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L.E.T.における対立解決ーメソッドIIIの効果的適用

 「No-Lose 対立解決法(メソッドIII)」は、L.E.T.(リーダーシップ・エフェクティブネス・トレーニング)の重要な概念の一つであり、組織内で発生する対立を解決するための効果的な手法を提供します。この方法は、対立が生じた場合に、すべての関係者が納得できる解決策を見つけることを目的としています。具体的には、個々のニーズを尊重しながら、全員が参加する協議を通じて、共同で問題解決に取り組むプロセスを促進するのです。

No-Lose 対立解決法 (メソッドIII)
対立が起きた時は、 皆が納得する対立解決法をファシリテーションできる
→これは問題解決の手法としても非常に有効です。相手のニーズも自分のニーズも満たしていく。私自身は、最も使える技法ではないかと思っています。

 このアプローチの核心は、「負けなし」で問題を解決するというコンセプトに基づいています。これは、対立している各当事者が自らのニーズや意見を明確に表明し、他の当事者との間で開かれた対話を通じて、お互いに納得のいく解決策を探求することを意味します。プロセスの中で、各当事者は他者の視点を理解し、相互の利益となる解決策を模索します。この手法では、一方的な決定や単なる妥協ではなく、真の合意形成を目指し、その過程でのコミュニケーションと協調が重視されるのです。


 実際にこの方法を用いる際には、リーダーがファシリテーターとしての役割を果たし、公正な議論の場を設けることが求められます。リーダーは、対話を促進し、全員が声を上げやすい環境を整えることで、各メンバーが自分の意見や提案を自由に表現できるように支援します。また、リーダーは、対立を悪化させることなく、建設的な議論を導くために中立的な立場を保つことが重要なのです。

 このプロセスを通じて、チーム内での信頼関係が築かれ、創造的な解決策が引き出されることが期待されます。さらに、この方法は組織内の人間関係の質を高め、より健全なコミュニケーション文化を育てるための戦略としても機能します。組織全体の協調性が向上し、チームワークが強化されることで、より効果的な組織運営が可能になるのです。

 リーダーとしては、この手法を用いることで、メンバーからの信頼を得やすくなり、リーダーシップの質を向上させることができるとされています。組織内での対立が適切に管理され、解決されることで、チームの士気や生産性の向上にも寄与します。そのため、この「No-Lose 対立解決法」は、現代の多様な職場環境において特に重要な手法と言えるでしょう。

 加えて、この対立解決法は、組織内のコミュニケーションと意思決定のプロセスを民主化する効果もあります。全員が平等に意見を述べる機会を持ち、合意形成に参加することで、メンバーの主体性とエンパワーメントが促進されます。これは、トップダウンの意思決定ではなく、ボトムアップの協働を重視する現代の組織運営にとって不可欠な要素です。

 また、この手法は、対立の予防にも役立ちます。定期的にこのプロセスを実践することで、潜在的な問題や懸念を早期に特定し、対処することができます。これにより、深刻な対立に発展する前に、問題を解決することが可能になります。

 さらに、「No-Lose 対立解決法」は、組織の学習と成長を促進します。対立を通じて、メンバーは互いの視点や価値観を理解し、新たな洞察を得ることができます。これは、組織全体の適応力と回復力を高めるための重要な基盤となります。

 この方法は、組織内のダイバーシティとインクルージョンを推進する上でも有効です。多様な背景を持つメンバーが対等に参加し、互いの違いを尊重しながら協働することで、包括的な組織文化が育まれます。

 以上のように、「No-Lose 対立解決法」は、単なる対立解決の手法にとどまらず、組織の健全性と持続的な発展を支える包括的なアプローチと言えるでしょう。リーダーがこの手法を習得し、実践することで、より強靭で協調性の高い組織づくりに貢献することができるのです。

メソッドⅢのステップ詳細

 メソッドⅢ(Method III)は、対立している両者が共同で解決策を探求し、双方のニーズを尊重し合いながら、最終的には双方にとって受け入れ可能な「ウィン・ウィン」の解決策を見つけ出すことを目指しています。メソッドⅢのプロセスは複数のステップから構成されており、各ステップは具体的な対話技術と問題解決の戦略に基づいています。

1.ゼロステップ(準備段階)

 対立が明らかになった時点で、双方の動揺した感情に真摯に向き合い、お互いの感情を率直に伝え合うことが求められます。怒りや不安、傷ついた気持ちなどを表出することで、感情的な洪水に対処し、冷静な議論ができる状態にまで持っていくことが肝要です。
 また、メソッドの6つのステップを丁寧に説明し、対立している全ての人のニーズを満たす解決策を見つけるプロセスであることを十分に理解してもらう必要があります。この段階では、時間を惜しまず、全員が納得するまで話し合いを続けることが大切です。

2.問題とニーズの特定

 お互いのニーズを出し合うために、I-メッセージを用いて自分のニーズを伝え、アクティブ・リスニングを通して相手のニーズを引き出すことが重要です。「私は〜を必要としています」「あなたにとって大切なのは〜ですね」といった言葉を使いながら、双方のニーズを丁寧に探っていきます。
 表現されたニーズは漏れなく記録し、全てのニーズについて双方が受容できる定義を決定します。この際、問題を排除するために相手の突然の約束を安易に受け入れることは避け、本当のニーズを見極めることが肝要です。

3.解決策のブレーンストーミング

 定義されたニーズを満たす可能性のある多くの解決策を生み出すことが課題となります。ブレーンストーミングを通して自由に案を出し合い、お互いのアイデアを組み合わせて発展させていきます。この際、批判や解決策の押し売りは厳に控え、積極的な参加を促すことが求められます。「それは面白い案ですね」「そのアイデアを発展させるとしたら〜はどうでしょう」など、建設的なフィードバックを心がけます。
 アイデアの数を重視し、斬新な発想も大いに歓迎します。最終的な解決策は誰が提案したかではなく、全員で選択したことが重要であると強調します。

4.解決策の評価

 それぞれの案が実用的か、隠れた問題がないかなどを吟味し、意見の一致を目指します。「この案は本当に実現可能でしょうか」「長期的に見てうまくいくか心配です」といった問いかけを通して、現実性を多角的に検討します。全ての解決策が考慮されるまで評価を続け、安易な同意は避けるべきです。もし満足のいく解決策が見つからない場合は、ステップ1とステップ2に立ち返って、未対処の感情やニーズを探ることも必要です。

5.解決策の決定

 全員の合意が得られる解決策を選択します。多数決ではなく合意形成を重視し、意見がまとまらない場合は、合意した範囲の確認、ニーズの再検討、問題の再定義などを丁寧に行います。「この点については意見が一致していますね」「〜のニーズについてはもう一度話し合う必要がありそうです」と議論を整理しながら、全員が納得できる落とし所を見出していきます。

6.行動計画の立案と実行

 選択した解決策を実行に移します。いつまでに誰が何をするかを明確にし、全員の了承を得ることが重要です。役割分担や期限を決めたら、必ず声に出して確認し、記録に残します。解決策の実行を強制したりチェックしたりすることは避け、うまくいかない場合は解決策自体を見直すことが求められます。信頼関係に基づいて、各自が自発的に行動することを促します。

7.結果の検証とプロセスの見直し

 合意した時期に結果をチェックします。解決策が機能しているか、対立が再発していないかを確認し、問題があれば再度プロセスを踏むことが必要です。「この解決策は当初の目的を達成できていますか」「新たな問題が生じていませんか」と振り返りながら、必要に応じて軌道修正を図ります。解決策が失敗に終わったとしても、それは個人の責任ではなく、解決策自体の問題であると認識することが大切です。

 メソッド III を効果的に活用するには、プロセス全体を通してアクティブ・リスニングとI-メッセージを意識的に用い、お互いのニーズや感情に配慮しながら建設的に問題解決を進めることが何より重要です。感情的になりがちな対立状況においても、このメソッドに沿って冷静かつ協調的に取り組むことで、双方が納得できる解決策を見出すことができるでしょう。メソッドを形骸化させることなく、その本質を理解し、柔軟に適用することが求められます。

 対立解決は一朝一夕にはいかず、困難な道のりになることも少なくありません。しかし、メソッド III を道しるべとして、粘り強く話し合いを重ねることで、必ずや光明を見出すことができるはずです。対立を恐れることなく、むしろ対立を成長のチャンスと捉え、建設的な議論を通して互いの理解を深めていくことが何より大切です。

 このメソッドは、単に対立解決のためのツールにとどまりません。日常の様々な場面で応用することで、コミュニケーションの質を高め、より良い人間関係を築いていくことができます。仕事上の問題解決はもちろん、家庭内の諍いや友人とのトラブルなど、あらゆる対人関係の改善に役立てることができるでしょう。

 多様な専門家たちが協力的な問題解決セッションに取り組む様子を描いた、柔らかなパステル調のイラストです。現代的な会議室の設定で、チームワークと効果的なコミュニケーションの本質を捉えています。

メソッドⅢを用いた具体的な事例

 メソッドⅢを用いた具体的事例を紹介します。

事例背景

 あるソフトウェア開発プロジェクトチームで、プロジェクトの期限を守りながら最高の成果を出すために、作業配分をどのように決めるかで意見が分かれています。プロジェクトリーダーの田中さんは、チームの公平性を保ち、全員が等しく貢献することを望んでいます。しかし、チームメンバーの一人である佐藤さんは、自分の専門技術を最大限に活かすことに重点を置き、特定の技術的な部分を担当することを希望しています。このような背景から、メソッドⅢを用いた解決策が求められています。

メソッドⅢの適用ステップ

  1. ゼロステップ(準備段階)
     
    田中さんは、佐藤さんにミーティングを提案し、両者が参加することでより良い解決策が見つかると考えています。彼はこのミーティングの目的を「プロジェクトの作業配分を最適化し、期限内に高品質の成果を達成する」と設定します。田中さんは佐藤さんに対し、話し合いに積極的に参加してもらえるように協力を求め、そのプロセスの価値を説明します。

  2. 問題とニーズの特定

    • 田中さんのニーズ
      チーム内での作業量の公平性を保ち、全員が等しく貢献することでチームとしての団結力を高め、プロジェクトの成功を図る。

    • 佐藤さんのニーズ
      自己の技術的専門知識を活かし、より効率的かつ効果的にプロジェクトに貢献したいという強い願望があります。

  3. 解決策のブレーンストーミング
     
    このステップでは、佐藤さんの技術的な専門知識を生かしつつ、他のメンバーも適切に貢献できるような作業配分の案を複数出し合います。例えば、特定の難易度の高いタスクは佐藤さんが主導し、他の一般的なタスクは他のメンバーが分担する提案がなされます。ブレーンストーミングですので、評価、批判はせずに進めます。

  4. 解決策の評価
     
    田中さんと佐藤さんは、提案された解決策の中から、実行可能性、効率性、及び公平性を基に評価を行います。ここでは、どの案がプロジェクトの目標に最も適しているか、またチームのモラルにとって最良かを考慮します。

  5. 解決策の決定
     
    最終的に、双方が納得する解決策を選びます。

  6. 行動計画の立案と実行
     
    決定された作業配分計画に基づき、具体的なタスクリストとスケジュールを作成し、各メンバーに責任の範囲を明確にします。そして、プロジェクト管理ツールを用いて進捗を追跡し、定期的にレビューを行います。

  7. 結果の検証とプロセスの見直し
     
    プロジェクトの中間点で成果を評価し、作業配分が各メンバーの生産性にどのような影響を与えているかを検証します。必要に応じて、作業配分を再調整し、更なる改善を図ります。

 この事例では、メソッドⅢを用いることで、田中さんと佐藤さんがそれぞれのニーズを理解し合い、チーム全体の利益と個々の専門性を考慮した公平で効果的な解決策を導き出すことができました。このプロセスを通じて、チームメンバー間の信頼関係も強化され、プロジェクトの成功に寄与することが期待されます。


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