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アメリカで起業するも訴えられ3,000万円払った話

この記事を読むことで、アメリカの訴訟事情が分かります。また、アメリカで飲食店を開業する場合、従業員から訴訟を起こされるリスクを下げることができます。


アメリカは「訴訟大国」「訴訟天国」といわれていますが、これは誇張ではなく、アメリカで飲食店、もしくはビジネスを経営する人は、常に訴訟に巻き込まれるリスクを抱えています。

2017年に渡米して飲食店を3店舗オープンする中で、私自身、2度の訴訟を経験しました。

なぜ、アメリカでは世界的に見ても訴訟件数が多いのか。

その詳細について、私自身が実際に経験した話も交えて書きたいと思います。

アメリカ人はなぜすぐに訴えるのか


アメリカではなぜ訴訟件数が多いのか、その理由について記載します。

  1. 何か問題が起きたとき、アメリカ人は合理的かつ効率的に問題解決を図ろうとします。例えば従業員が会社に不当を訴えたい場合、個人的に問題解決訴えても、力関係では会社の方が上となり、従業員は納得のいく答えを得ることはできません。そこで、第三者もしくは行政機関の力を借りて問題を公平に解決しようとします。多くの州では、法律は被雇用者を守るために作られているため、従業員はその利点を生かし、自分の交渉に有利に進めようとします。

  2. 日本では問題が生じた場合、まずは当事者同士で話し合いを行い、それで解決できなければ止むを得ず次のステップに進み、訴訟という選択肢は最終手段になります。しかし、アメリカでは訴えるという行為は「本気で和解を求めています」という意思表示になり、雇用主に真剣に対応してもらうために、早い段階で弁護士に相談することになります。

  3. アメリカでは、労働法、雇用法のみに関わらず全ての法律が頻繁に変わります。また国の法律と州の法律が存在しており、全てを理解することが複雑で困難です。そのため雇用主は、法律を犯している自覚がないまま、従業員や弁護士からの指摘で法律違反に気付くことがあります。

  4. アメリカでは1年間に1,800万件もの訴訟の申し立てがあると言われています。日本弁護士連合会のデータによると、2020年における日本での、地方及び簡易裁判所での民事第一審通常訴訟新受件数は約45万件となっています。訴訟の種類等を加味すると、正確な比較にはならないかも知れませんが、アメリカの訴訟件数が突出して多いことを、ここでは強調させてください。また、下記のデータもご参照願います。

 2020年時点での日米における弁護士の数
 日本:約4万2,000人
 アメリカ:約133万人

 2020年の日米の人口
 日本:1億2,650万人
 アメリカ:3億3,100万人

 アメリカの人口が、日本の2.6倍なのに対して、弁護士の数は33倍となって   
 います。アメリカで訴訟を起こしたいと思ったときに、相談する弁護士に 
 困ることはありません。

5.アメリカでは沢山の民事訴訟が起きていますが、その内の95%は示談(和  解)によって解決しており、本審理(裁判官が裁くこと)まで進むのはわ  
 ずか5%です。示談が成立した場合、ケースバイケースですが、平均で  
 $100,000〜$200,000を被告が支払うことになります。

私自身、アメリカで訴訟を2度経験しています。その際に、多くの弁護士に話を伺いましたが、どの弁護士も共通して言っていたことがあります。

それは、①飲食店はどんなに頑張って準備をして、訴訟リスクを減らしても訴えられる可能性は無くならない。②訴えられたらオーナーはお金を失くすしか道はない(勝っても自分を守るための弁護士費用でお金を失くし、何も得るものはなく、負けたら示談金を支払わなければならない)。③訴えられたら示談で解決すること、というものでした。

私自身が経験した訴訟


正確に言うと、2度経験した訴訟の内、1回目は私が相手を訴えなければならず、2回目は2店舗目にオープンした寿司屋で、元従業員から集団訴訟を起こされました。下記は、集団訴訟について裁判所から届いた召喚状(あなたは告訴されましたと知らせる手紙)です。

裁判所から届いた召喚状
赤い部分が集団訴訟の争点

1回目の訴訟:2017年、渡米直後の右も左も分からないときに、金銭的トラブルに巻き込まれてしまい、私が原告となって訴訟を起こしました。この訴訟では、相手から支払われた示談金よりも、最初に私がトラブルによって失ったお金と、私の弁護士費用の方が高くなり、最終的に総額1,000万円を失いました。本件に関しては、訴訟を起こさない方が良かった出来事でした。和解成立に4年半かかりました。

2回目の訴訟:私の寿司屋で起こった集団訴訟に関しては、訴訟内容に全く納得がいかなかったため、最後まで戦う姿勢を見せましたが、弁護士から示談にすることがベストな選択であるとの説明があり、和解金を支払うことにしました。賠償金、原告の弁護士費用、私の弁護士費用に総額2,000万円掛かりました。和解に要した期間は約2年です。

次章からは、下記について書いています。

  • 訴訟リスクを減らす方法(HR及び弁護士に相談して準備するものを、実際の例を用いて説明しています。)

  • 成功している(流行っている)飲食店のオーナーは、そのほとんどが訴訟もしくは訴訟の一歩手前を経験している。

  • 飲食店が従業員に訴えられる原因はほぼ決まっている。飲食店の10の訴訟理由。

  • 弁護士もビジネスで訴訟サポートを行っている。効率的に訴訟を起こし、示談による解決までの弁護士のやり方。

  • 自分を守る弁護士とも揉めることがよくある。

  • 仕事ができな弁護士について。

  • 訴訟を起こされた飲食店オーナーの心境とやらなければならないこと。解決までに、ケースバイケースだが1〜3年は掛かる。

  • 訴訟を起こされた飲食店オーナーは、勝っても自分の弁護士費用でお金を失い、負けてもそれに追加して、相手の弁護士費用と賠償金を支払うことになり、金銭的負担は余儀なくされる。

  • アメリカにおける民事訴訟はなぜ95%が示談・和解での解決なのか。

  • 訴訟リスクが高いにも関わらず、対策を行っていない飲食店は非常に多い。

  • 訴訟が原因で飲食店を閉業することがある。

  • 雇用慣行賠償責任保険(Employment Practice Liability Insurance = EPLI)について

※本記事は筆者の経験に基づいて書かれています。ここに記載された情報の使用により生じる一切の損害や問題について、筆者は責任を負いません。

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