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読書感想文②

『ここはとても速い川』を読んだ。まずは、不思議な語りだな、と思った。

一人称でも、なかなか流れが掴みにくくて、油断すると誰がしゃべっているのか分からなくなるような感じがあったり、意外と早く読めない。
いちいち注意が必要な、緊張感のようなものが文体によって生み出されている。しかし、関西弁の面白さ、朗らかさがあるので、リズムよく楽しく読めるところもたくさんある。

ずーっと、集(主人公)の視点から見えるもの、聞こえること、感じることがつらつらと書かれている。全く説明的な文章はほとんどないけど、そのフカンしてない感が、この小説のムードをつくっている。

まるで、子供そのもののように、脈絡なくどんどん話題が切り替わるのが、単なるトリッキーな演出というのではなく、必然性があり、かつ効果的なテクニックにもなっていると思った。

子供が感じて、考えてていることがありありと書かれているが、当然それは大人である作者の視点が生み出していて、虚構としての像が集や登場人物なのだが、そこにはつくりものであることを忘れてしまうほどのリアリティがある。

このリアリティはやはり、集があらゆるものごとを、集の目や、耳、体を通して感じ取っていることを、独自の視点や感性で丁寧に書かれている、その徹底的な積み重ねによってもたらされているのだと思う。

しかしやはり、ことさらに感傷的な小説ではない、というところが一番グッとくるポイントだった。

児童養護施設で暮らす集やその他の子供たち、大人たちを描きながら、所々に不安や悲しみの発露がありながら、集の生きることに対する真摯でポジティブな姿勢のようなものが、それぞれのエピソードから醸し出される。

しかし、ドライなことを言うと、これは作者の鋭い感性による徹底した言葉選び、彫琢のなせる業なのだ。

いずれにせよ、とにかく圧倒される小説だった。


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