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世界にひとつだけの結婚証明書ができるまで

夏のある日。私は数か月後に控えた、結婚式の準備を進めていた。演出や料理など、大体のものはイメージができていたけれど、なかなか決まらないことがあった。それが、結婚証明書だった。

はじめは最近流行りの絵の具を使った結婚証明書にしようと思っていたけれど、なんとなく、しっくりこない。

「しっくりくるものがないなら、自分でつくってみよう」

私たちは結婚式のテーマを「エシカルウェディング」とし、人や自然、どうぶつにも優しい結婚式にしようと考えていた。一般的な結婚式のあり方にも目を向け、ひとつひとつ、本当にやりたいのか?を考えて話し合い、ないものは手づくりしたり、前例のないものは自分たちでアイデアを出したりしていた。

結婚証明書もいろいろと探してみたが、地球に優しい結婚証明書は見つからない。それなら、心から欲しいと思えるものを、そして地球にも優しいものを、自分でつくってみようと思ったのだ。

それから、時間をみつけてはヒントになるものはないかと調べた。InstagramやPinterest、ウェディングメディアの記事、ウェディング雑誌、海外の記事まで。

ピンとくるものがなかなか見つからず、結婚式の日にちも迫り焦っていときのこと。ある写真が目に留まった。

ゲストに素材を選んでもらい、自分の名前のところに貼り付けるタイプの結婚証明書。直感的にこれだ、と感じた。

最近気になっていた素材でもある、シーグラスを使おう。貝殻や陶器も一緒に貼り付けたら可愛いかもしれない。頭の中にイメージがぶわっと広がった。海が見える挙式会場にもぴったりだと思った。

イメージは決まったので、あとはそれをカタチにしていくだけ。私はこだわりの強さを発揮しながら、使うものひとつひとつを吟味した。

フレームは、奥行きのある立体額がいい。長く飾っても汚れにくい、保護版の付いたものを。

紙は、自然に優しいもの。サトウキビのしぼりかすと古紙からできた、バガスシュガーペーパーを選んだ。

素材は、ゲストが楽しめるように、さまざまな色や形のシーグラス、シー陶器、貝殻を集めた。

文字のフォントやサイズにもこだわった。数十種類のフォントを試し、これだというものが見つかるまで、何度も試した。文字のサイズは実際に紙に印刷をしてみて、ちょどいい大きさに微調整。

なかなか大変な作業だったけれど、人生の中で大きなイベントとなる、結婚式で使うもの。妥協はしたくなかった。

初めて試作をしたときの写真

ある日、イメージをより具体的にするために、試作をしてみた。家にあったぺらぺらの紙の上に、シーグラスや貝殻を並べてみる。

ただそれだけなのに、とても綺麗だった。

シーグラスの柔らかい形や透明感、自然を感じられる優しい風合い、並べたときの標本のような美しさ。家でひとり、「わあ」と声に出し、心がときめいたのを覚えている。

そしていよいよ、結婚式当日。
挙式は海の見えるガーデンで行った。曇っていたけれど、やさしい光が雲の切れ間から差し込むような日だった。

ゲストのみんなには、受付をしたあと、結婚証明書に素材を貼り付けてもらった。順調に式はすすみ、結婚証明書の披露へ。そこで初めて、完成した結婚証明書を見た。

「すごい」
見た瞬間、夫が言った。

私も見てみると、そこにはゲスト一人一人が選んでくれたシーグラスや貝殻が並んでいる。試作のときよりずっと、綺麗だと思った。
「ほんとだね」と私たちは顔を見合わせた。

世界にひとつだけの結婚証明書が生まれた瞬間だった。

式がおわったあとじっくり見てみると、選んでもらった素材にその人の人柄が表れているような感じがする。何度見ても心が癒され、本当に大切なものになった。


のちに、この結婚証明書をきっかけに自分のブランド「hikari living」をつくり、販売を始めることにした。最初は他の人にもいいと思ってもらえるか不安だったけれど、思った以上に反響をいただき、今ではhikari livingの人気アイテムになった。

ときどきお客さまから、完成した結婚証明書の写真とメッセージが届く。
笑顔のおふたりと結婚証明書の写真を見ると、言葉にならないような、ふわふわとした気持ちになる。

最初は自分の結婚式のためだけで、誰かに届けるなんて考えてもいなかった。販売するためにつくっていたら、この結婚証明書にはならなかったかもしれない。実際に自分たちがこの結婚証明書を使うからこそ、こんなに想いや時間を込められたと思うから。

あのとき、世界にひとつだけだった結婚証明書は、今では120組以上の方に届いている。

誰かに、あのときのような幸せであたたかい気持ちを届けられているのなら、時間をかけて妥協せずにつくってみて良かったと思う。「心からほしい」と思えるものを自分の手で作ったことは、人生の中のかけがえのない経験になった。

手づくりすることは、手間も時間もかかるし、効率も良くないかもしれない。だけど、その手間ひまが、あたたかい気持ちにさせてくれる。長く大切にしようと思わせてくれる。

手づくりの結婚証明書の中に込められたあたたかさが、受け取った人たちにも届いていますように。


◇◇◇


シーグラスアートのお店「hikari living」

「暮らしと地球に優しい時間を贈る」をコンセプトに、
シーグラスを使ったものづくりをしています。

◇日々のものづくりの様子はInstagramにて

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