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●REC(ショートショート)

という訳で見てのとおり、何万年も生きてんスよ、コイツ。

と、諦めたように、吐き捨てる感じでディレクターらしき男が笑った。
蹴り飛ばしかねない勢いだった。真っ白のスニーカーのつま先がエメラルド色に発光する粘り気の強い液体でべっとり汚れてしまうことが躊躇の理由だろう。

撮影が押しているであろうスタジオ内にはピリついた雰囲気が流れているであろうことが充分に見てとれる。ちらちら出入りする撮影スタッフたちの表情にも疲労の色がはっきりと現れていた。

仕方なく、たくさんのモニターの前に大人たちは集まった。
たくさんのモニター。
なぜそんなに必要なのかもわからないが、縦横に積み上げられた、たくさんのモニター、大きなカメラや指向性マイク、撮影機材が並ぶスタジオの一角にアングルは固定された。

業者を呼んだらどうか、と言い出したのがADとおぼしき男だ。
椅子に座っている、どう見ても監督だろうという風貌の男が費用の出所を考えて渋っていたが、やがて決断した。
しかし、別の男が心配し出した。
でも、勝手に撤去して大丈夫なんすかね、なんか、国の許可とか、いりそうじゃないですか?
監督の不安な表情が映し出される。
メガネの男が言った。
いや、でも全部撤去する必要まではないですよね、最悪、脚だけでもどかせれば、撮影は続けられるんで。
いや、そうは言っても血とかが飛び散ったらどうすんだよ、血が出るのかもわかんないけどさ、こんだけデカいんだから、脚だけでもスタジオから出すのに、かなり細かくしなきゃなんないだろ。
ちなみに、…暴れたりしますかね?また別の、ニット帽の男が言った。
いや、誰か、動いてんの見たことあるか?
膝上からゆっくりと、舐める様に上がってきたアングルが無表情の監督を正面からアップで捕らえる。
でもたまに…、ずっと喋ってるよな。
その場に集まった全員の姿と、たくさんの機材を引きのアングルが捕え、時間が止まってしまったかのような時間が数秒流れる。

デカい叫び声くらいは出すかもな、こんだけ、体がデカいんだから。
あれいつも、何喋ってるんですかね?続けてニット帽が言った。
監督が言った。
うん…、あの声を近くでしばらく聞いた日だけな、家に帰ったとき、
監督の横顔と、サングラスの奥の怯えた視線がアップで映される。
おかずが一品…、不思議と、いつもより多いんだ。
それ、…ほんとに、声なんですか?

私は映像を止めた。
この後に行われる理不尽な虐殺は見るに耐えない。母を殺した地球人たちへの復讐の為、今日まで生きてきた。地球を滅ぼすことができるだけの軍事力をやっと、備えることができた。

王子の血走った両目を、アングルが捕らえる。
しばらくして、地球からはるか遠い星から、宇宙船が群をなして出発する様が、また何ものかの手によって撮影されていた。

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