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AI時代に求められる学びの形ー藤原和博氏の教育改革提案と企業にどう活かすかー日経ビジネス記事より

 日経ビジネス2024/5/1-2の記事に『藤原和博氏が訴えるAI時代の学び(前後編)』が掲載されていました。この時代における学びは、企業人事としても吸収、応用できる部分が多々あり大変参考になりました。

「情報編集力」と「基礎的人間力」

 教育改革に長年尽力されてこられた藤原和博氏は、AI時代の到来を見据え、これからの教育に真に必要とされる力として「情報編集力」と、それを支える「基礎的人間力」を提唱されています。「情報処理力」に関しては、AIの目覚ましい発達によって、近い将来、人間の能力を上回ることが予測されており、将来的にはAIに取って代わられる可能性が高いとの指摘です。一方で、「情報編集力」は、単なる情報の処理やデータの分析にとどまらず、クリエイティビティや想像力、そして複数の情報を組み合わせて新たな価値を生み出す力が不可欠とされており、AIには容易に真似できない、人間ならではの領域だと藤原氏は力説されています。

「情報編集力」の土台としての「基礎的人間力」

 この「情報編集力」の土台となるのが、幼少期から自然の中で思い切り体を動かし、五感を通じて世界を探求することで培われる「基礎的人間力」だと藤原氏は説かれています。自然の中での遊びは、予期せぬ出来事に直面したときの対応力や、状況の変化に柔軟に適応する力を養うのに最適だということです。ルールを自分たちで作り、時にはそのルールを変更しながら遊びを進めていく中で、コミュニケーション能力や問題解決力、創造力が自然と身について行くのだそうです。こうした「基礎的人間力」こそが、AI時代を生き抜くために不可欠な土台となると藤原氏は力説されています。

「人間力」も大切

 加えて、藤原氏は、AI時代においては、「笑顔がすてき」「その人がいるだけで癒やされる」といった人間力がこれまで以上に重要になってくると説説きます。テクノロジーがいかに発達しようとも、人間らしい温かみや共感力、相手の気持ちを汲み取る力は、機械には真似することができません。むしろ、AIの発達によって、こうした人間ならではの資質がより一層価値を増していくのではないかと藤原氏は予測されています。つまり、AIにはできない、人間だからこそ発揮できる力を磨くことこそが、これからの時代を生き抜くために不可欠なのだというわけです。

学力の二極化とその対策

 現在の日本の教育現場が抱える最も大きな課題の一つとして、藤原氏は学力の二極化を挙げておられます。塾に通う子どもと通わない子どもの間の学力差は年々開いていく一方で、従来の一斉授業の形式では、すべての子どもたちに適切な教育を提供することが難しくなっているというのが現状だそうです。学習の習熟度に大きな開きがある中で、中間層に合わせた授業を行えば、上位層には物足りなく、下位層には難しすぎるという、いわば「教育のミスマッチ」が起きていると藤原氏は指摘します。

 この問題を解決するために、藤原氏が提案されているのが、「教え合い」と「学び合い」を取り入れた新しい授業形態です。具体的には、教室を習熟度別に分け、よく理解している生徒が、理解が不十分な生徒に教えるという形を取り入れるのだそうです。教える側の生徒は、自分の理解をさらに深めることができ、教わる側の生徒は、友達の説明を聞くことで、理解が促進されるというわけです。さらに、一人ひとりの理解度に合わせたペースで学習を進められるというメリットもあります。藤原氏は、こうした「教え合い」と「学び合い」の導入によって、学力の二極化という問題に一石を投じることができるのではないかと期待を寄せておられます。

教員の資質・能力不足

 昨今の不登校児童・生徒の増加について、藤原氏は、教員の資質や能力の不足が主な原因の一つではないかとの見解を示されています。児童・生徒一人ひとりに寄り添い、その個性や特性を理解した上で、適切な指導を行うことができる教員が不足しているために、学校になじめない子どもたちが増えているのだというのです。したがって、不登校児童・生徒を減らすことよりも、むしろ、学校以外の場でも学びを保障することが肝要だと藤原氏は主張されています。オンライン学習や通信制の高校など、多様な学びの選択肢を用意し、一人ひとりに合った形で学びを継続できる環境を整備することが急務だというわけです。

「希少性」が大切

 日本の教育は長らく、平等を重視するあまり、飛び抜けた才能を伸ばすことに消極的だったと藤原氏は指摘されています。みんな一緒に仲良く、同じペースで学ぶことが美徳とされ、出来る子も出来ない子も同じ土俵で評価される。その結果、優秀な子どもの才能を伸ばすことができず、全体としての学力の底上げにも失敗してきたというのが藤原氏の見立てです。こうした「悪平等」とも言うべき状況から脱却し、一人ひとりの「希少性」を大切にする教育へとシフトしていくことが、AI時代を生き抜くために不可欠だと藤原氏は力説されています。

 「希少性」とは、ほかの誰にも代わることのできない、オンリーワンの存在になることだと藤原氏は説明されています。AIの発達によって、多くの仕事がAIに代替されていく中で、生き残るための鍵は、AIにはマネのできない「人間ならでは」の価値を持つことだというのです。藤原氏は、具体的な方策として、100人に1人レベルのスキルを3つ身につけることを推奨されています。それぞれのスキルは希少性が高く、その組み合わせは他者にはマネのできない「レアカード」になるというわけです。つまり、自分だけの強みを徹底的に磨き上げ、それを武器にして社会で活躍することこそが、これからの時代を勝ち抜く秘訣だと藤原氏は説きます。

起業家教育の重要性

 WiLの創業者である伊佐山元氏も、起業家教育の重要性を説かれています。起業家に求められる資質を身につけるためには、学生時代から社会と積極的に関わり、実社会の課題に触れることが欠かせないと伊佐山氏は指摘されています。単に知識を詰め込むだけでなく、ボランティアやインターンシップなどを通じて、課題を発見し、解決に向けて行動する力を養うことが肝要だというのです。そうした経験の中で、起業家としてのマインドセットや実践力が自然と身についていくのだと伊佐山氏は説明されています。

グローバルな視点を持つこと

 また、伊佐山氏は、グローバルな視点を持つことの重要性も強調されています。日本の常識が通用しない海外の環境で働くことで、柔軟な思考力とコミュニケーション能力が鍛えられると同氏は指摘されています。特に、シリコンバレーをはじめとする海外のスタートアップ企業でのインターン経験は、イノベーティブな発想やスピード感を肌で感じることができる貴重な機会になると力説されています。多様なバックグラウンドを持つ人々と協働する中で、自分の殻を破り、新しい自分を発見することができるというわけです。

 しかしながら、近年、日本の学生の学力低下が叫ばれる中、海外のトップ大学への留学が以前ほど容易ではなくなっていることを伊佐山氏は危惧されています。グローバルに活躍できる人材を育成するためには、小学校から大学に至るまでの一貫した教育の見直しが必要不可欠だと同氏は説かれています。特に、国際的に通用する英語力の育成と、多様な価値観を受け入れる柔軟性を養うことが重要だと指摘されています。同時に、意欲と能力のある学生に対しては、留学を支援する奨学金制度などの拡充も急務だと伊佐山氏は訴えておられます。

一体化の取り組みが必要

 こうした教育改革を進めるためには、教育現場と産業界、そして政府が一丸となって取り組む必要があります。EdTechをはじめとする先端テクノロジーを活用しながら、新しい時代に合った教育のあり方を模索していくことが肝要でしょう。藤原氏と伊佐山氏の提言は、まさに今の日本の教育が直面している課題を浮き彫りにすると同時に、その解決の糸口を示唆するものだと言えます。私たち一人ひとりが、AI時代における教育のあり方について真摯に考え、行動を起こしていくことが何よりも大切なのではないでしょうか。

企業人事としての取り組み

 AI時代を見据えた教育改革の必要性が叫ばれる中、企業の人事としても、その動向を踏まえた取り組みが求められています。藤原氏と伊佐山氏の提言を参考に、以下のような施策を講じることが考えられるでしょう。

「情報編集力」と「基礎的人間力」を重視した採用基準の設定

 従来の学歴や専門知識を重視した採用から、「情報編集力」や「基礎的人間力」を兼ね備えた人材を見出す採用へとシフトすることが肝要です。単に知識や技能があるだけでなく、それらを実社会の課題解決に活かせる創造力や適応力を持つ人材を積極的に採用することが重要でしょう。面接や適性検査などを通じて、候補者の「情報編集力」や「基礎的人間力」を多角的に評価する仕組みづくりが求められます。

社内教育におけるアクティブラーニングの導入

 社員の「情報編集力」や「基礎的人間力」を育むためには、社内教育においてもアクティブラーニングの手法を取り入れることが有効でしょう。グループディスカッションやケーススタディなどを通じて、社員同士が教え合い、学び合う機会を設けることが大切です。そうした学びの場を通じて、社員の創造力やコミュニケーション能力を高めていくことができるはずです。

「希少性」を引き出すタレントマネジメントの実践

 藤原氏が提唱する「希少性」を重視した教育の考え方は、企業の人材育成においても大いに参考になります。社員一人ひとりの強みや個性を見出し、その「希少性」を最大限に引き出すタレントマネジメントが求められます。画一的な研修ではなく、個々の社員の特性に合わせた育成プランを設計し、きめ細やかな支援を行うことが肝要でしょう。また、社内でのジョブローテーションや、社外での学びの機会を提供することで、社員の可能性を広げていくことも大切です。

起業家マインドを持つ人材の育成

 イノベーションを生み出し、激動の時代を乗り切るためには、起業家マインドを持つ人材の存在が欠かせません。伊佐山氏が説くように、学生時代からの起業家教育が理想ではありますが、社会人になってからでも起業家マインドを育むことは可能です。社内ベンチャー制度の導入や、外部の起業家との交流機会の提供など、社員の挑戦を後押しする施策を講じることが有効でしょう。また、失敗を許容する企業文化を醸成することも、起業家マインドを育む上で重要な要素となります。

グローバル人材の育成に向けた取り組み

 伊佐山氏が指摘するように、これからの時代を生き抜くためには、グローバルな視点を持つ人材の育成が不可欠です。海外赴任の機会を増やすことはもちろん、日本国内でも異文化交流の場を設けることが大切でしょう。外国人社員の積極的な採用や、海外の大学・企業との連携など、多様な施策を通じてグローバル人材の育成に取り組むことが求められます。また、語学研修や異文化理解の研修など、社員のグローバルマインドセットを養う教育にも力を入れる必要があります。

 以上のような取り組みを通じて、AI時代を乗り切るための人材を育成していくことが、企業の人事に課せられた使命だと言えるでしょう。藤原氏と伊佐山氏の提言を胸に、社員一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、イノベーティブな組織づくりに邁進することが肝要です。そのためにも、人事部門はもちろん、経営陣を含めた組織全体で、人材育成の重要性を再認識し、長期的な視点に立った施策を講じていくことが何よりも大切なのではないでしょうか。

現代的な教室のイメージです。多様な民族の生徒たちがデジタル学習セッションに積極的に参加しており、タブレットを使用してスマートホワイトボードと対話している様子が表現されています。教室は広々として明るく、最新の教育技術とモダンな家具が配置され、壁には教育的なポスターが掲示されています。教師は中年の日本人男性で、生徒たちを積極的に支援している姿が描かれています。この画像は、AI時代の教育改革と技術の統合が生徒たちの学びにどのように影響を与えているかを示しています。

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