本:エラスティックリーダーシップ 自己組織化チームの育て方

Roy Osherove著。本書の内容はサブタイトルにあるように「自己組織化チームを育てるための考え方と処方箋」だ。"エラスティック"というあまり馴染みのない言葉がタイトルに使われているのは、チームの状態に合わせてリーダーシップのスタイルを変えていくということに由来する。なお、基本的には、自己組織化されたチームを理想としていることが前提であり、この前提の理解がない場合は、先にアジャイル関連の書籍を読むことをお勧めする。

※ 本書の後半には多くのエッセイが掲載されており、どれも学びがあり有益な内容だが、説明は割愛する。

エッセイを除いた前半部分は、大きく2つのパートで構成されている。1つ目は、Royが分類したチームの3つの状態とその関係性、およびそれぞれのチームの状態におけるリーダーシップのとり方の概要が説明されている。Royが命名した3つのチームの状態(フェーズ)というのは、サバイバルモード、学習モード、自己組織化モードだ。これらの状態と、それぞれで取るべきリーダーシップは、以下のようにマッピングされている。

サバイバルモード:学ぶ時間が全くない
    -> 指揮統制型リーダーシップ
学習モード:スキルが足りないが、学ぶ時間が確保されている
    -> コーチ型リーダーシップ
自己組織化モード:チームは自分たちで問題を解決できる
    ->ファシリテーター型リーダーシップ

チームの状態を識別する指標として「学ぶ時間」で整理されている点は分かりやすいと思う。

2つ目は、3つのチームの状態それぞれにおいて、リーダーがチームに対して実行する具体的なアクションが説明されている。

サバイバルモードから抜け出すための心構えと、コミットメントの取り消し方
メンバー同士が誠実に仕事を行うための、コミットメント言語、宿題、クリアリングミーティングという手法

自己組織化されたチームに1つの完全形が定義されているわけではないが、Royの説明から、そういったチームの1つの具体例を知ることができるように思う。私にとっても自己組織化されたチームというのは曖昧にしか言語化できていない概念だったため、これらの章は良い学びになった。

印象に残った部分

はじめにの最初に、次の一文が書かれている。

専門家はいない。私たちしかいないんだ。
(THERE ARE NO EXPERTS. THERE IS ONLY US.)

これはJeremy D. Millerの言葉として紹介されている。自己組織化されたチームにおいて、自分たちで問題を解決していくために必要なマインドセットを表す言葉だ。しかし私には、本書のコンテキストを超えて、とても重要な本質をついた言葉であるように思えた。チームを作ってそこに何らかの役割を命名することには様々なメリットがある。そして役割を担っている間は、その役割の「専門家」とみなされてしまうのは自然だろう。自分の周囲に対してもそのように認識してしまうのではないだろうか。しかし、自分や自チームの外側に「専門家がいる」と認識することは、「ある領域のことは専門家に任せればよく、自分たちで解決する必要がない」という考え方を助長するだろう。予測可能な世界で、計画に従って行動する組織においては、このような専門家による役割分担は上手く機能してきた。しかし、不確実な世界への対応が求められる組織においては、専門家に頼る思考は全体最適の阻害につながると思われる。「専門家はいない」というスローガンが私に響いたのは、このような理由からだ。


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