ソニー仙台を見ながら、かつて見たいろんな企業チームのあんなことやこんなこと、苦悩や葛藤など、ありとあらゆる企業チームの憂鬱を思い出してみました

日頃から大学生と社会人のサッカーを見ていると卒業後、アスリートとしてサッカーを続けていくことの門戸の狭さをつくづく感じるのです。ましてや「J」の付くリーグでプレーするというのはその中でもほんの一握りのわずかな選手しか叶わないのです。J3が創設されて10年近く経ち、当初はJリーグとはいうものの、その環境がとてもプロとは思えないチームもいくつか見受けられました。近年ではかなりその点は改善されたようで、以前ほど大学生の「就職先」として嫌煙されなくはなったかと思います。
しかしその一方で、その煽りを喰らっているのはJ3以下のチーム、特にJFLに所属しているチームでしょう。J3がない頃、もしくはJ3にそこまでの「魅力」を感じなかった頃にJFLの各チームに来ていたであろうレベルの子たちは、今ではほとんどJ3のチームを進路として選択しています。つまり、今JFLのチームを選択する子というのは、極端な表現をすれば「Jから漏れたレベルの子」ということになってしまうのではないかとも言えるのです。もちろん、そうじゃない子もいるとは思いますが、各チームのスカウティングが始まる頃には、Jから声の掛かるであろう子たちのほとんどは既に進路が決まっているかと思います。「だったら、Jチーム並みに早めにスカウティングすれば良いじゃん!」と思われるでしょう。もちろん、全部とは言いませんが多くのチームも早い時期からスカウティングし、監督や選手にアプローチは掛けていますが、それでもやはりJの方が魅力的なんでしょう。ほとんど空振りに終わるようです。
そしてそれは何も、Jを目指そうとしているチームだけの話ではなく、JFLに所属する社会人チーム、いわゆる「企業チーム」とて同様だったりします。今日お話しするソニー仙台も選手のスカウティングには相当苦労しているように思えます。

9月に入ってやや暑さも落ち着いたかな?と思ったらそんなこともなく、猛暑日が続く最中に仙台市の南にある岩沼市陸上競技場で行われた、ソニー仙台vs東京武蔵野ユナイテッドの試合。昨年もここでソニー仙台の試合が開催されましてが、その時は残念ながら無観客試合。今年がお客さんを入れての初開催となりました。
今年のソニー仙台はこの時期になっても順位がなかなか上がらず、近年稀に見る苦しいシーズンとなっています。去年までのスタッフか軒並みチームを離れ(中村監督は岡山の育成に、桐田コーチは母校東京学芸大学のコーチにそれぞれ就任)、全くの一からのチーム作り。チーム状態は一時期の底から脱したとはいえ、経験豊富な鈴木淳監督でもなかなか厳しい一年となっているようです。

日中の暑さが多少和らいだ15時キックオフの試合は、序盤に武蔵野キーパー真田のキックミスを拾ったソニー仙台松本が、キーパーの位置をよく見てのループシュート。意外な形でソニー仙台が先制しました。その後もワイドに展開するソニー仙台に対して、武蔵野は守備に追われる時間が多い前半となりました。後半、早い時間帯のFKを武蔵野の澤野が蹴った低いボールをDFかの足に当たって角度が変わり、ソニー仙台のキーパー佐川は一歩も動けず武蔵野が追いつきます。しかし、前半から相手のパス回しに走り回されていた武蔵野は後半の飲水タイム後から足が止まりだしますが、ソニー仙台のシュートがなかなか枠を捉えきれずそのまま終了。ソニー仙台としては内容的には勝ちたかった試合、東京武蔵野ユナイテッドにしては負けなくてよかったというドローで終わりました。

武蔵野澤野のFKはゴール前で角度が変わり、
ソニー仙台キーパー佐川は一歩も動けず。
後半早い時間に武蔵野が同点に追いつく。
意外なことに今年はまだ3ゴール目の澤野。
この試合に関しては値千金のゴールとなった。
ソニー仙台松本のラストパス。
そこに走り込んだ藤原にはわずかに合わず。
さらにルーズボールも押し込むことは出来ず。
前半のこのシーンで追加点が取れていれば…
後半、松本のクロスに空中戦を挑むも
最後は武蔵野真田にセーブされ…
今度はクロスに石上が綺麗に合わせるも…
キレイにヒットせず、ボールはバーのはるか上
終了間際の平田のミドルも惜しくも枠の外。
どれか決まっていれば、間違いなく勝ててたよね…
一方の武蔵野。前半あった澤野のCKは
キーパー佐川のファインセーブに阻まれ…
後半の川戸の折り返しもわずかにヒットせず。
そして、ルーズボールもソニー仙台池内がクリア。
武蔵野もゴールと相性の良くなかった試合でした。

今年初めてソニー仙台を見た印象としては、何をやってもダメという底の状態は脱したとはいえ、依然として「どこが悪いのかが分からない」状態が続いているのだろうな〜と。これがJ1やJ2辺りなら完全に降格圏内にどっぷり浸かってしまう、もしくはなかなか抜け出せない状態だと思います。しかしここはJFL。まだそこまでの危機的状況ではないようですし、他にもっと危機的状況のチームが複数あるので今年に関しては少なくとも降格という最悪の事態は避けられるのではないでしょうか。でも、昔からJFLを見ている人たちからはやはり心配な声を多く聞きます。一昔前は上位、優勝争いにも絡んでいたチームが今では中位から今年のように下位に低迷しているという姿は、やはり気にならざるをえない事態ではあります。

で、冒頭にもお話ししましたがその「一昔前」とは入ってくれる選手のレベルが違っていることに加え、せっかく入ってくれた選手も成長した頃にはJ3や将来のJリーグ参入を目指す他のJFLチームに移籍する選手も多く、さらに今年は荻原と富澤といった中堅、ベテラン主力選手が社業専念、いわゆる引退で抜け、一昨年はキーパーの金子と小泉も同様に引退。特にこの2、3年は一気に主力が次々とチームを離れていくいう実に苦しい状況になっています。
また、それでいて昔みたいに関東の強豪大学のレギュラーやキャプテンクラスの子もそう簡単には入ってくれないのもまた現実です。そんな逆境の中でも、それなりにチーム力を維持しているソニー仙台は実はものすごいことなんだと思うのです。でも残念なことに、そのことがなかなか世間には伝わっていないようです。まあ、そうでしょうね…

澤野の突破を身を挺して防ぐソニー仙台DF澤田。
 後半はセットプレーをフリーで合わせる澤田。
近年少なくなった関東大学卒のルーキーです。
攻守に渡る活躍の松本は国士舘大卒の3年目。
チームの屋台骨を支える存在になってます。

近年では関西やその他の地域の選手や、地元東北の選手が多く入っているケースが増えています。今年だと関西からは大阪体育大の瀬尾、中京大の山田と地元東北から八戸学院大の山森が、去年では阪南大の福宮(彼は阪南大クラブにもいましたね)と環太平洋大の佐々木、その前の年は関西大から鴨川、仙台大から吉野がそれぞれ入っています。関東からの選手が少なくなったものの、それ以外の地域の有力選手の獲得することでチーム力をなんとかキープしているというのが現状ではないでしょうか。

大阪体大卒のルーキー瀬尾。
先輩平田と同様、ハードワークが売りの選手です。
八戸学院大から今年入って来た山森。
まだ全国では無名ですが、今後の活躍に期待。
この試合でワントップを務めた中京大卒の山田。
守備にも必死に戻る献身的なプレーを見せた。
もうちょっとガツガツいってもいいかも…
環太平洋大から入った2年目の佐々木。
まさか彼をここで見るとは思わなかったので、
これからも活躍してもらいたいですね。
最終ラインで体を張る阪南大卒の福宮。
彼のことはトップより阪南大クラブで見てるかも…
やはり彼も「大クラ」らしいファイターでした。

そうして一生懸命スカウティングしてようやく入ってもらった選手たちも、先ほども触れましたが近年では2、3年経つとJ3やJリーグ参入を目指すJFLのチームに移籍する選手が多いのです。2年間主力として活躍した桃山学院大卒の佐藤は今年、同じ東北のJ3八戸に移籍。昨年は3年間在籍した高知大卒の山崎が同じJFLのヴェルスパ大分、同じ高知大から入った有間も3年経って当時JFLだったFC今治に、山崎と同期の田中も2年でFCいわきに移籍。その前にもやはり2年在籍でJ3に入った沼津に移籍した松藤、前澤といずれもチームの主力になりそうな時には既に他のチームに移籍してしまうという、ここ数年はそんな悪循環を繰り返しています。
こうもここまで多いと何かあるのではないか?と思わず勘ぐってしまうのだが、ここからはあくまでも推測の域を超えないのではあるが、その背景について少し掘り下げて考えてみようと思います。

チームがあるのは多賀城市にあるソニー仙台テクノロジーセンター。名称は「ソニー(株)仙台テクノロジーセンター」となってはいますが、実はここは「ソニーストレージメディアマニュファクチャリング株式会社」という、ソニーの子会社の本社のある事業所です。おそらく、ソニー仙台の選手はこのソニーストレージメディアマニュファクチャリング株式会社の社員として採用されているかと思われます。中にはソニーの本社で採用されてここに出向という形でサッカー中心の勤務体制となっているケースもあるかと思います。そうした選手がおそらくチームを離れる時に「社業専念」というフレーズが使われるのかな?と推測します。
さらに踏み込んでいくと、ソニー仙台の選手が正社員として採用されているのかどうかも実は怪しくて、ひょっとすると契約社員としての採用という可能性も否定できないのではないかと考えます。もしそういう雇用形態であるとすれば、サッカーを続けるのであれば別にここ(ソニー仙台)でなくてもいいわけで、それならばすぐにでもJに入れそうなJFLや、もしくは既にJにいるJ3に移籍しても何の問題もないわけです。しかも、ソニーでスタメンで出ることで彼らの実力はある程度証明されているので、自らを売り込むには実に都合がいいわけです。過去にそうして活躍した選手が何人もいるおかげで現在、新卒でソニー仙台に入ろうとする選手が増える一方、それらの選手が成長し始めた2、3年でチームを離れてしまい、結果としてなかなかチーム力が安定しないという正と負の両面を生み出しているように思えます。企業チームといえど、特にJ3が出来てからはソニー仙台に限らずどこも選手確保には相当苦労していると思います。そんな環境でも常に上位を維持しているホンダはやはり凄いと言えるでしょう。とは言っても、一昔前前ほどの凄まじいほどの強さは影を潜めていると個人的にはそう思いますが…

長年企業チームのサポーターをやっていた立場の者としては、その辺りの事情はよ〜く分かります。多くの人は、企業チームの選手は正社員採用で安定した立場にいるのではないか?と思われているかもしれません。たしかに佐川急便は正社員、契約社員問わず給与面はかなり良かったようですが、佐川大阪の選手の場合、月〜金は朝7時から午後3時までのフルタイム勤務。日曜日の試合の翌日である月曜日は他の企業チームでは休みのことがほとんどの中、佐川大阪はたとえどんな遠いアウェイの試合であっても月曜日はいつも通り朝7時からのフルタイム勤務が常でした。
他の企業チームも似たようなもので、かつてはJFLに所属していましたが退会し、今は中国リーグで活動をしている三菱自動車水島の場合は24時間稼働の工場の3交替勤務のシフトに選手は組み込まれていたため、ホームゲームでは試合に出場した選手がそのまま夜勤勤務に就いたり、またその逆で夜勤勤務明けの選手が直接会場入りしてそのまま試合に出る、なんてことは日常茶飯事だったようです。ある程度はシフト調整はされているでしょうが、それでも無理なケースも多かったようです。大昔の社会人野球の選手みたいに午前中だけなんとな〜く「仕事っぽい」ことをして、昼からは練習に打ち込むみたいなそんな甘いものではないのです。正社員での雇用となれば当然ながら、サッカー以外の通常の仕事も他の社員同様の責任を背負わないといけないわけで、もしサッカーをメインにするのであればさっきもチラッと触れましたが、契約社員という雇用形態にならざるをえないのではないかと思うわけです。そんなに世の中は甘くはないのです。企業チームといえど、その環境は決して恵まれているとは言い難く、厳しいものではないかと思います。
さらに、企業チームほど実はチームの存続が不安定なものはなく「業績が悪化した」「経営方針(経営陣)が変わった」「親会社が変わった(あるいは親会社の意向で)」「株主総会でチームの存在について言及された」などのさまざまな外的要因で、いとも簡単にチームが消滅してしまう。企業チームというのは実はそんな儚いものなのです。
かつて四国リーグに所属していた、徳島の光洋シーリーグテクノというチームがありました。1993年創部の歴史あるチームで、2017年から4年間四国リーグで活動していました。チーム自体は弱く、毎年のように降格の危機にありましたが、規定の変更による入替戦で勝ったり、高知ユナイテッドのJFL昇格などでなんとか残留していました。しかし残留も決まって、来シーズンの準備が始まるであろう2021年の1月下旬ころ、会社から突如サッカー部は解散を告げられたのです。選手、スタッフも一切事前の通達がなかったようで、チームの公式のFacebookに無念の極みのような実に痛ましい投稿がされていました。本当に突然のことだったようでしたね…
それと、これはホントかどうかは怪しいのですが某大企業が自社の運動部を整理・縮小しようとした際、本来は活動を継続させるつもりのチームの公表をし忘れたために、そのチームが活動休止に追い込まれてしまうという、笑うに笑えないような話もあったりします。それくらい、会社が一度休部なり活動休止と決めてしまう、あるいは発表してしまうとほぼ覆ることはないのです。
佐川滋賀や佐川印刷、佐川急便のチーム合併も、公に公表されるずっと前からサポーターの耳には入っていましたし、「それは会社が決めたことだから仕方ないよね…」という半ば諦めのようなものを感じていました。もっとも、そうではない人も確かにいましたが、だからといって何かアクションを起こしても、もはやどうすることもできないという無力感に苛まれることになるのです。企業チームのサポーターとはそういうものなのかな?と個人的には割り切っています。
もちろんこのことはソニー仙台にも当てはまります。ソニーストレージメディアマニュファクチャリングがチームの活動休止を発表したり、あるいはソニー本社から同様の意思決定があったり、あるいは現実的には考えにくいが本社機能のある多賀城の事業所が閉鎖されたりすれば、自ずとチームの活動はそこで終わってしまいます。事業所の閉鎖の煽りを食らったケースとしては、関西リーグに所属していた三洋電機洲本があります。ここの場合は「会社の合併→事業所の閉鎖・統合」の合わせ技です。先に四国リーグに所属していた三洋電機徳島が、徳島事業所と洲本事業所との統合でチームが消滅し、その後洲本事業所の閉鎖に伴い、三洋電機洲本も消滅した、というのが全容です。
そしてこれは全てのパターンに共通して言えることですが、仮にいくらチームが強くても会社の意向次第でチームは簡単に消滅するということは、残念ながらすでに佐川滋賀が証明していますし、その影響をもろに受けた者として声を大にして言いたいです。企業チームなんてものはそんな運命なのです。「企業がお金を出しているから安心でしょ?」なんてものはただの幻想でしかないのです。

と、ここまでソニー仙台の現状を通じて企業チームのネガティブな話をしてきましたが、決してネガティブな面ばかりではないのです。まずは、安定した仕事と収入が得られることで生まれる、サッカーに専念できる環境があるということ。いつもここでお話ししていますが、社会に出てサッカーを続けるのに必要なのは安定した収入と週末の休暇です。それを提供してくれるというのが、企業チームの最大のメリットと言えます。
また、チームを退団したとしてもコーチや監督、またはスタッフとしてチームに残る選手も多いのが企業チームの特徴です。ソニー仙台の場合、社業専念した選手がコーチングライセンスを取ってコーチや監督になるケースが多いですし、そうじゃなくても裏方のスタッフとしてチームを支えるOBが多くいます。チームの主力として長年活躍した村田選手も、今は実行委員の一人としてホームゲームの運営に奔走しています。そんな姿が見られるのも企業チームならではではないでしょうか。
トップチームに関わらなかったとしても、社業専念したOBが他のチームでサッカーを続けているケースもあります。昨年末で引退、社業専念した富沢選手はこの6月頃から関東リーグ2部のエリーズ東京に選手登録して、今年も現役でサッカーを続けているようです。また、宮城県リーグに「ソニークラブ」というチームがあり、年代問わずソニー仙台のOBたちが集まって、まだまだ現役でサッカーを続けているとのことです。そういうケースは他にもあって、昔JFLに所属していた佐川印刷にも東京に同じようなOBチームがあって、社業専念して東京に転勤したOBがプレーしていたそうです。それもこれも、仕事と収入が安定しているからこその賜物であり、見る側としてもそういう楽しみがあるのもまた企業チームの良いところでもあるかと思います。

企業チームを見るきっかけとして一番多いのは、学生時代から見ていた選手が入るというケースだと思います。逆に言うと、それ以外のきっかけで見る人はかなり少数だと思います(少なくとも私はそんなごく少数の一人ですが…(笑))。たとえどんなきっかけだとしても、企業チームを見始めると案外おもしろいと思うのです。なかなか触れることのない世界だとは思いますが、これをきっかけに一人でもソニー仙台やその他の企業チームに注目してもらえるのであれば嬉しいです。


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