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経験学習によるポテンシャルの解放ー部下の強みを育てるマネージャーのガイド(松尾睦氏)

 Aoba-BBTの番組で、松尾睦氏による『部下の強みを引き出す育成力養成講座』というテーマ。部下の強みを引き出し、その成長を後押しすることは、マネジャーにとって最も重要な役割の一つです。組織の持続的な発展のためには、一人ひとりの部下が持つ独自の才能や強みを見出し、それを最大限に活かしていくことが欠かせません。しかし、現実には、部下育成に悩むマネジャーが少なくありません。「どのように部下と向き合えばよいのか」「部下のやる気を引き出すにはどうすればよいのか」といった疑問や不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

 そうしたマネジャーの皆さんに向けて、「部下の強みを引き出す育成力」を身につけるためのノウハウが詰まっていました。基礎編、実践編、応用編の3部で構成されており、それぞれのフェーズで必要な知識やスキルを段階的に説明されていました。

 なお、当講座は以下の書籍も参考にされています。

基礎編

 人材育成の基本的な考え方として「70:20:10の法則」と「経験学習サイクル」が取り上げられていました。仕事を通じた経験の積み重ねが人材成長の7割を占めるとされる中で、特に「部門を超えた連携」「変革プロジェクトへの参加」「部下育成」の3つの経験が重要だというのが70:20:10の法則の示唆するところです。また、折角良質な経験を積んでも、それを適切に振り返り、教訓を引き出し、次の行動に活かさなければ、十分な学習効果は望めません。経験→振り返り→教訓→応用という4つのステップを着実に回していく「経験学習サイクル」の考え方を部下指導に取り入れることが求められます。松尾氏の経験学習については、以前、自身も以下の記事で取り上げていますので、ご確認下さい・

 もう一つの重要テーマとして、「部下の強みに着目した育成」です。人はそれぞれに固有の資質や才能を備えていますが、その多くは十分に認識・活用されないままになっているのが現状です。マネジャーに求められるのは、部下一人ひとりの「強み」を見出し、その強みを伸ばすための成長機会やフィードバックを提供していくことです。「君にはこういう仕事が向いている」「この仕事で伸ばせる能力は何だろう」と、部下との対話を通じて「強み」を特定化し、強みが発揮できるアサインメントを行うのです。
 仕事の振り返りにおいても、「強み」を意識した対話を心掛けることが重要です。業務の失敗やミスへのフォーカスも必要ですが、それ以上に、成果を上げられた時の行動特性やエピソードに着目し、「君の強みは○○だね」といったフィードバックを日常的に行うことが、部下の主体的な成長を促します。

実践編

 実践編では、1on1面談の効果的な進め方を具体的に学びます。1on1は、部下育成のための最も身近で実践的なツールですが、精度の高い面談を行うには、事前の準備と当日の巧みな対話運びが欠かせません。
 質の高い1on1を行うための第一歩は、部下の「キャリア志向の把握」と「中長期の成長ゴール設定」です。「将来こういう仕事に就きたい」「あと3年でこんなスキルを身につけたい」など、部下の抱く中長期のキャリアビジョンをヒアリングし、それを叶えるために必要な能力開発項目を一緒に設定するのです。「今シーズンの目標は○○だね。そのためには××という能力が必要だから、この仕事はうってつけだよ」といった具合に、日々の仕事とキャリアゴールを結び付けて動機づけを行います。

 加えて、1on1では、「強み」の再確認と、「強みを活かす仕事の割り当て」も重要な対話テーマとなります。部下の成功体験を引き出し、「あの時は何が良かったと思う?」「自分の強みをどう発揮できたと感じる?」と問いかけることで、部下の強み発見を促します。そして、その強みをさらに伸ばし、活かせるような仕事アサインメントを行うのです。「君の企画力を存分に発揮できるプロジェクトがある。ぜひ挑戦してほしい」といった働きかけを続けることで、強み志向の成長サイクルを回していきます。

 もちろん、1on1では、業務遂行上の問題点や失敗の振り返りも重要なテーマです。ただし、失敗の事実を詰問したり、感情的に非難したりするのは逆効果です。むしろ、「プロジェクトの前半は非常に順調だったよね。どこから狂い始めたのかな?」と冷静に事実を振り返り、建設的な対話を心掛けることが肝要です。マネジャー自身も知恵を絞り、どうすれば打開できるかを一緒に考える伴走者の役割を果たすことが求められます。

 なお、1on1では、事前の準備も含め、多くのことを意識する必要があります。以下記事も参考にしてみてください。

応用編

 最後に、応用編では、部下の強み開発に必要な補完的スキルを3点取り上げます。1つ目は「成長を促す仕事の創出」のスキルです。部下の能力開発に資する仕事機会を用意するには、自部門の既存業務の枠に捉われない柔軟な発想が求められます。例えば、他部署との連携業務を設定したり、部下の仕事の一部を切り出して役割移行を図ったり、新たな業務領域を開拓したりするのです。関係部署を「つなげる」働きかけ、仕事を「渡す」タイミングの見極め、新たな役割を「作る」企画力など、仕事創出に必要な行動特性やスキルを意識的に高めていくことが大切です。

 2つ目の補完スキルは、「中堅社員と連携した育成体制の構築」です。上司が全ての部下育成を一手に担うのではなく、ある程度円熟した中堅クラスの社員をサポート役として活用することで、マネジメントの負荷分散と、中堅自身の成長の機会創出を図るのです。例えば、中堅社員に若手の指導役を任せたり、職場の問題について中堅の意見を求めたりすることで、中堅の能力開発とやりがい向上に繋げます。上司は、中堅との定期的な対話を通じて、職場全体の人材育成の方向性を擦り合わせ、共通理解を形成していくのです。職場運営において一定の役割と権限を委譲し、リーダーシップ開発の機会としても活用することが望まれます。

 最後に、「振り返り支援」のスキルです。部下の経験学習を促進するには、業務の節目節目で効果的な振り返りを行うことが重要ですが、その際のマネジャーの対話の技術が問われます。まずは、「何があったのか(事実)」「どう感じたのか(感情)」を丁寧に聴くこと。そして、失敗の事実確認に偏ることなく、部下の感情に共感的に寄り添うこと。良かった点についても積極的に取り上げ、部下の気づきと自信を促すこと。加えて、「何が課題か」「どう行動すべきか」を一緒に探求する姿勢を貫くこと。こうした話し方や聴き方のワザを地道に磨いていくことが、経験の内省化と教訓化を支えるのです。

まとめ

 基礎的な考え方を踏まえた上で、1on1での実践的なスキルを習得し、補完的なマネジメント行動もパッケージングしていくことで、組織の成長エンジンとしての「最強の育成マネジャー」を目指してください。本講座で提示した考え方やフレームワークを土台としながら、職場の実態に即した創意工夫を重ね、実効性の高い育成サイクルを回していくことが求められます。

 時に試行錯誤もあるかもしれません。しかし、腰を据えて部下の成長と向き合い続ける先に、組織と個人のwin-winを実現できるはずです。眼前の部下たちの可能性に全幅の信頼を置き、一人ひとりの内なる「強み」を解き放つ。経験を通じた着実な成長を後押しする。それこそがマネジャーの仕事の神髄だといえるのではないでしょうか。

 マネジャーとしての育成力を高め、キラキラと光る才能を引き出すことで、組織に新たな活力を吹き込むことは重要です。次代を担うイキイキとした人材を生み出すことこそ、組織の発展と社会への貢献に直結すると確信しています。変化の時代のただ中にあって、人を育てる使命感と喜びを持ち続けるマネジャーであり続けたいものです。

オフィス環境で開催されているこのセミナーでは、多様なマネージャーたちが大きな会議テーブルを囲んで、話をしている様子が描かれています。プレゼンターは「70:20:10の法則」と「経験学習サイクル」について説明しており、参加者は熱心に聞き入り、メモを取っています。部屋は明るく、大きな窓と壁にはチャートが掲示されています。


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