読書感想文①
夏目漱石『草枕』
夏目漱石ということで、『こころ』のような雰囲気の小説とイメージしていたが、予想とは全く違った小説だった。
全体の7割くらいが主人公(画家)による語り(芸術論)であり、残り3割で旅先で出会った人々との何でもないやりとりが展開される、筋らしい筋は存在しない。
作中で主人公が語る芸術論はそのまま本作にも反映されており、その代表的なものが芸術作品に対して人情の介入を拒否する(非人情)というものだ。
おそらくそれの意味するところは、わかりやすくエモーショナルな出来事(ストーリー性)だけが芸術作品であるという考えに対する反論なのではないかと思う。
事実、ストーリー性がなくても漱石の多彩な語彙による美しい文体によって主人公のキャラクター、ひいては草枕という作品は成立しており、私は最後まで楽しんで読むことができた。
フランツ・カフカ『変身』
主人公ザムザは巨大な虫に変身してしまっているにも関わらず、これからどうやって仕事に行こうかなどと真剣に考えたりしている。ツッコミどころ満載だが、こういったズレのような違和感がこの物語全体の不気味な世界観を形作っているように感じる。
虫が何かの象徴やメタファーになっているというような読み方はいくらでもできる気がするが、そう読んでしまうのは逆につまらないようにも思う。意味を追い求めることはひとまずとして、不条理さや物語の奇妙さ、虫のリアルな描写などをありのままに楽しめた。
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