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2024年5月に開催見込みの日中韓サミット及び日中首脳会談における主要な論点と日本の立場

こんにちは。初投稿です。
現在、中国・北京にて大学留学をしている三浦といいます。

先日、中国人のとある知り合いに頼まれ、今月末(2024年5月)に開催される見込みの日中韓サミットについて、私自身の視点を含めつつその主要な論点と日本の立場をまとめました。

その知り合いの要求に基づいて、内容は基本的には《令和6年版外交青書(外交青書2024)》に依拠し、浅く広く包括的に問題を取り上げるようにしました。。

以下、知り合いに送った文章のコピペです。
中国人の知り合いに向けた送った個人的な文章であり、もともとは中国語で記述したものの日本語訳であるため、ところどころ表現がおかしくなっている箇所があるかもしれません。

※内容は5/10までに発表された情報・報道に基づいています。
※表紙写真は外務省 第八回日中韓サミット(https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page4_005530.html)より!


 2024年5月に開催見込みの日中韓サミット及び日中首脳会談における主要な論点、日本の立場

※本文は《令和6年版外交青書(外交青書2024)》[1]の内容に基づき、その内容を整理して紹介しつつ、各報道資料などの内容も参考に、日中韓サミット及び日中首脳会談についてその主要な論点について記述していく。

日中韓3か国は、2024年5月26日~27日にソウルにて首脳会談を開催する予定である[2]。3か国での首脳会談に合わせて、2か国間での首脳会談も行われる見通しだ。会談には、岸田総理と中国の李強首相、韓国の尹錫悦大統領が出席すると見込まれている。

日中韓サミットは2008年以降3か国の持ち回りで定期的に開催されてきたが、徴用工問題・慰安婦問題に端を発する日韓関係の悪化やパンデミックを背景として19年の第8回開催以降は開催が途絶えていた。その後、22年に岸田首相と尹大統領との間で日韓首脳会談が行われ、日韓関係の改善の兆しが見出されたことをきっかけに、3か国協力の強化にも再び焦点があてられることとなった。23年11月の日中韓外相会合にて日中韓首脳会談の早期開催が合意され、今回の首脳会談実現に至る[3]。

日中韓首脳会談が開催されなかった4年半の間に東アジアの国際関係は大きく変化した。北朝鮮の脅威や中国の軍事力増強を背景として日韓両国は接近し、米国を中心として軍事的な連携を強化している。中国側はこの日米韓の安全保障面での連携強化を対中包囲網として警戒している格好だ。

上記のような背景の中、5月の日中韓サミットでは、23年11月の外相会談での成果[4]をもとに(1)人的交流、(2)科学技術、(3)持続可能な開発、(4)公衆衛生、(5)経済協力・貿易、(6)平和・安全保障の主要6分野において三国間協力促進に向けた議論が行われる予定だ。

以下、本文では《令和6年版外交青書(外交青書2024)》や各報道資料等その他資料を参考に、まず日中韓首脳会談および日中会談における主な争点とそれらに対する日本の立場を整理・検討していく。次に、外交青書の内容の一部をピックアップして紹介しつつ、今後の日中関係について考えていく。

本文では日本側の視点から日中韓サミットでの議論を考えていくこととし、核処理水についての表記を含む語彙の選択や国際関係の認識については日本側の外交資料・報道資料に基づくことを承知されたい。



第1部分:日中韓首脳会談及び日中会談における主な争点と日本の立場


第1部分では、日中韓首脳会談及び日中会談における主な争点と、それらに対する日本の立場について述べていく。

日中韓サミットにおいては(1)人的交流、(2)科学技術、(3)持続可能な開発、(4)公衆衛生、(5)経済協力・貿易、(6)平和・安全保障の主要6分野において三国間協力の促進に向けた議論がなされ、成果文書としてまとめられる見込みだ。特に3か国における建設的な議論が期待されているのは、日本のALPS処理水や円安を背景とした経済協力・貿易の振興に関わる議論、そして北朝鮮の脅威や日米韓軍事協力の強化などを背景とした平和・安全保障に関わる論点である。以下では、上記2点に関して各議論点の概要と日本の立場について述べていく。

日中韓サミットに付随して開催が見込まれている日中首脳会談については、2023年11月の外相会談の内容をもとに考えると、経済協力や人的交流などの促進の必要性に関する再確認などのほか、(1)戦略的互恵関係の強化、(2)ALPS処理水問題、(3)尖閣諸島を巡る情勢を含む東シナ海情勢、(4)邦人拘束に関わる問題、(5)新疆・香港における人権問題などが主要な論点となると考えられる。以下では、各論点に関して問題の概要と日本の立場を簡潔に述べる。

 

1-1. 日中韓サミット

1-1-1. 経済協力・貿易

日中韓サミットにて、経済協力・貿易分野において日本側の焦点となるのは主に以下3点だろう。

 

①パンデミック後の日中韓経済交流の活性化について

5月下旬に開催予定の日中韓サミットは、2019年以降四年ぶりとなり、パンデミック以後初の開催となる。各国が新型コロナの打撃から立ち直りつつある中、首脳会談が経済・貿易交流を加速させることが期待される。

 

②歴史的な円安を含む各国の通貨問題について

歴史的な円安が、アジア各国の金融に影を落としている。2024年5月には日本円は対ドルで160円台に達し、約34年ぶりの安値となった。日本の最大の貿易相手国である中国の人民元に対しては、円は4月下旬に1992年以来の安値に下落し、対韓国ウォンでは2008年以来の安値付近にある[5]。「新たな通貨戦争のリスク」になりうると報じられる中、「日本が単独で介入を続けても効果が長続きする公算は小さい」と見られている[6]。歴史的に見ても、金融危機が地域の安全保障環境を悪化させた例は少なくない。日本としては、三国間で懸念を共有し、地域金融の安定に向けて共同で行動をしていきたいところだ。

 

③ALPS処理水に関わる食料品輸入規制問題について

日本のALPS処理水の海洋放出に関わる食料品輸入規制問題も、科学的根拠や安全性の説明に関して、日本から提起したい重要な問題の一つだ。韓国は処理水について「韓国周辺の海域に及ぼす影響はほとんどない」と発表しており、本件については主に日中間の二国間の課題となっている[7]。本件について、詳しくは以下<日中首脳会談について>内で再度言及する。

 

1-1-2. 平和・安全保障

日中韓首脳会談における平和・安全保障に関わる議論では、以下3点に焦点が当たることが考えられる。以下、日本側の視点をもとに各議論点の争点を整理する。

 

①日韓(日米韓)軍事協力の強化について

2023年の日韓関係の改善とそれに伴うGSOMIAの復活を経て、日韓、日米韓の軍事協力が深化している。2023年8月にはアメリカ・キャンプデービッドにて、他の国際会議などに合わせた形ではなく単独で開催された形では史上初めてとなる日米韓首脳会合が行われ、三国は「日米韓パートナーシップの新時代」を宣言した[8]。会合終了後には、日米韓の長期的な戦略的協力体制の指針となる「キャンプデービッド原則」、地域情勢に関わる立場や三国の具体的な協力体制をまとめた「日米韓首脳共同声明」などが発表された[9]。両文書を確認すると、日米韓協力の主な焦点は北朝鮮の軍事的脅威に向いており、5ページにわたる「日米韓首脳共同声明」においては「北朝鮮」の名が11度登場し、繰り返しその脅威が強調されている[10]。日米韓は今後首脳級をはじめとした広いレベルにおいて少なくとも年に一度の会合を開くことで一致しており、戦略的協力をはじめとして幅広い分野における連携を強めていく見込みだ[11]。自衛隊と米韓両軍による共同演習も今後毎年実施される見通しである[12]。

一方で、中国は日米韓の連携に対して懸念を抱えている。「日米韓首脳共同声明」においては南シナ海での開発や台湾海峡問題などを例に挙げて中国が名指しで批判され[13]、これに対して中国は反発を強めている。環球時報は日米韓の連携強化を「アジア太平洋のミニ北大西洋条約機構(NATO)」であると批判し、「米国は日韓を束ねて外交、軍事、経済で中国を抑止しようと考えている」とする社説を掲載した[14]。王毅外相は日本及び韓国政府に対して、「アジア再生」のため中国政府と協力するよう連携を呼びかけている[15]。

日韓の緊張緩和と戦略的協力体制の強化、そして日米韓の団結は、前回の日中韓首脳会談以降の4年間における東アジア国際関係の最大の変化の一つである。東アジアの安定維持のためには、日中韓が十分な対話の機会を持ち、懸念や疑念を共有したうえで共同で課題に対処していくことが重要である。今回の日中韓サミットにおいては、三国間の緊張を高めた本件について十分な情報交換が行われることが期待される。

 

 

②北朝鮮問題について

北朝鮮の軍事拡張、核開発の脅威は日中韓三国が共有するところだ。2023年、北朝鮮は18回少なくとも25発の弾道ミサイルの発射などを行い、その内の数発は日本のEEZ内に落下している[16]。2023年、国連安全保障理事会非常任理事国として日本政府はこれらの動きに対して様々な外交ルートや国連安保理を通して一貫して抗議を続けているが、《外交青書》によると「一部の国々の消極的な姿勢により、安保理は一致した対応が取れていない」[17]。東アジアの安全保障における重大な問題の一つとして、日中韓サミットにおいては北朝鮮の脅威に対する対応について十分な議論が行われることが期待される。日本側から中国および韓国政府に向けて働きかけたい事項としては、主に以下の2つがあると考えられる。

まずは、日本政府としては、北朝鮮の脅威に対して三国間での安全保障協力を強化していきたい狙いがあるだろう。上記①にて述べたように、主に北朝鮮を見据え、日本政府は韓国・米国との軍事協力を深化させている。2023年外相会談における日本の外務大臣上川氏の「中国が北朝鮮に対し役割を果たすことを期待する」との発言[18]にあるように、日本としては北朝鮮とより近い関係にある中国との安全保障協力を強化し、日中韓を中心とした東アジアの安全保障体制をより盤石なものとしていきたいものと考えられる。

次に、北朝鮮による日本人拉致問題について、再度中国政府・韓国政府に対して解決のための協力を要請していくだろう。日本人拉致問題とは、1970年代から1980年代にかけて、北朝鮮が多くの日本人をその意思に反して連れ去った事案であり[19]、その被害者数は現在日本政府が認定しているものだけで12件18人に上る[20]。日本は「拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ない」との基本認識[21]のもと様々な外交ルートを通して北朝鮮への強い要求を継続してきているが、いまだ日本への帰国を果たしたのは5名にとどまっている[22]。様々な首脳会談にて既に中国、韓国からの支持を取り付けている本問題だが、今回のサミットにおいても解決に向けた協力の進捗が期待される。

日本・韓国が米国と連携し北朝鮮を仮想敵国とした軍事協力を深化させる中、中国は北朝鮮との関係を深めている。2024年4月には全人代常務委員長の趙楽際氏が平壌にて金正恩総書記と会談し、2019年に習近平氏が北朝鮮を訪問して以来、初めての中国最高指導部の訪朝となった。金氏は「両国関係は新しく、より高い段階へと発展している」と述べ、中朝関係の発展を強調している[23]。日米韓の戦略的団結、中朝の関係深化は、東アジアにおいて陣営対立の構図を作り出す危険性をはらんでいる一方、中国が北朝鮮と日韓との間の橋渡し的な存在として機能することによって、東アジア地域の安全保障において日中韓三国協力の必要性・有効性をさらに高めていると捉えることも可能だ。日中韓サミットにおいては、本件について三国が地域安全保障の維持という共通の目標を認識し、共同で問題に対処していくことが期待される。

 

③台湾海峡問題について

 米中の対立や台湾における政治的状況の変化を背景に台湾海峡での緊張が高まっている中、台湾海峡問題についても日中韓サミットにおいて意見が交換されるだろう。日本政府は1972年の日中共同声明で表明した立場を堅持し「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部」であり台湾海峡問題が中国の内政問題にあたることを繰り返し強調している[24]。一方で「台湾海峡の平和と安定は、日本の安全保障はもとより、国際社会全体の安定にとっても重要」であるとしており[25]、日中韓サミットにおいても、東アジアの安全保障維持に向けて三国間で意見交換・危機管理の体制構築についての議論が行われることが期待される。

 

 ④その他地域における安全保障協力について(ウクライナ、中東における危機的状況について)

 日中韓サミットに先立って行われた日中韓外相会談においては、中東情勢・ウクライナ情勢についても意見が交換された。日中韓サミットにおいては、人道支援や復興支援に関する三国の取り組みに関する議論や、成果文書における共同での立場表明に関する議論が行われることが期待されている。《外交青書》において、日本政府はパレスチナ・ウクライナにおける復興支援・人道支援を強化していくことを強調している[26]。

 

1-2. 日中首脳会談

1-2-1. 戦略的互恵関係の強化

 《外交青書》においては日中間の「戦略的互恵関係」を推進していくことの重要性が繰り返し述べられている[27]。日本側としては、日中間において「戦略的互恵関係」を構築することは、主に以下2つの狙いに基づくものと考えられる。

 

 ①両国間における安全保障分野の対話の促進、および日中間における不測の事態の発生を回避・防止するための枠組みの構築

 日本政府は「中国の対外的な姿勢や軍事動向」などを「日本と国際社会の重要な懸念事項」と捉えており、同盟国・同志国との連携を強めると同時に中国との安全保障面における意思疎通を強化していく方針を示している[28]。また、以下に述べる東シナ海問題などを背景にした日中防衛当局間の海空連絡メカニズム下でのホットラインの運用開始(2023年5月)など、不測の事態を回避・防止するための枠組みの構築を進めている[29]。

 

 ②北朝鮮への対応を念頭に置いた戦略的協力

  2023年11月の日中外相会談において、日本の外務大臣上川氏は「中国が北朝鮮に対し役割を果たすことを期待する」と述べており[30]、日中が懸念を共有する北朝鮮の軍事拡張・核開発を巡る情勢に関しても、日中首脳会談において建設的な議論が交わされることが期待される。

 

1-2-2. ALPS処理水問題[31]

 東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水[32]をめぐり中国が日本産食品に対する厳しい輸入規制をしている問題に対しては、日本は中国に「科学的な根拠に基づいた議論を行うよう強く求め」、「日本産食品の輸入規制の即時撤廃に向けて」働きかけを行っている。ALPS処理水については、2023年7月に国際原子力機関(IAEA)が「国際的な安全基準に合致している」と評価した包括的な報告書を公表しており[33]、日本政府はIAEAなどをはじめとする国際機関の評価を安全性の根拠としている。韓国政府は2023年7月に、処理水について「周辺海域に影響なし」とする報告書を発表しており[34]、日本側としては中国側からの支持も獲得したい状況となっている。2023年11月の日中外相会談および日中首脳会談においては、日本側から科学的根拠に基づく対応と食料品輸入規制の即時撤廃を求めたものの、「お互いの立場に隔たりがあると認識」したと公表されている[35]。

 

1-2-3. 尖閣諸島を巡る情勢を含む東シナ海情勢

尖閣諸島をめぐる情勢を含む東シナ海情勢に関して、日本側から再度提起される可能性の高い主張は以下の通り[36]。本件は複数回の問題提起にも関わらず両国間の立場の乖離が大きい問題であり、今回の日中首脳会談において建設的な議論の下問題の解決に向けて新たな成果が生み出されることが期待される。

 

 ①尖閣諸島・屋久島周辺領域における日本の領海侵入への抗議[37]

 《外交青書》によると「尖閣諸島は、歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、現に日本はこれを有効に支配している」ものであり、「解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない」。日本が1895年に国際法上正当な手段で尖閣諸島を編入してから1970年代に至るまで中国側は日本の尖閣諸島の領有に対する異議を唱えてこなかったし、中国はその理由について何ら説明を行っていない。2008年には中国国家海洋局所属船舶が初めて尖閣諸島周辺の日本領海に侵入したとされている。2023には中国船による尖閣諸島周辺領域の日本領海内への侵入が34件に上り、接続水域における中国船舶確認日数は352日と一年のほとんどの期間に達した。日本は外交ルートを通じ上記の中国の行動に対して厳重に抗議し、領海内での活動が国際法への違反に当たるとして「領海からの速やかな退去及び再発防止を繰り替えし求めて」きたが、課題解決に向けた進展は見られない。

 

 ②東シナ海における日中間のEEZ境界未確定領域における中国側の資源開発、およびロシアとの連携を含む周辺での軍事活動活発化に対する抗議[38]

 2023年には屋久島周辺をはじめとした日本の領海、周辺海域における中国軍軍艦・航空機の活動が活発化しており、日本政府は懸念を表明している。中露戦略爆撃による共同飛行、中露艦艇による共同航行も確認されており、日本政府は「安全保障上重大な懸念」であるとしている。

 また、日本政府は東シナ海の日中間EEZ未確定領域において、中国側の一方的な資源開発に対しても抗議を表明している。日本側としては東シナ海における日中間の協力・共同開発において合意した「2008年合意」[39]を推進していくことを求めており、日本の同意を得ない一方的な開発、海洋調査活動を控えるよう中国側に申し入れを行っている。

 

 ③2023年7月に東シナ海の日本のEEZ内に設置されたブイの即時撤去[40]

 2023年7月に、東シナ海の日本のEEZにおいて、中国が設置したと考えられるブイの存在が確認された。2023年11月の外相会談、日中首脳会談において、日本側はブイの即時撤去を中国側に求めているが問題は解決していない。加えて、2024年1月にも新たなブイの存在が確認されている[41]。

 

1-2-4. 邦人拘束に関わる問題[42]

スパイ行為に関わったとして邦人を含む外国人が拘束・逮捕されるケースが相次いでいる件について、日本政府は早期解放や領事面会、家族との連絡などを求めて中国政府に対して働きかけを行っている。2023年3月にスパイ容疑で逮捕された50代日本人男性については、1年の拘束期間を経て2024年3月に起訴審査に入っており、日本政府が早期解放を求める中、北京市内の収容施設での拘束が続いている[43]。

 

1-2-5. 新疆・香港における人権問題[44] [45]

 「新疆ウイグル自治区をはじめとする中国の人権状況及び香港をめぐる情勢」について、日本は「自由、基本的人権の尊重、法の支配といった国際社会における普遍的価値や原則」が中国においても重要であるとし、首脳会談や外相会談の機会に繰り返し「深刻な懸念」を表明するなど抗議を強めている。日本が議長国を務めた2023年のG7サミットにおいても、各国は中国の人権状況に対して懸念を表明し続けることで一致している。


 

 

第2部分:《外交青書》中注目の記述、および日中関係の展望


第2部分では、《外交青書》中注目の記述に関して簡単に紹介をした後、日中関係について今後の展望を考えていく。《外交青書》中の注目の記述としては、2023年版に巻頭特集として掲載されたG7サミット、日米安全保障体制に関する記述の中の「拡大抑止」に関しての特集について簡単にまとめる[46]。

 

2.1 《外交青書》中注目の記述

2-1-1. G7サミット[47]

2023年5月には日本を議長国として、G7[48]サミットが広島にて開催された。ウクライナ戦争が長引き核兵器の使用も示唆される中[49]、人類で初めて原爆が使用された広島で主要国の首脳がサミットを開催する意義が高まった格好だ。2023年における日本外交の最も主要な出来事の一つとして、《外交青書》の巻頭に特集されている。《外交青書》によると、G7サミットでは、以下の内容が議論された。

①ウクライナ情勢
②インド太平洋
③軍縮・不拡散
④食料安全保障
⑤経済的強靭性・経済安全保障
⑥気候・エネルギー
⑦環境
⑧国際保護
⑨ジェンダー
⑩開発
⑪デジタル・AI
⑫貿易

 インド太平洋の安全保障に関する議論においては、岸田首相から「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のための新たなプランについて説明がなされ、G7としてASEANやオセアニアを含むインド太平洋地域との協力を強化していくことが合意された。《外交青書》においては、「中国をめぐる諸課題への対応」や「核・ミサイル問題、拉致問題を含む北朝鮮への対応」においてG7が緊密に連携していくことを確認したと記述されており、インド太平洋地域における脅威として中国・北朝鮮を名指しする形となった。しかし実際には、拡大する中国の経済力・軍事力への対応についてはG7各国で足並みがそろっておらず、フランスのマクロン大統領は「G7は『反中国G7』ではない」と強調している[50]。

 

2-1-2. 日米安全保障体制「拡大抑止」[51]

《外交青書》183ページでは、日米安全保障体制に係る日米の「拡大抑止」の体制について説明がなされている。本文書においては日本周辺の安全保障上の脅威として北朝鮮、ロシア、中国を挙げている。特に中国に関しては、「十分な透明性を欠いたまま、核・ミサイル戦力を含む軍事力を広範かつ急速に増強」しているとされている。《外交青書》によると拡大抑止とは「ある国が有する抑止力をその同盟国などにも提供」し、「侵略を行えば耐え難い損害を被ること、又は特定の攻撃を物理的に阻止する能力が我が方にはあることを相手に明白に認識させることにより、侵略を思いとどまらせる機能を果たすもの」である。文書内では、東アジアの現状を踏まえると日本・米国間の拡大抑止は通常戦力だけでは不十分であり、米国が提供する核による抑止が不可欠であることが繰り返し述べられている。日本は核兵器不拡散条約(NPT)締結国であり、戦後は非核三原則(核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まない[52])を堅持している国家であるため、自ら核兵器を保有することはない。しかし、岸田政権のもと新たに制定された国家安全保障戦略は「米国による拡大抑止の提供を含む日米同盟の抑止力と対処力」を一層強化する方針を掲げており、どのような形で核による拡大抑止を有効に機能させていくのかが今後の焦点となっている。

 

2.2 日中関係の今後の展望

2023年の日本外交を概説する《外交青書》においては、日中関係を緊張させる課題が目立った。従来から日中関係の火種となっている領土問題は依然として両国の関係に影を落とし続け、中国における邦人逮捕のニュースが相次ぐ中、ALPS処理水の海洋放出に端を発する食料品輸入規制問題は両国の人民同士の関係も悪化させた。日本で開催されたG7サミットは中国を明確な脅威として名指しで取り上げ、日韓・日米・日米韓における戦略的協力の深化は日中関係をさらに緊張させている。北朝鮮の脅威に対処していくため、中国との「戦略的互恵関係」を深めていきたい日本だが、米中対立を背景に複雑化した東アジアの安全保障環境の中、慎重な外交が求められている。

以上のような状況の中、日中韓の首脳が4年ぶりに対面し、三国間および二国間の諸問題について直接議論する場は、まさに希望といえる。今回のサミットを機に、政治、経済、社会の多面的な三国間交流が活発化するとともに、三国の首脳および大臣、高級官僚間での定期的な会談が継続していくことを期待したい。日本を含む東アジア各国にとって最も避けたい状況は、例えば新たに戦略的協力を深める日米韓と、現在も積極的な往来を展開する中露朝との間でまさに「新冷戦」を具現化したような陣営対立が生じることだろう。日中韓サミットが、三国の協力関係を深化させるきっかけとなるとともに、定期的な開催によって北朝鮮、アメリカ、ロシアなど近隣諸国を含む東アジア全体の安全保障を安定化する役割を果たしていくことを願う。



[1] 外交青書は外務省HPよりダウンロード:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/index.html
[2] 日本経済新聞などより:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA070UJ0X00C24A5000000/
[3] 同上
[4] 外務省 第10回日中韓外相会議:https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page6_000949.html
[5] Bloombergより:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-05-08/SD6SG9T0AFB400
[6] Bloombergより:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-05-08/SD6SG9T0AFB400
[7] NHKより:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230707/k10014121531000.html
[8]《外交青書》p.35
[9]《外交青書》p.35
[10]『日米韓首脳共同声明』より:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100541771.pdf
[11]《外交青書》p.35
[12] 日本経済新聞より:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM260AV0W3A121C2000000/
[13]『日米韓首脳共同声明』より:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100541771.pdf
[14] 日本経済新聞より:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL200FO0Q3A820C2000000/
[15] BBCより:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66551843
[16]《外交青書》pp.62-63
[17]《外交青書》p.53
[18] 時事ドットコムより:https://www.jiji.com/jc/article?k=2023112600116&g=pol
[19] 内閣官房政府広報室『政府広報オンライン』より:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201311/3.html
[20] 《外交青書》:p.54
[21] 《外交青書》:p.54
[22] 内閣官房政府広報室『政府広報オンライン』より:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201311/3.html
[23] 日本経済新聞より:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM132LU0T10C24A4000000/
[24] 外務省『日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明』:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html
[25] 《外交青書》p.50
[26]《外交青書》pp.26-28 特にウクライナについては、2024年2月19日に日本・ウクライナ経済復興推進会議が行われ、民間投資、JICA、ODAなどを通してウクライナの復興を支援していくことが議論された。
[27]《外交青書》p.43
[28]《外交青書》p.43
[29] 《外交青書》p.44
[30] 時事ドットコムより:https://www.jiji.com/jc/article?k=2023112600116&g=pol
[31] 基本的には以下に基づく;《外交青書》pp.43-44, 48-49
[32] ALPS処理水について、以下《外交青書》p.43より引用:「APLS処理水とは、ALPS(多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System))などにより、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を確実に下回るまで浄化した水。ALPS処理水は、その後十分に希釈され、トリチウムを含む放射性物質の濃度について安全に関する規制基準値を大幅に下回るレベルにした上で、海洋放出されている。」
[33] NHKより:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240130/k10014341261000.html
[34] NHKより:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230707/k10014121531000.html
[35] 日中外相会談(https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/c_m1/cn/page6_000947.html)および日中首脳会談(https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/c_m1/cn/page1_001916.html)に関する外務省ホームページの資料より。
[36] 《外交青書》中の日中関係に関わる記述(pp.43-56)に基づく
[37] 基本的には以下に基づく;《外交青書》pp.46-47
[38] 基本的には以下に基づく;《外交青書》p.47
[39] 「2008年合意」については外務省のウェブサイトより:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/higashi_shina/press.html
[40] 基本的には以下に基づく;《外交青書》p.48
[41] NHKより:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240201/k10014343781000.html
[42] 基本的には以下に基づく;《外交青書》p.49
[43] NHKより:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240319/k10014396541000.html
[44] 基本的には以下に基づく;《外交青書》p.40
[45] 一方で中国側は「人権侵害疑惑は「新疆ウイグル自治区を不安定化させるためにでっち上げられた真っ赤なうそだ」と指摘しており(時事通信:https://sp.m.jiji.com/article/show/3167555)、国連人権高等弁務官の新疆ウイグル自治区訪問を歓迎する(朝日新聞:https://www.asahi.com/articles/ASQ1X72D8Q1XUHBI02X.html)など積極的な対応を行っている。
[46] 本文章末に参考として《外交青書》の目次を掲載している。他、注目したい記述があれば伝えてほしい。(noteでは掲載せず)
[47] 基本的には以下に基づく;《外交青書》pp.2-12
[48] G7とは(以下《外交青書》より引用):G7とは、フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ(議長国順)の7か国及び欧州連合(EU)が参加する枠組み。G7の会議には、G7メンバー以外の招待国や国際機関などが参加することもあり、G7広島サミットでは、オーストラリア、ブラジル、コモロ(アフリカ連合(AU)議長国)、クック諸島(太平洋諸島フォーラム(PIF)議長国)、インド(G20議長国)、インドネシア(ASEAN議長国)、韓国、ベトナム、国連、国際エネルギー機関(IEA)、国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行、世界保健機関(WHO)(オンライン参加)、世界貿易機関(WTO)が参加した(※これに加え、一部のセッションにウクライナも参加)。
[49] CNNより:https://www.cnn.com/2024/05/06/europe/putin-tactical-nuclear-weapon-drill-russia-ukraine-intl/index.html
[50] Guardianより:https://www.theguardian.com/world/2023/may/18/as-g7-leaders-start-to-arrive-japan-pm-prepares-push-in-hiroshima-for-nuclear-weapons-pledge
[51] 基本的には以下に基づく;《外交青書》pp.183-186
[52] 外務省 非核三原則:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/gensoku/index.html
[53] 《外交青書 2024》

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