『Spectrum』 シダー・ウォルトン アルバム・レビュー#2

『Spectrum』

1968年5月24日、ニューヨーク録音

レーベル:Prestige

パーソネル:
Cedar Walton(p)
Richard Davis(b)
Jack DeJohnette(ds)
Blue Mitchell(tp) on 1,3-5
Clifford Jordan(ts) on 1,3-5

シダー2枚目のリーダーアルバムです。
前作の『Cedar!』同様にピアノトリオ+トランペット、テナーサックスのクインテット編成ですが、シダー以外のメンバーは全員変更されています。
特筆すべきはクリフォード・ジョーダンの参加で、『Spellbound』(1960年録音)以降、彼は自身のリーダーアルバムで度々シダーを起用しています。1970年代には、クリフォードが「マジック・トライアングル」と名付けたシダーのレギュラー・トリオ(ベース:サム・ジョーンズ、ドラム:ビリー・ヒギンズ)と数多くの名盤を残しました。

チャールズ・ロイド・カルテットで活躍していたジャック・ディジョネットの奔放なプレイや、潑剌とした2管のブロウにより、前作と比べてよりアグレッシブな演奏が楽しめるアルバムになっています。

※作曲者名の記載があるもの以外はすべてシダー・ウォルトン作曲

1. Higgins Holler
8thフィールによるブルース形式の曲です。タイトルは「ヒギンズの叫び」という意味でしょうか?ライナーノーツによるとビリー・ヒギンズに捧げられた曲のようです。タイトルのせいでビリー・ヒギンズがドラムを叩いていると勘違いしがちですが、実際はジャック・ディジョネットが叩いています。
当時はジャズに8thフィールのビートが導入されてから間もない時期だと思いますが、ジャックは自在に叩きこなし、手数の多いプレイでバンド全体を盛り上げています。

2. Days of Wine and Roses (Henry Mancini, Johnny Mercer)
オスカー・ピーターソンの演奏で有名な、定番中の定番と言えるスタンダード曲です。

この曲では管が抜け、ピアノトリオでの演奏となっています。
原曲は4/4拍子ですが、シダーは3/4拍子にアレンジし、さらに華麗なアルペジオによるインタールードを追加しています。これにより、よりゴージャスな雰囲気がもたらされました。
ジャックは前曲とは打って変わって、繊細なブラシ・プレイを見せています。

3. Jake's Milkshakes
1曲目に続き、これまたブルース形式の曲です。シダーほど沢山のブルースを作曲したジャズミュージシャンはあまりいないのではないでしょうか? 私はシダーのブルースが大好きなので、いくらでも飽きずに聴くことができます。
ジャックは本アルバム中、この曲で初めてスティックを使って4ビートを叩いていますが、基本のライド・パターンをあまり崩さないビリー・ヒギンズのスタイルとは異なり、パターンを柔軟に変え、様々な箇所にアクセントを付けるコンテンポラリーな演奏をしています。
曲名はダジャレですね。ジェイクという人物がシダーの知り合いにいたのか、あるいは実際に"Jake's Milkshakes"というお店?飲み物?があったのかどうかは寡聞にして知りません。

4. Spectrum
アルバムのタイトルにもなっている、6/8拍子のシダーのオリジナル曲です。
基本的にはピアノ・トリオで演奏されていますが、テーマ部分にテナーサックスとトランペットが伴奏を付けています。
コード進行やヴォイシングにシダーの独特の味わいが強く感じられます。曲にも演奏にも、聴いただけで「これはシダーだ」とわかるオリジナリティーが色濃く滲み出ているところがシダーの大きな魅力の一つだと思います。

5. Lady Charlotte (Cal Massey)
A A B A'(A・Bは8小節、 A'のみ10小節)形式でミディアムテンポの曲です。
作曲者のカル・マッセイのことは知らなかったのですが、Wikipediaによると彼はペンシルヴァニア州フィラデルフィア出身のトランペッターで、ジョン・コルトレーン、マッコイ・タイナー、アーチー・シェップらと共演経験があるそうです。また "Charlotte"というのは彼の妻の名前のようです。
余談ですが、シダーも妻のMarthaに捧げた"Martha's Prize"という名曲を作っています。

カルとシダーとの関係を調べたところ、リー・モーガンの『Caramba』(1968年5月3日録音)というアルバムにカルとシダーがそれぞれアレンジャー、ピアニストとして参加しているので、直接の繋がりがあったようです。

いわゆるストレート・アヘッドなハード・バップ・スタイルの演奏で、モダン・ジャズのファンであれば誰もが楽しめるような内容に仕上がっています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?