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月明かりのセンターライン【後編】

真夏の夜・午前2時過ぎ。

真っ暗な国道2号線沿いの山賊・駐車場で、
僕達は無数の“族”たちに囲まれていた。

車のエンジンがかからないことを聞き終え、
族のリーダーと思しき男は

「お前ら!この車を押せ!!」

と言い放った。

「おおー!!」

と獣の咆哮にもにた叫びとともに、
僕の車[日産ラングレー]は
あっという間に駐車場内を疾走し始めた。

友人3人も逃げるように車内に滑り込み、
“族”の生み出す桁違いの加速に恐怖していた。

「ギアを2ndに入れて…」

これはその頃読んでたマンガ
『ペリカン・ロード』から得た雑学だ。

「…そしてクラッチを…繋ぐ!」

車が2号線に出たところで、
愛車は息を吹き返した。

ブオン!ブオブオー!

僕は窓を開けて叫んだ。

「ありがとうー!!」

“族”たちは笑顔で手を振ってくれていた。

しばらく快調に走っていたが、
タコメーターの針が徐々に下がり始めた。

友人は
「そんなんして脅さんでもええから」
「早く広島に帰ろうで」
と笑っている。

「…いや、マジでおかしい」

車内が凍りつく。

エンジンの回転は勢いを失い、
やがて…止まった。

街灯も何もない国道。
幸いだったのは満月だったこと。

月明かりに照らされ、
道の反対側でお地蔵さんが微笑んでいた。

何かを感じたのか友人3人は、
車を降りて地蔵に手を合わせていた。

「無事に帰れますように!」

その願いが届いたのか、
耳を澄ますと、またあのサウンドが。

パァーパパパ、パァーパパパ、ブォーン!

眩い光が洪水のように押し寄せてくる。

無数のバイク、車が、
一旦は僕達の横を通り過ぎていったが、
すぐさま引き返してきた。

「兄ぃちゃんら、また止まっとるな!
 お前ら、押せー!!!」
「おおー!!!!」

あっという間にラングレーは、
猛スピードで押され、そしてエンジン復活。

「ありがとうー!!!」

山口県の“族”。
なんて良い人なんだ!
人は見かけで判断しちゃいけんな。

そんなことを考えていると、
再びタコメーターに異変が。

回転数が下がり始める。

ここで僕は考えた。

「エンジンはかかるから
 内燃機関のトラブルではない。
 では、考えられるのは…
 電気系統!!」

試しにヘッドライトを決してみた。
すると…。

「ウォーン!」

回転数が上がった。
やはり原因は電気系統。
これで解決か。しかし…。

またしても回転が落ち始める。

僕は覚悟して、
スモールライトも…消した。

車内は異様に静まり返っている。

満月の月明かりに照らされた、
センターラインを頼りに、
真夜中の国道を進んでいるのだ。

時々
「少し右」
「うん。」
と4人の目で微調整しながら、
それでも時速30キロくらいで
進んでいく。

西広島バイパスには乗らず、
ずっと下道で、市内に入ったときには
東の空は白んでいた。

無灯火で真夜中に運転するなんて、
恐怖以外のなにものでもなかった。
事故なく無事に帰れて、本当に良かった。【完】

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