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ルッキズムに縛られて、外に出られなくなった日。

「仕事、楽しい?」「うん、楽しいよ。」
嘘ではなかったはずの会話が、実は自分を言い聞かせてなんとか外へ行く理由を作っていたのではないかと気がついたのは月曜日の朝だった。

週の始まり、月曜日。
いつものように前日に準備したお弁当を冷蔵庫から取り出して、準備をしようとしていた頃。メイクも終わって着替えも終わって「さぁ、行くか」というタイミングで私は、声を上げて泣きはじめた。文字通りというか、そのままというか「うわぁぁぁぁぁん」と声を上げて泣く姿は、おそらく三歳児のようだったと思う。家を出なくてはいけない時間はとうに過ぎていたけれど、涙は止まらず流れ続けた。

きっかけは、些細なことの積み重なりだった。
はじまりは、大学四年生の頃に付き合っていた一歳下の恋人に言われた「可愛いと思ったことがないんだよね」。当時の私は泣いて、自分の身なりに自信が持てなくなり持っていた服をゴミ袋三つ分処分した。
それから、一年前。これも当時付き合っていた人の友人とお酒の席で会った際、別れ際に「おい、ブス」と呼ばれて開いた口が塞がらなかった。
そして、昨年十二月。お酒を飲んだ帰り道に二歳下の後輩に「デブなんですね」と言われた。人生で初めてだった。
おそらく、今までのことが気がつけば積もっていたのだろう。冗談ですよといくら後から言われても、そんなのはなんの足しにもならなかった。年が明けてから体型のことについて言われたのが気になって、毎日何かしらの運動をするようになり、体重計に乗って数値が減っていないと安心できない日々が一ヶ月続いた。欲しかった服も「いや、似合わないよな、うん。」とカートから全部削除した。服を買うのが怖くなっていた。

最後の引き金を引いたのは「ハートを描いてみてよ」と、とりとめもない会話の中で言われたときのこと。特に何も考えずに描いたハートに対して「可愛くないハート」と笑われた。別に、私という人間に対して言ったわけではないのも、外見に対してのことでないのもわかっていた。それでも、私はどこかでその言葉を反芻させて「自分自身ですら可愛くないだのブスだのデブだの言われるのに、私は私から生み出されるものまで可愛くないんだな」と深く傷ついた。その帰りに涙が出た理由に気がついたのは、それから数日が経ってからだった。

そうして、気がついた頃には冒頭の月曜日のようになっていた。服を選びたくない。選べない。かろうじて選んでも、外に出るのが怖い。そもそもメイクにすら自信が持てない。鏡を見ると泣きそうになる。目線がある場所に行きたくない。誰かに見られているいないの問題ではなく、“見られる可能性がある”ことが問題だった。
仕事を楽しいと言っていた私も、楽しいと言い聞かせることで外に行く理由を作っていたのではないかと不安になって、火曜から木曜までの三日間は家から出られなかった。

そんな日々が、今も私の中で続いている。外に出なくては行けない日は、なるべく人に会いませんようにと心の中で祈る。そんな日々。

そもそも、私は私が好きだった。身長が高いのも、決してぱっちりしていない一重も、平均と比較して長めの手脚も、首も。自分の手だって好きだった。母はいつも私を褒めてくれていたし、どんな服を着てもそれなりに様になるのが好きだった。それでも、人にかけられた些細な言葉の数々が気が付けば呪いのようになり、身動きが取れなくなっていた。言葉は呪いになるのだと、身をもって感じた。こんなことは、できれば一生感じたくなかった。

そんな日々の中、先日、福岡の親友にことの流れをLINEですべて話した。
彼女はあまりにも彼女らしすぎる返事をくれた。

けいちゃんの真実は、この世にたった1人のけいちゃんという人間は、いつだって世界一優勝金メダル級に素敵ってこと。どうなってもこの事実だけは変わらないってこと。

あとあなたはとっても可愛いし、素敵だし、最高。連ねる言葉だって素敵。素敵でいようとしなくても、そのままで素敵なところがすごいの。だからそのままで輝いてるの。輝いていいの。

そこには彼女がいて、私のことを抱きしめながら頭を撫でてくれていた。私はこのメッセージを読んで、少し泣いて、少し笑って、ありがとうと思った。彼女と、今年の暖かい季節に元気に会う約束をした。柄シャツを着て、ポニーテールにして会いに行く、そんな約束ができた。

きっとこれは、なにか一つクリアすればなんとかなる問題ではなく、すこしずつステップを踏んでいく必要があることなのだと思う。まずはもう一度自分を好きになって、自分の中のときめくものにちゃんと目を向けられるようになり、そしてその中から自分に似合うと思えるものを迎えられるようになる。それに尽きるのだと思う。だから、今は少しだけゆっくりと進んでいきたい。外に全く出なくていいなんていう仕事ではないし、服を選んでメイクをしなくてはいけない日もだいぶある。少しずつ、自分を愛せるようになれたらいいと思う。

私に「そのままで輝いてるの。輝いていいの。」と言ってくれた彼女に会えるその日までに、もう少しだけ外の空気を吸うことを楽しいと思えるように。自分を愛したいと思う。

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