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効果的なリスキリング戦略ー「3つの罠」を避けるためにはどうするか

 日経ビジネス2024/4/19の記事に『「リスキリング」の課題 効果が出ない3つの罠』が掲載されていました。

 この記事では、企業が従業員のスキルアップを目指して実施している「リスキリング」についての取り組みとその際に直面する課題に焦点を当てています。リスキリングとは、急速に変化する業界や技術環境に対応するために、従業員に新しいスキルや知識を身につけさせることです。日本政府や経済産業省も、個人のスキル再構築を支援する施策を進めており、この分野に多額の投資が行われています。

 政府の支援として、首相が「新しい資本主義」の実現には人材への投資が欠かせないと述べ、5年間で1兆円を投じることを公表しました。また、経済産業省では社会人の学び直しと転職をサポートする事業を開始しています。これらの政策は、リスキリングが個々のキャリアアップだけでなく、国全体の経済成長戦略と密接に連携していることを示しています。

 しかし、リスキリングに取り組む多くの企業は、その効果について十分な成果を感じていないという問題があります。記事では、その原因として「3つの罠」を挙げています。

 これら「3つの罠」とその対策について具体的に考えてみたいと思います。


1. 「テクニカルスキル」に偏る罠

 テクニカルスキルへの過度な焦点が、リスキリングの障壁となる場合があります。これは、専門的なスキルの習得が即座に業務成果に結びつくとは限らないからです。例えば、プログラミングやデータ分析などの技術は市場で高く評価されますが、これらを効果的に業務に活用するには、コミュニケーション能力やチームワークといったソフトスキルが同時に必要です。

総合的スキル開発の重要性
 
テクニカルスキルのみに焦点を当てたリスキリングは、従業員が多様な業務環境に適応する上での汎用性を欠く可能性があります。これを克服するためには、企業が総合的なスキル開発を奨励する文化を築くことが必要です。たとえば、従業員のプロジェクト管理能力、批判的思考、創造的問題解決能力など、業務を跨いで活用可能なスキルの習得を促進することが考えられます。

具体的実施方法案

  • クロスファンクショナルトレーニング
    従業員に異なる部門での研修を受けさせ、多角的な視点とスキルを身につけさせます。例えば、エンジニアがマーケティングの基礎を学ぶことで、製品開発の際に市場ニーズをより深く理解することができるようになります。

  • ソフトスキルのワークショップ
    コミュニケーション、リーダーシップ、チームビルディングのワークショップを定期的に開催し、技術職だけでなく、全従業員が参加する機会を提供します。

  • メンター制度の導入
    経験豊富な従業員がメンターとなり、若手や異分野の従業員に対して、業務の知識だけでなく、キャリアの指導も行います。


2. 成功を個人任せにする罠

 従業員個人にリスキリングの成功を委ねるアプローチは、自発的な学習意欲がある場合には有効かもしれませんが、多くの場合、支援とガイダンスの欠如が失敗につながります。特に新しいスキルが直接的な業務成果に結びつかない場合、従業員は学習へのモチベーションを維持しづらくなります。

組織的サポートの重要性

 効果的なリスキリングを実現するためには、組織全体で学びをサポートする文化を育む必要があります。これには、定期的なフォローアップ、学習の進捗と実業務との統合を確認するミーティング、実践的なプロジェクトへの参加機会の提供などが含まれます。また、成功体験を共有することで、他の従業員の学習意欲を刺激し、組織全体の学習気運を高めることができます。

実施方法

  • 目標設定とフォローアップ
    従業員がリスキリングの目標を設定し、定期的なフォローアップを通じて進捗を確認します。このプロセスには、具体的なKPIs(重要業績評価指標)の設定が含まれます。

  • ロールモデルの提示
    成功したリスキリング事例を社内で共有し、模範となるストーリーを提供することで、他の従業員のモチベーション向上に繋げます。

  • チームベースの学習イニシアチブ
    小グループやチーム単位でのリスキリングプログラムを組織し、互いに学びを支援する環境を作ります。これにより、単なる個人の学習ではなく、チーム全体の成長を促進します。

3. 学習機会だけを提供する罠

 リスキリングのための資源として教材やオンラインコースの提供に留まり、それを如何に活用するかの具体的な道筋を示さないことは、従業員が学習を進める上での大きな障壁となり得ます。単に教材を提供するだけではなく、学習の目的と結果が明確にされる必要があります。

モチベーションを高める戦略

 従業員がリスキリングを通じて実現したい具体的な目標やキャリアアップを明確にすることが重要です。これには、個々のキャリアプランと組織の目標を連携させ、学習することの直接的なメリットを示すことが含まれます。例えば、特定のスキルをマスターすることで昇進や昇給のチャンスが得られるといった具体的なインセンティブを設定することが効果的です。また、メンターシステムを導入することで、経験豊富な従業員が若手や新しいスキルを学ぶ従業員を指導し、学習プロセス全体をサポートすることも有効です。

実施方法

  • 個人のキャリア計画との連携: 従業員一人ひとりのキャリア目標と組織のニーズをマッチングさせ、個々の成長が直接的に組織の成功に貢献するようにします。

  • インセンティブの設定: 新しいスキルの習得が直接的な昇進や昇給につながるような明確な報酬体系を設定します。

  • メンターシステムとコーチング: 経験豊富な社員がメンターやコーチとして活動し、学習プロセス全体をサポートします。これにより、従業員は学習の過程で直面するかもしれない問題を解決する手助けを受けることができます。

まとめ

 これらの罠に陥らないよう、リスキリングプログラムは単なるスキル習得の提供に留まらず、組織全体としてのサポートと個々の従業員のモチベーション向上に焦点を当てるべきです。従業員一人一人の内在するポテンシャルを引き出し、それを組織の成長につなげることが、現代の企業に求められる人事戦略の核心です。このようなアプローチにより、リスキリングは単なるトレンドではなく、持続可能な成長と発展のための確固たる手段となるでしょう。


現代的な企業のオフィス環境で多様な従業員がトレーニングセッションに参加している様子を描いています。テクニカルスキルのトレーニングとソフトスキルの開発が組み合わさっており、コラボレーションとサポートの雰囲気が感じられます。画像は柔らかな画風で表現されており、戦略的な学習とモチベーションが感じられるシーンが展開されています。

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