桜咲く街の中僕ら走る

どう考えても季節外れな見出しである。

外は寒く、こたつとミカンが恋しい時期になってきた。
でも、目をつぶると、そこら中に桜が見えるんだ。僕には桜が見えるんだ。見えるっていうんだから、そういうことにしといてくれよ。


11月某日、僕は学生会館にいる。学生会館というのは、大学の中にある鉄筋コンクリートで作られた2階建てのぼろ屋のことである。中に入ると、だだっぴろい空間の中に雑然とイスと机が並んでいるのだ。

「・・・で、どうする?」

その場にいた3人のうち1人が徐ろに声を出した。髪が金髪で、見た目と笑い声はケバいが、その印象に反して筋が通っている快活な女の子だ。

彼女は続ける。
「私はこの部活が大好きで、先輩たちにいろいろよくしてもらったから、先輩のいいところは受け継ぎつつも、ちょっとなーって思ったところは直していきたいな!と思ってる!例えば、…」

思えば大学生活も折り返し地点にたどり着いてしまった。コロナの影響で大して活動せず、半飲みサーと化していた某サークルだが、思えば世代交代ということだ。その役職決めの話し合いの一部である。

「zoom部会ってなんかだらだらしてなかった?あれをもうちょっと短くして、ブレイクアウトルームとかちゃんとした方がいいんじゃない?」

彼女の話し声を横に、俺はぼーっとしていたのかもしれない。

いつも明るくて、話も面白くて、自分のやりたいことがしっかりしている。そんな人間には敵わねえよなぁ…

さっきその場にいたのは3人と言った。もう1人そこには男がいたが、そいつはなんというかモテそうな奴で、人と話すのが上手で、物腰が柔らかく優しい奴だ。

俺はなんなんだろう。。。

気づいたら会議が終わっていた。


「…もしもし、あの俺なんだけど、ちょっと話聞いてもらっていい?」

俺はサークルの次期幹事長(同期)相手に、徐ろに話を切り出した。

「やっぱり俺、役職降りてもいい?」


サークルの中で楽しむには、自分のポジションを確立することがやっぱり求められる。

友達同士で付き合うだけならそんなの考えない方が楽なのだが、割と大人数で活動しているグループの中で楽しくやるには、存在感を出さないと人に見捨てられてしまう。

存在感とはなんだろうか。やっぱり役職に就くことなのだろうか。そんな考えがふと頭によぎり(もちろんそれだけが理由じゃないが)立候補してしまった俺とは…。

自分は性格上仕事人間である。他人とコミュニケーションをとりながら、与えられた仕事を着々とこなすのがとても得意である。

だが、自分はビジネスコミュニケーションよりツッコんだ人とのやり取りをするのがすごく苦手である。

好きなものは?って聞かれるとまあ多少は出てくるが、何しろ話が続かない。

友達を遊びに誘うのなんかもっと苦手だ。「これ言ったらどうなるかな」「なんか変に思われないかな」と思いながら、本当に変なタイミングで遊びに誘うことなんかよくある。

えーつい先日、とある男2人と某所で雑談をしていた。俺がどうやったら彼女を作れるのかという話を交際歴のあるお2人に聞いたら、そのうちの1人が、

「女の子と飯行くやん?
(いや行かねえしという俺)
あ、じゃあ友達と飯行くやん?そういう雰囲気あるじゃん?
そんな感じで、女の子とディズニー行くみたいな雰囲気になるじゃん?その時にディズニー行けばよくね?」

は?知らん知らん無理無理無理今度会った時ぶっ殺すから

といえればいいのだが、そいつとそんなに仲良くないのと、陽キャの気迫に押されたところがあり、何も言い返せなかった。まあいいだろう。死ぬほど虚無感に襲われたが。

えーと話を戻そう。存在感を出すというのは難しい。いや、俺も出てるのかもしれない。ただ、俺の場合、なんか変である。普通に友達としてなら付き合いはあるが、少人数で遊び行こうみたいな、“雰囲気”になる奴があんまりいない。

もっと俺がちゃんと仲良くなって、ちゃんとがんばって、

…ん?

ちゃんとってなんだ…?

もう分かんねえよ!

そんなことをモヤモヤさせながら、ベッドの上でアレクサにおさらばするのがここ最近の日々である。


「選手宣誓ー!我々はスポーツマンシップにのっとりながら、公正なプレーを心がけることを誓います!」

賑やかなサークルである。オーランでもテニサーでもないのに、なぜか運動会があるのだ。

「運動するのめっちゃ久しぶりじゃない?俺高校生以来だわ笑」

とか女の子に話しかけながら内心ニヤニヤしている気持ち悪い人間は俺である。

一種目め。ドッジビー。いきなり外野だったからあんま楽しくなかった。

二種目め。借り物競走。相手チームがchoo choo trainを踊ってたのだけ覚えてる(は?)。

三種目め。リレー。コンバースのスニーカーを履いていったのが失敗だった。滑りまくった挙句、高校時代サッカー部所属のクソ足速い先輩に秒で抜かされた。

この日は先輩たちの最後の活動日であった。先輩たちの思い出の動画を見てはジンときたり、幹事長の先輩がパイを投げられたり、すごく楽しそうにしていた。

楽しそうなんだけど、なんか切ない。

俺にとってもお世話になった先輩はたくさんいるから胸にくるものがあった。

お世話になった先輩方、本当にありがとうございました。


総会のことは覚えていない。なんか俺たちの同期がいろいろ立候補演説をしてて、幹部の奴らが忙しそうにしてて、それを先輩たちがちゃちゃを入れながら和気藹々と進行して、すごく穏やかに終わった。


飯が終わった後、10数人でカラオケに行った。サークル内の小班が一緒の子達だ。

後輩の女の子がみんな仲良さそうで、俺たちも野朗同士で固まってて、すごくほっこりする班だ。

この穏やかな雰囲気に包まれながら、俺は幸せをいっぱいに噛みしめている。

自分は本当に幸せ者だ。

悩んでることもあるけど、それも含めて本当に楽しい。




僕には桜が見えるんだ。見えるっていうんだから、そういうことにしといてくれよ。


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