言葉は意味をなくし、熱で感じあう

みんな知ってるかと思うが、私はラーメンが好きだ。基本ラーメンならなんでも食べるが、なかでも家系が大好きで、硬め少なめ普通(バリカタだとなお良し)、ライス付き、ニンニク超盛りで食う。朝食だろうが昼食だろうが夕食だろうが二日酔いだろうが出張先や旅行先でもわざわざ家系ラーメンの店を探し、行った店はグーグルマップでリストにして保存していて詳細な自分用グルメレポメモにしている。メチャクチャ行くラーメン屋などは店員さんの顔をほぼ全員覚えているので、店に入った瞬間に「今日は人が多いが、あのお姉さんとあのお姉さんのシフトなので、回転も速いだろう。普通でも普段と比べたら濃いめの味付けで、ライスは私好みの固めで提供されるわね…」と、ラーメンに対してコンディションを整えている。ラーメンが好きだから、どうせならベストコンディションで食べたい。

ちなみに、天下一品は私にとって【ラーメン】のくくりではないので、ここでは除外する。

私はラーメンが好きだし、たぶんラーメンも私のことが好きだろう。ラーメンを食って早死にする人生と、ラーメンを食わずに長生きする人生だったら、間違いなく前者を選ぶ。
とはいえアラサーになり「もしかしてラーメンばっかり食べているわけにもいかないのでは?と、こんな食生活ではあるが、野菜を食べよう…という気になり、ラーメン屋以外も行くようになった。やはり人生というヤツはなにがあるかはわからない。
そんなわけで、先月からマイブームは定食屋めぐりである。気に入ったら同じ店の同じものしか食べずに一生固執する性分の私が、珍しく店の新規開拓という人生でもなかなか珍しいターンに突入した。せっかくなのでこのターンに身を任せている。本当に人生は何があるかはわからない。

普段は基本的に弁当を作るようにしているものの、わりと外回りが多かったりするので外食をすることが多い。外回りルートはほぼ決まっているうえ、上述の性格なので、行く店も頼むメニューもほぼ決まっている。
しかし2月の私は支店めぐりや外対応みたいな仕事が多く、いろんなエリアに行きまくっていた。せっかくなのでいろんなエリアの店を開拓しよう!と、グーグルマップで高評価の店からあてもなく運転して目についた店まで、いろんな店に行き、いろんなメニュー(ゆ~て、生姜焼きかチキンカツしか食わん)を食べた。
2月は激多忙すぎて記憶がないが(今も激多忙なんだが)、こういったささやかな楽しみを見出したことにより乗り越えられた感はある。

そんなわけで、気に入った店もいくつかできた。
そのうちの一つは、メチャクチャデケェ生姜焼きを5~6枚くらい出してくれる定食屋である。支店から、左折のみで行けるので行ってみた。デケえプレハブ小屋みてえなのに申し訳程度に看板をつけたような店だ。有線とも違うかんじの、ムーディでおしゃれなバックミュージックが流れている。
この店の生姜焼き定食だが、味付けが実家みたいな味がする(実家みたいな味の定食屋、好きになりがち)添え物のキャベツやら野菜やらもシャキシャキしてて歯ごたえがあるし、漬物も日替わりでいろんなの出してくれるし、味付けも白米の硬さも私好みである。つーかまあ、シンプルにめちゃくちゃうまい。生姜焼き定食しか食ってないが、たぶんほかのメニューもうまいだろうと確信している。そうなると結局同じ店しか通わんし、同じ店の同じメニューしか食わん。けっきょく私はそういう女だ。
たぶん同じことを考えている人が多いのだろう、周囲には工事現場や作業所等が多いこともあり、ランチタイムになると現場作業っぽい男性グループでごったがえしている。知らんお兄さんと(仕切りはあるが)相席にされたこともあった。ラーメンをやめて、定食の女として生きる可能性は【ある】なァ…と思っていた。

さて、今日も外回りなのでこの店へ行った。午後イチで対応があったため、早めに出て昼食を取り、午後イチまでに間に合わせる算段である。
「営業中」と看板が出ているが、誰もいなかった。「すいませ~ん」と言った。「すいませ~ん」と3~4回言った後、奥からママが出てきて、「ランチはやってるんだけど、今バイトの子がまだ来てなくて私ひとりなの。今日さむいから、こっちの奥入ってて」と、案内された。

ムーディなカラオケスナック(ちなみに正午前)

この「奥」とは、どうやら隔てたところにあるスナックを指しているようだ。ようは、扉を隔てて昼は定食屋、夜はカラオケスナックを営業しているらしい。定食店舗のほうは、吹き曝しのところにあるので室内とはいえこの季節は寒い。ママに、吹き曝されてない(当社比)奥、つまりカラオケスナック側に案内された。来訪するたびにムーディな音楽が流れているのも合点がいった。
昼間のカラオケスナックには、4~5台ほどの液晶テレビがぶらさがっており、そこから爆音で、カラオケのカラオケを流してないときの音(わかって)が流れていた。

いくつかのソファー席があったが、ひとりの知らんオっさんがいた。私より前に来訪していたようだ。私はどうせ生姜焼きしか食わんのでメニューは決まっているのだが、オジサンも常連らしくカラオケスナック側に案内されるのは慣れているみたいで、すでに食事中にもかかわらずそのへんからおもむろにメニューのファイルを取り出すと、私に「メニューいっぱいあるよ。どれもおいしいよ」と手渡してくれた。どうせ生姜焼きしか食わんのだが、「いや、決まってるんで…」とは断らず、人の親切を無下にしないところが私のいいところだとおもうが、誰からも褒めらたことはない。私にメニュー表をくれたところでオッサンの定食が来たので、おっさんはもくもくと食べていた。

【良い】ポスター

ついでに、ママが私にドリンクバー(?)用のグラスを手渡してくれた。
私は、生姜焼き(固定)を注文しながら「いつも来たときに音楽かかっててなんなんだろうと思ってたんですけど、カラオケだったんですね。初めて知りました」とグラスを受け取った。
ママは「夜はカラオケなんだけど、昼も常連さんが好きな音楽かけて歌いながらごはん食べていくの。今(常連は)だれもいないし、アンタの好きな音楽かけていいよ」と、グラスついでに私にデンモクを手渡してきた。

どないせえっちゅうんや

「いや、ごはん食べにきたし、音痴なんで…」と断った。私は謙遜ではなく冗談誇張抜きでびっくりするほど音痴なので、ここ10年ほど自分しかいない自分の車の中以外では歌ったことがない。いや唯一、上司の送別会で中島みゆきの「麦の唄」を歌ったことがあるが、マジでびっくりするほど音痴なので誰からも触れられずにただ音痴な「麦の唄」を披露して終わり、誰からも何も触れられなかったという苦い過去がある。
いつのまにか、目の前に好物の生姜焼き定食が運ばれてきた。そしていつのまにか私にメニュー表を手渡してくれたおじさんは退店しており、別の席にはこれまたランチ常連っぽい別のオジサンがいた。「いつもの」と言いながら、唐揚げ定食を頼んでいた。
オジさんの唐揚げ定食を運ぶついでに、ママは「いいよ。ほら、好きなの流して」と、生姜焼きを食う私に再度デンモクを手渡してきた。

うめえ生姜焼き定食(本当にうめえ)

カラオケ自体(オール以外では)数年ぶりだが、よく考えたらここ数年、そもそもカラオケでまともに歌を歌ったわけではなく、いつもオタクたちの布教映像ブルーレイだの、知らんアニメのブルーレイだの、知らんアイドルのブルーレイだの、本人映像だのしか見たおぼえはない。ここでママから渡されたデンモクを無下にするのもちょっとなァと思いながら、どうしても歌いたくないので(それはそう)、どうすればええねんとおもいながら好きなバンドの名前で検索するか…となった。いや、とはいえ、わ、私が好きなバンドなんて、この世にあったっけ…?






終わった後、ママは拍手しながら「若い人は違うね!」と言ってくれた。
私とダイキャス時点のポルノグラフィティが若いかどうかは人によって要検討なのでさておき、私の選曲でフロア(※3人)を沸かせたのは、事実かもしれない。
どういうことかというと、前述のとおり店内には
・ママ
・知らんオッさん
・わたし
の3人しかいなかったのだが、この知らんおじさんの反応、メチャクチャよかった。マジで【ポルノグラフィティのオタクが死ぬほど見たい、ポルノグラフィティのことをガチ初見の人の反応】をしていた。前述のとおり唐揚げ定食を食べていたおじさんは、私がオー!リバルのライブ映像を流している間、ずっと唐揚げを箸で挟んだまま、食うこともなく、口を半開きで映像を見ていた。

絵をかいてみた。わりとうまいので、私には絵心があるのかもしれん

人類は、はじめてポルノグラフィティのライブをナマで見ると、口を半開きにして、それまで食っていたデケエ唐揚げの存在を忘れるらしい。
ママに「もっと好きなの流して!」と言われた私は、もう一曲流した。

再度フロア(※3人)を沸かしたが、前述のとおり私は何も歌っていない。ただ、自担のカラオケライブ映像と、デケエ唐揚げの存在を忘れて自担の映像を見るオジサンを見ながら食う定食はうまかった。
ふだんが食べるのが遅いくせに、ほぼ同タイミングで定食が来たにもかかわらず未だ半開きのオジサンを残して、私は完食した。映像が終わった瞬間に会計をした。
会計時もママは「やっぱり若い人は違うね!」と言ってくれた。言っておくが、私は見たいカラオケ映像を流した以外は何もしていない。でもなんか褒められたので、おもしれーことがあるんだな、世の中…と思った。


“この並び”は浮くかもしれない

ママからは「夜カラオケやってるからさ、また来てよ!」と言われた。何度も言ってるとおり私は歌ってすらいないのだが、今更「音痴なんで」も通用しねえよな、と思い「ごちそうさまです」と言った。たぶん、ランチタイムには来るかもしれないが、距離的に夜間営業にはいかないと思う。クルマで来なきゃいけないし、そうなると代行を呼ばなければならないからだ。そもそも日中も、今日を最後にしばらくこのエリアを回る予定はなかった。
店の開拓ブームは続いているので、ほかの店にハマっちゃったらこの店行く頻度、減るかもなァ…と思った。もちろんそんなことは言わず、会計を済ませた。そろそろ午後イチの対応の準備を始めないといけない時間だった。

ママは去り際に、「このすぐそばの信号のところ、工事してるでしょ?あれ、アタシの新しい店なんだけど、今度はラーメン屋始めるんだよね!こっち(定食屋)でもラーメン出すからさ!また来てね!」と言った。


私はどうやら、またこの店に来なきゃいけないようだ。

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