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はじめての”ネイティブとの”英会話

信じてもらえないかもしれませんが、恥ずかしがり屋の私は、人と話すのが苦手でした。今でいうならコミュ障の予備軍でした。日本人と話すのも苦手ですから、外国人相手ならなおさらです。

大学では、選択科目として英会話が用意されていましたが、恥ずかしがり屋の私は当然、選択しませんでした。英語の重要性はわかっていましたが、積極的に英会話を学ぶことはしませんでした。

簡単な英語なら読み書きに不自由はしませんが、会話となるとそうは行きません。水泳の本を読んだだけで泳げるようにはならないように、英語の本を読んだだけでは英会話は出来ません。そんな私に、強制的に英語を話さなければならない状況がやってきました。

私が博士課程に進学した頃、現在取り組んでいるMT法のフィールド調査があり、私もアルバイトで参加することになりました。当時はMT法は日本でようやく認知されたころで、フィールド調査は海外からのクルーを呼び寄せて実施しなければなりませんでした。暇だった私は、当時の担当教官から「勉強になるから、行ってきなさい」と背中を押されました。

MT法の海外クルーは6名で、全員アメリカからやってきました。もちろん、全員英語のネイティブスピーカーで、日本語はしゃべれません。最初の顔合わせの時にはカナダ在住の日本人がいましたが、数日後に別の現場に行ったので、日本語の喋れないアメリカ人と、英語が喋れない日本人だけが調査現場に残されました。

フィールド調査の現場は、大分県の九重町周辺でした。私は、測定機器を設置する二人のオジサンに同行して作業を手伝うことになりました。このうちの一人はマッチョなオジサンで、もう一人も恰幅の良いオジサンでした。まず最初の測量をして、東西南北の4つの電位電極を設置するのですが、ここで覚えた英語が”your left/your right”でした。私が測量のポールを持って、彼らが私に方向を指示するのですが、最初は”left/right”と言われても、どちらに動いてよいのかわからずに固まっていました。それをわかったオジサンが、”your left/your right”と指示をしてくれるようになりました。

アメリカ人クルー達はゆっくりと話してくれるので、簡単な内容なら理解することができました。ただし、何かを聞かれて、それに答えるのが大変でした。英会話はその時が殆ど初めてだったので、ヘタクソな発音で何とか言葉をひねり出しました。質問の答えに自信がないので、いつも会話のなかに「メイビー(maybe)」をつけていたら、ある時一人のクルーから、「ユーはどうしてメイビーばっかり使うんだ?」と指摘されました。その彼から、「英語にはprobablyやperhapsなどの曖昧さを表わす言葉がたくさんあって、曖昧さの程度によって使い分けている。メイビーばかりを使うのは良くないぞ」みたいな内容だったと思います。

ある時、作業服を洗濯しているクルーから、「ブリーチはないか、ホテルの人に聞いてくれないか?」と依頼されました。しかし、この時の私はブルーチが意味する日本語がわかりませんでした。彼は身振り手振りで一生懸命説明してくれて、”bleach”が”漂白剤”であることがわかりました。これ以来、bleachを忘れたことはありません。

アルバイトは2週間くらいでしたが、中身の濃い2週間でした。しかし、最初の英会話は散々な結果に終わりました。このあとも、英会話は劇的には上達せずに、現在に至っています。

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