃんと休めたかな?新しい仕事、新しい人間関係、新しい環境で緊張していたと思うんで、少しは肩の力が抜けていればよいのだけれど。 すごくエネルギーを使った1か月間だったと思います。少しずつ慣れて張り切っている頃かな、それともまだなじめず不安な頃かな、と勝手に心配しています。 連休前と同じペースで頑張ろうとして辛くなる人もいます。この1か月頑張った自分を褒めてあげつつ、もう1度、自分のペースに意識を向けてみてください。 仕事は、もちろん遊びではありませ

          #2405162

          人当たりが良い部類

          人当たりが良い部類に属するJ君は、誰とでも自然に会話でき、周囲を笑顔にします。そんな彼は、けれど、飲み会を苦手とします。理由は、単純です。 「飲み会の席だと、自然、プライベートな話題になるじゃないですか。休日の過ごし方とか、趣味とか、恋愛話とか。僕等の年代だと、特に。 彼氏とデートした話とか、一番盛り上がれる話が、僕にとってはそうではない。ときにはぼやかし、ときにははぐらかし、ときには嘘を交えて。 彼女はいないと答えたり、「彼氏」を「彼女」に置き換えて話したり。そうやっ

          人当たりが良い部類

          ジャズに疎い私

          ジャズに疎い私にマイルス・デイヴィスを聞かせながら、Kがいいます。「タケヤブヤケタみたいな回文が英語にもあるんです。Rats live on no evil star.とか。 liveとevilは互いに相反する存在なのか、それとも裏表の関係にあるんだろうか、とか考え出すと、なかなか哲学的な回文にも見えてきます。 live は生命力、活力、瞬間の美しさの、evil は邪悪、不道徳、破壊的な力のイメージです。そして考えてみると、我我は、2つを併せ持った存在といえます。 この

          ジャズに疎い私

          キラキラした日常

          キラキラした日常、美しい景色、魅力的な人物像…。SNSには完璧に盛られて映える写真が並び、付けられた「いいね」が投稿主の承認欲求を満たします。 「でも、虚飾と現実のギャップに悩み、ありのままの自分を受け入れてほしいと望む人たちが選ぶのが、BeRealというアプリなんだ」とYが解説してくれます。 「アプリから不定期に届く通知から2分以内に写真を撮って投稿する必要があるんで、加工の暇がなくて、その瞬間のありのままの自分を共有せざるを得ない。 この制限が逆に新鮮さを生み出すん

          キラキラした日常

          隠岐へ向かう

          隠岐へ向かうフェリーに乗り込んだ乗客たちは、さっさと床に寝そべって眠ってしまい、旅人である私たちは、「なんてグウタラな人たちか」と憤慨しました。 でも、強風と高波にあおられてやがてフェリーは激しく揺れ始め、私たちも彼等を見倣って寝そべりました。寝そべりながら、ある歌のことを思っていました。 それは、天皇の怒りに触れて隠岐へ流刑される男が京の都の人人に送った歌です。遠く離れた孤島へ渡っていく心細さと孤独を、彼は、釣り舟に託しました。 荒れ狂う海を前に、その小さな釣り舟は、

          隠岐へ向かう