カバー曲 解釈者
※2022年1月に公式LINEにて配信されたコラムを編集し再掲したものです。
親愛なる友だちへ、ひねもです。
新しくレパートリーに加わった” ユー・ガッタ・ムーヴ”の選曲、解釈、歌詞、演奏について書こうと思う。
カバー曲とは?コピーとカバーの違い。
世界三大ギタリストの1人であるエリック・クラプトンがカバーについてのインタビューで”解釈者”という言葉を使っていたらしい。
これを聞いたときに まさにそれだ! と思った。
誰かが作った楽曲を演奏する場合、大きく分けてコピーとカバーの2種類がある。
コピーは文字通り複製である。
原曲を楽譜通りに出来る限り忠実に演奏する。
それに対してカバーは原曲に自分のテイストを加えてアレンジするやり方。
・・・と思っていた。
しかし自分の中でいまいちしっくりこない。
そうして長年悩んでいたが”解釈者”というワードを聞いて納得できる部分が増えた。
“原曲を自分らしく解釈し、更に新規軸を与えていく”
それが自分にとってのカバーなのだ。
もちろん表現の方法は1つではないので、ミュージシャンの数だけカバーの方法、意味合いはあるだろう。
解釈者がカバーの全てではないが、僕がやっている事はおそらくこれに当たる。
カバーのやりかた
僕の特徴としては洋楽のカバーでも日本語詩を多く使うようにしている。
出来る限り原曲に沿わせていくが、オリジナルの言葉も入れていく。
演奏に関しては新たな音やフレーズを入れる。
代表例
ひねもす大臣&The HouseRockersの解釈カバーでお馴染みなのは
”one bourbon,one scotch,one beer”
だと思う。
原曲はエイモス・ミルバーン(1953年発表)
だが、演奏はジョン・リー・フッカー(1966年発表)のバージョンを参考にしている。
なので僕のバージョンはジョンリーのカバーとしている。
ちなみにエイモスのオリジナルは”One Scotch, One Bourbon, One Beer”で登場する酒の順番が違う。
なぜかはわからない。
ジョージ・サラグッド(1977年発表)のバージョンも有名だ。
日本では吉田類(2016年発表)によるカバーが有名。こちらはタイトルからするとエイモスのカバーだ。
歌詞の大部分が日本語のオリジナルに置き換えられている。
ひねもす大臣&The HouseRockers(2019年発表)のバージョンはこちら。
演奏はジョンリーをベースにしつつ、オリジナル要素も加えている。
原曲の歌詞は
で、僕のバージョンの和訳はサビ部分はそのまま。
メロ部分はオリジナルの言葉でつくっている。
サビは原曲のままにするのが他楽曲でも見られる僕のカバースタイル。
“ワンバーボン・ワンスコッチ・ワンビアー”を例えば“日本酒・焼酎・どぶろく”とは歌わない。
本題”ユー・ガッタ・ムーヴ”の選曲
まず選曲の経緯について。
元々はザ・ローリング・ストーンズのカバーをやりたいとずっと思っていた。
しかし”ジャンピン・ジャック・フラッシュ”や”ブラウン・シュガー”など有名曲は多くのミュージシャンが既にカバーしており難しい。
少し捻って”リップ・ジス・ジョイント”か”ドゥーム&グルーム”が良いのではと思い作業を始めた。
しかし途中でザ・ルースターズとシーナ&ロケッツがそれぞれオマージュをしている事が判明し断念。
“ハング・ファイアー”も候補に出た。しかし捻りすぎでは…とやめた。
また同時期に頭の中にあったのが”ボ・ディドリービート”の楽曲をやりたいという気持ちがあった。
しかし既にボの楽曲から”ロード・ランナー”をレパートリーに入れており、またボをカバーするのもちょっと違うなと。
・古いブルースのカバーを増やす
・ストーンズのカバー
・ボディドリービート
と頭の中に様々なアイディアは転がっているがなかなか結びつかない。
そんなあるときストーンズの”ラヴ・ユー・ライヴ”を聞いていたら“ユー・ガッタ・ムーヴ”がスタジオテイクとはまた違った雰囲気を持っていることに気付いた。
“ユー・ガッタ・ムーヴ”は伝統的なゴスペルソング。
様々なバージョンがあるが音源としてはトゥー・ゴスペル・キーズ(1945年発表)がおそらく最も古い。
ミシシッピ・フレッド・マクダウェル(1965年発表)のバージョンが有名。
ストーンズのスタジオアルバム”スティッキー・フィンガーズ”に収録されているバージョン(1971年発表)はフレッドにかなり忠実。
しかしライブバージョン(1975年録音/1977年発表)だとさらに源流に近いゴスペルの雰囲気が強調されている。
ストーンズから遡ってフレッドのバージョンに触れたのでスライドギターブルースのイメージを強く持っていた。
しかし元々はゴスペルソングなのである。
この曲を演奏しているミュージシャンを出来る限り調べてみた。
シスター・ロゼッタ・サープのバージョン(1947-1950年頃)もまた雰囲気が大きく違う。
そして辿り着いたエアロスミスの古典カバーアルバム“ホンキン・オン・ボーボゥ“(2004年発表)に収録されているバージョンが物凄かった。
なんとボ・ディドリービートでやっていたのである。
探っていったらブルース、ストーンズ、ボ・ディドリービートと別々のアイディアがハマって1つになった。
演奏の構築
エアロスミスのバージョンはハードロック的アプローチが凄まじい。
演奏時間は5分32秒もある。
まるでトッピング全部載せコッテリ家系ラーメンのような内容だ。
もちろんそれはそれで素晴らしい。ハードロックの美学だ。
しかし自分のバンドでやるには削ぎ落としが必要だった。
ボ・ディドリービートで演奏するというアイディアはそのままにし、出だしはフレッドとストーンズのバージョンを参考にシンプルに作った。
そのためハーモニカと歌から始まる構成になっている。
演奏時間もギターソロ込みで3分半くらいとコンパクトにまとめてることができた。
歌詞の構築
まず大前提としてブルースは3行詞で成り立っている。
あくまでも基本的にはというだけで、文化形成初期から現在までそのフォーマットに乗っ取っていないブルースも多々ある。
これは演奏の場合だとブルース進行やAAB形式、またはスリーコードと呼ばれる。
“ユー・ガッタ・ムーヴ”は歌詞も演奏もオーソドックスなブルース進行。
簡単に言うと3回目にオチがくる作詞方法だ。
英語ができない僕は翻訳ツールと他者の和訳を参考にさせていただいて雰囲気を掴む。
そこに自分の解釈を載せていく。
英語を日本語に置き換える。
それをメロディに乗せる。
この作業には制約が多い。
基本的にオリジナルの英歌詞より文字数を少なくする必要がある。
”ユー・ガッタ・ムーヴ”の”ムーヴ”は
“動かねば“
“動け”
“動きなさい”
もしくは
“行かねば”
なのか。
その場合は“いく”
“逝く”
“往く”
なのか。
どうとでも解釈ができるので難しい。
霊歌であるから宗教的な内容だ。
主(神様)が準備をしたら行かなくてはならない
主が用意をしたら動かねばならない
という事らしいとはわかる。
しかし、何を、何処へ、どうして、どのようにかは信仰のない僕にはわからない。
出来ることならば平仮名で“いく”としたいが音楽は文章ではない。
歌で平仮名のニュアンスを伝えるのは難しい。
この曲の肝はこの余白部分にあり、聞き手次第でどうとでも取れるのが魅力だ。
余白を作りたいので和訳をせず原曲のままにした。
しかし解釈を定めないと3回目オチ部分が作れない。
“Oh, when the Lord gets ready〜”をどう訳すか半年近く悩んだ。
2020年秋に製作し始め、2021年の6月に初披露。
随分と時間がかかった。
含みを持たせた日本語でどうメロディに乗せて意味を繋げるか。
僕が日本語でやるならば5文字&5文字でしか使えない。
最終的には
”夜(よ)が明ける そのときに”
と解釈した。
全歌詞はこちら
”ユー・ガッタ・ムーヴ”をどう捉えるかで”夜が明けたら”の意味合いも変わってくる。
それが希望なのか絶望かは聞く人によって違う。
他部分には”主よ”を含みにしたフレーズを少しずつ入れた。
僕は聖書を読んだことがなく、日常で崇拝する対象を持っていない。
そのため”主”を深く理解することが出来ない。
なので宗教的なアプローチはやめた。
自分の中で解釈の軸としたのは”ムーヴ”に対しての”アクション”である。
それは肉体、精神どちらも。
また、いつでもどんなときでも。
神や女神は自分を見ているだろう。
夜が明けたらまた歩き出そう
音楽に合わせて踏み出そう
と、そんな考え方で作成した。
ライブで2回しか披露できておらず、まだまだ発展途上中の演奏なのですが聴いてもらえたら嬉しいです。
音源化はまだしていませんが2021年発表(仮)とします。
ブラザー、シスター、準備ができたらそのときに。
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