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シンプルさの追求ー人事業務の効率化と効果向上の戦略

 「シンプルにすること」は、人事業務においても重要であり、私もこれまでの経験の中で様々な仮説・検証を実施してきました。人事という領域は、その本質から多様なステークホルダー、複雑な問題、そして絶え間なく変化するビジネス環境にさらされています。特に昨今は、人事が経営に直結するという期待感もあります。このような状況で、物事をシンプルにすることは、クリアな判断と迅速な行動を可能にし、組織の効率性と効果性を最大化することにも寄与します。

 しかしながら、シンプルにすることは容易ではありません。人事業務には、法規制、社内規定、労使関係など、様々な制約や考慮すべき事項があります。加えて、人事は人を扱う領域であるため、一律の基準や画一的なアプローチが必ずしも適切とは限りません。従業員一人一人の個性や状況に応じた柔軟な対応も求められます。

 そのため、シンプルにすることは、単に物事を簡素化するだけでなく、本質を見極め、優先順位をつけ、適切な判断を下すことが重要となります。私自身、日々の業務の中で、常にこの点を意識しながら、業務の効率化とサービスの質の向上に努めています。

シンプルにすることの重要性

1.複雑性の削減
 
人事業務はしばしば複雑であり、多くの変数を考慮する必要があります。法規制、社内規定、労使関係、従業員の多様性など、様々な要因が絡み合っています。この複雑性は、意思決定を遅らせ、ミスを招く可能性があります。シンプルにすることで、複雑性を削減し、より明確な視野を持って問題にアプローチできます。本質的な問題に集中し、無駄な手順や不必要な情報を排除することで、業務の効率化と判断の質の向上が期待できます。

2.効率性の向上
 シンプルなプロセスは迅速な決定を可能にし、時間とリソースの節約につながります。特に人事領域では、迅速な対応が求められる場面が多く、シンプルさは非常に価値があります。採用、異動、退職など、タイムリーな対応が求められる場面では、シンプルで明確なプロセスが欠かせません。手順を簡素化し、意思決定の権限を適切な層に委譲することで、スピーディーな対応が可能になります。

3.ストレスの軽減
 
複雑なプロセスや方針は従業員にとっても理解が難しく、ストレスの原因となることがあります。福利厚生制度、人事評価制度、教育研修制度など、従業員に直接関わる制度や方針が複雑だと、従業員の理解が進まず、制度の利用も進みません。また、運用する側の人事担当者にとっても、複雑な制度は管理が難しく、ミスやトラブルのリスクが高まります。結果として運用が困難になるという例を、これまでもいくつも見てきました。シンプルで明確な方針は、従業員の満足度とエンゲージメントを向上させます。

ワーキングメモリーとシンプルさ

 人間の認知能力には限界があります。特に、ワーキングメモリーの容量は限られており、多くの情報や選択肢があると、決断疲労を招き、最終的な判断の質が低下する可能性があります。人事業務においても、採用、評価、異動など、重要な意思決定を行う場面が多くあります。

 そのため、重要な情報に焦点を絞り、選択肢を簡素化し、決定プロセスを効率化することは、採用プロセス、パフォーマンス評価、タレントマネジメントなど、人事の各領域において重要です。必要な情報を精選し、直感的に理解できる形で提示することで、意思決定者の負担を軽減し、より良い判断を導くことができます。

シンプルにすることで成功した例

1.採用プロセスの最適化
 新卒一括採用や中途採用において、選考プロセスをシンプルにすることで、効率的かつ効果的な候補者の選択ができるよう努力しました。応募者の負担を減らすために、エントリーシートの項目を絞り込み、面接回数を最小限に抑えました。また、選考基準を明確にし、評価項目を絞り込むことで、選考担当者の負担を軽減しました。無駄なステップを削減し、コミュニケーションをシンプルにすることで、候補者とのスムーズなやり取りが可能になりました。その結果、採用プロセスの期間が短縮され、内定辞退率も低下しました。候補者にとっても、分かりやすい採用プロセスは重要と思います。

2.人事評価制度のシンプル化
 従来の人事評価制度は、多数の評価項目と複雑な計算式で構成されており、従業員にとっても評価者にとっても理解が難しいものでした。そこで、評価基準を明確かつシンプルにすることで、従業員とマネージャー双方の理解を深め、パフォーマンスの改善につながりました。具体的には、評価項目を業績目標と行動評価の2つに絞り込み、5段階評価を3段階評価に変更しました。また、特に評価の初期プロセスでは、絶対評価を導入することで、評価の公平性を高めました。複雑な評価基準を減らし、核となる業績指標に集中することで、より透明性が高く、公平な評価システムを実現しました。

3.福利厚生制度のシンプル化
 従来の福利厚生制度は、社宅、保養所、社員食堂など、多岐にわたる制度が乱立していました。しかし、実際の利用率を調べてみると、一部の制度に利用が偏っていることが分かりました。そこで、利用率の低い制度を廃止し、カフェテリアプランを導入することで、制度をシンプルにしました。複数の福利厚生プログラムを統合し、従業員にとって理解しやすく、利用しやすいものにすることで、従業員の満足度が向上しました。シンプルで透明な制度は、従業員にとって魅力的であり、また管理面での労力も軽減されました。

まとめ

 シンプルにする技術は、物事をクリアにし、意思決定を促進し、最終的には組織の効率と効果を最大化するために、私の日々の業務で常に追求している目標です。人事業務は複雑で多様な要素を含んでいますが、だからこそシンプルさが重要なのです。本質を見極め、優先順位をつけ、適切な判断を下すことが求められます。

 しかし、シンプルにすることは容易ではありません。バランスが重要であり、シンプルにしすぎると、かえって重要な要素を見落とすリスクがあります。したがって、シンプルにする際には、深い洞察と経験に基づく判断が不可欠です。また、この原則は、人事だけでなく、組織のあらゆる側面で有効です。シンプルにすることで、明確性、効率性、そして効果性を高めることができるでしょう。応用範囲も広く、実践の価値があるでしょう。

左側の複雑でごちゃごちゃしたデスクから、右側のシンプルでクリーンなデスクへと変化する、穏やかなオフィス環境が描かれています。時間の経過とともに人事の実践が明確で効率的、ストレスの少ないものへと進化する様子が、柔らかく優しいタッチで表現されています。

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