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日本におけるスキルアップの現状と課題ー企業主導の教育の重要性を再度認識

 2024/04/18日本経済新聞の記事に「リスキリングの現状と課題(下) 企業経由の在職者支援 軸に(原ひろみ・明治大学教授)」が掲載されていました。リスキリングは、どちらかといえば企業の支援から個人へのシフトしているように見えますが、個人としての効果は限定的であり、企業主導の方が効果が見えているようです。その意味では、人事の立場でも重要な視点であり、大変興味深い記事でした。

 
 この記事では、現代日本におけるリスキリング、すなわち職業技能の再教育の重要性について扱っていました。経済成長と労働市場の効率化を目指す中で、特に在職者を対象とした企業経由の支援がクローズアップされています。技術革新の波が高まる中で、適応可能なスキルセットを持った労働者の確保が急務であり、これに対する企業や政府のアプローチが問われています。

 背景として、経済理論と労働市場の実態が触れられています。経済理論においては、スキルを一般スキルと企業特有のスキルに分類し、それぞれのスキル獲得に向けた企業と労働者のインセンティブが考察されています。市場の完全性を阻害する要因、たとえば情報の非対称性や資源の不適切な配分が存在する場合、政策介入による効率性の改善が正当化されることが説明されていました。

 日本の経済が高度成長を遂げていた時代には、企業特有のスキルが重視され、非流動的な労働市場の下で長期雇用が一般的でした。これは企業内での人材育成が中心となり、企業主導の訓練によって労働者のスキルが向上していたことを意味します。しかし、1990年代の長期不況の到来と共に、企業の人材育成への積極性が低下し、自己啓発への支援が強化される動きが見られました。

 2000年代に入ると、新卒一括採用や長期雇用の慣行が薄れ始め、企業内訓練の重視が相対的に低下しています。政府統計を見ても、この傾向は明らかであり、企業内訓練の低調が続いている一方で、正規社員の自己啓発の機会は増えているとされます。しかし、個人が自主的にスキルを身につける場合、その効果が経済全体に及ぼす影響は限定的である可能性が指摘されています。そのため、企業内訓練の重要性を再確認し、企業が積極的に人材育成に関与するべき理由を強調しています。労働市場の需給がタイトとされる中、企業は優秀な労働力を確保し、競争力を維持するためには効果的な人材育成策を実施する必要があります。

 政策的には、過去に企業主導での人材育成が主流でした。最近では個人主体への直接支援の拡充が進められています。たとえば、教育訓練給付金の専門実践教育訓練給付金の創設などがこれに該当します。例として、受講費用の50%(年間上限40万円)が訓練受講中6か月ごとに支給されるというものです。これにより、個人が市場で必要とされるスキルを獲得し、職業の流動性を高めることが期待されています。

 しかし、個人主体の能力開発が常に効果的であるわけではなく、企業内訓練を通じた支援の方がより大きな効果があることが研究で示されています。この点は、企業が持つ情報のアドバンテージや、労働者が職場内で学びやすい環境にあることが要因として考えられます。そのため、企業内訓練と個人主体のスキル向上支援の適切なバランスが今後の課題とされています。

 最終的には、リスキリング政策の将来的な方向性として、効果的な因果関係の解明を通じた政策評価の必要性を強調しています。企業と個人が協力し、技術進歩に適応するための持続可能な戦略が、経済全体の成長に貢献することが期待されています。

人事の立場から考えること

 リスキリングは、近年、労働市場の変動や技術革新の影響を受けて、ますます重要になっています。この概念は、現代の労働者が経済的な安定とキャリアの進展を遂げるために必要な技能の再習得や更新を指しています。日本においても、リスキリングは労働力の質を向上させ、経済成長を促進するための重要な戦略として位置付けられています。

リスキリングの重要性と社会的背景

 労働市場は、グローバル化、人口動態の変化、技術の進化といった外部要因によって常に変化しています。これらの変化に対応するためには、労働者が新しい技術や手法を習得することが不可欠です。特に日本のような高度に技術化された経済では、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進行中であり、これに伴い、新たなスキルセットが求められています。

現状と課題:企業と個人の役割

 企業による在職者支援は、従業員が必要とするスキルを身に付けるための主要な手段となっています。企業は、労働者が職場で直面する具体的な課題に対応するための訓練を提供することができ、これにより即戦力としての能力を高めることができます。しかしながら、長期的なキャリアパスや雇用形態の多様化に伴い、個人主体のスキルアップも求められており、これには教育訓練給付制度など政府の直接的な支援が必要でしょう。

政策介入の方向性

 政府は、リスキリングを通じて労働市場の柔軟性と労働者の生産性を高めるために、様々な政策を導入しています。これには、企業経由での在職者支援だけでなく、個人主体の能力開発を促進するための助成金や給付金の拡充などがあります。効率性の改善を目指す政策介入は、市場の不完全性を補正し、より広範な経済的利益を生み出す可能性があります。

組織と個人の連携

 個人のキャリア発展と組織の成長はバラバラなものではなく、相互に依存しています。企業は、労働者が持つスキルの発展を支えることによって、組織全体の競争力を高めることができます。一方で、労働者は自身のスキルセットを更新し、外部市場での自己の価値を高めることが求められます。このプロセスは、労働者が自己啓発と企業提供の訓練の両方を活用することによって最大化される可能性があります。

将来への展望

 技術の進展と市場の変動により、リスキリングの必要性はさらに増すでしょう。企業と政府は、持続可能な成長と労働者の福祉向上のために、連携して労働力の質を向上させるための戦略を継続的に調整し、実施する必要があります。また、リスキリングは単なるスキル習得に留まらず、労働者の持続可能なキャリア形成と経済全体の弾力性の向上に貢献する重要な要素となります。

 リスキリングの推進は多面的なアプローチを要求しますが、それには政策の適切な調整と個人の積極的な参加が必要です。企業と政府が連携し、個人が自発的にスキルアップに取り組むことで、持続可能な労働市場と高い生産性を実現するための基盤を築くことができるものと思います。個人か企業かという視点だけでなく、幅広い視点で総合的に考えていく必要があるでしょう。

日本のモダンな企業トレーニングセッションの様子を描いた横長のイラストです。会議室で行われているデジタルトレーニングワークショップのシーンが、技術進歩とスキル開発に焦点を当てた協力的で未来的な雰囲気を反映しています。画風は柔らかく、穏やかな色使いと滑らかな線が教育的な雰囲気を伝えています。

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