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アスリートのセカンドキャリアとしての教員

『オリンピック選手が学校で教えてくれる』そんな夢のようなことが今後は珍しくはなくなるかもしれません。特別免許の積極活用のニュースを取り上げ、その背景について考察してみます。


アスリートへ教員免許を

文部科学省は5月8日、アスリートら専門性の高い人材に『特別免許』を与えて教員採用する制度の新たな運用指針を都道府県教育委員会に通知しました。特別免許状は、教職課程を履修せず教員免許を持たないものの、優れた知識経験等を有する社会人等を教師として学校現場に迎え入れるために発行される教員免許状の一つです。

今新たに、教科全体の専門性が必須ではないこと、他の教員と同レベルの指導力を過度に求める必要はないこと、などを文科省は明らかにしました。文科省は特別免許状を積極的に活用してほしいと考えているようです。そして、その対象は具体的には、五輪経験者(オリンピアン)や理科の博士号取得者です。

特別免許の積極活用転換の背景

なぜ今回、文科省は今まで慎重だった特別免許状の積極活用を促すようになったのでしょうか。考えうる理由を挙げてみます。

アスリートの引退後の収入は厳しいから

引退したオリンピック選手へ実施した調査があります。引退後のおおよその年収は以下のとおりです。

  • 「300 万円未満」(19.1%)

  • 「300 万~450 万円未満」(14.4%)

  • 「450 万~600 万円未満」(14.1%)

全体で最も多い年収層は300万円未満です。これは日本人の平均年収461万円を大幅に下回る収入です。

他にも、陸上選手が引退後に、全国の大学や部活での選手対するコーチ業を始めたところ、月15万円という収入だったという話もあります。

メジャースポーツではチームに残ってコーチやサポート業に回るという道もあります。しかし、引退後の収入面の不安は大きいようです。さらに、競技によっては現役時代から大幅に年収が下がり生活が困窮することもあるのが現状です。スポーツ振興を目指す日本にとって、活躍したオリンピック選手の引退後の厳しい生活状況を放っておくことは、スポーツ振興計画の妨げとなり望ましいものではないでしょう。

部活動指導教員としての需要

部活動の地域移行が国によって推進されるようになって数年が経ちました。しかし、現状はうまく行っているとは言い難い状況です。

指導者の確保が難しいからです。子どもが減り続ける中、部活指導だけで十分生活していけるだけのコーチ料を取ることは現実的ではありません。現状の地域移行実施自治体ですら、自治体の多くの補助金で成り立っています。また、元々部活動は教員が無償ボランティアで行っていたものであり、有料化には根強い抵抗感があります。月3000円ですら『高い』『払えない』という声があるほどです。

そのような状況でプロアスリートが地域で指導者になるよりも、むしろ教員として雇ってしまい部活を指導させたり、地域へ派遣して兼職兼業を活用したほうが良いと文科省は考え始めているのかもしれません。教員として任用すれば、一定の月給を支払えば月に追加の残業をどれだけさせてもほぼノーコストです。

まとめ

『教科の専門性を』『教員の修士化を』と述べてきた文科省ですが、ここにきて教科の専門性を重視せず特別免許を活用せよとの通達を出してきました。大きな方針転換の裏には、スポーツに関して学校の置かれた状況の変化も関係しているでしょう。

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