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「被災体験も前向きに」 西村尚さん

震災テーマの劇で主演

 石巻市出身の俳優で関東を中心に活動する西村尚さん=東京都=。震災時は青葉中学校2年生で津波にのまれながらも何とか生還した。仮設住宅で暮らす中、復興支援で訪れた演劇の世界に興味を持ち、高校卒業後に上京し、俳優として経験を重ねてきた。

公演に向け、他の出演者とともに稽古を重ねてきた

 西村さんは、9―10日に石巻市立町のライブハウス「石巻ブルーレジスタンス」で公演を行う。同じく同市出身の秋月昌広さん(48)=埼玉県=が主宰する劇団で、震災をテーマにした作品の主演を務める。「主役になったことで今まで自分で避けてきた震災体験を、心の中に落とし込めた気がする」と話した。

 震災があった日は卒業式。先輩の巣立ちを見送った後、友人と遊びに出かけていた。同市大街道東で大きな揺れに遭遇し、どこに避難しようか考えているうちに押し寄せる津波に進路を阻まれ、のみ込まれた。

 「必死にもがいた記憶だけはある」と西村さん。なんとか民家の庭にあった高台にたどり着き、九死に一生を得た。その日は動くことができず、偶然近くに流れ着いた窓ガラスの割れた車の中で寒さをしのいだ。水が引いてからは門脇中学校に避難。その後、家族や友人の無事を知った。

「明るい気持ちを届けたい」と話す西村さん

 同市三ツ股の自宅は流失したため、高校時代は仮設住宅で暮らした。3年生の時、中瀬公園で見た「劇団どくんご」の石巻公演で演劇の世界に興味を持ち、関東の専門学校へ進学。卒業後はフリーの俳優として活動の場を広げてきた。

 そこでついて回ったのが「石巻出身」の言葉。西村さんは「石巻の名が出ると、被災地や被災者という部分に焦点が当たる。過去に戻ってしまうことが嫌だった」と話し、これまでは震災に関連する出演や取材を断ってきた経過がある。

 それを大きく変えたのは、秋月さんが主宰する劇団「曼荼羅(マンダラ)ジャンキー」への出演だった。秋月さんも震災直後は石巻に戻り、惨状を目の当たりにした。その経験を基に描いたのが、今回公演する作品「繋がる鼓動」。秋月さんは「主演は被災経験のある西村さん以外にあり得なかった」と話す。

 西村さんも「震災を正面から描く作品に出演することで、自分の中で変化が起きた」と語った。同劇団の作品は基本的にコメディで、震災をテーマにしながらも前向きで、笑いがあるのも特徴だ。

 公演は9日午後7時、10日は正午と午後5時開演。チケットは一般3千円だが、10日正午の公演は高校生以下無料。西村さんは「地元の人たちに見てもらい、前向きな気持ちになって楽しんでくれたらうれしい」とにこやかに話していた。
【渡邊裕紀】

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