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10年近く続いた夢が終わった日の話

大号泣をしながら起きる朝が、年に数回あった。そんなふうにして起きた日は、必ずと言っていいほど夢を見ていた。小学生から高校生にかけて定期的に見る夢だった。

いつも何か人間っぽいものに追われていて、必死に逃げる夢だった。逃げても逃げても最終的に銃とかで殺される夢で、小学校高学年になった頃には殺されないと夢から覚められないことに気がついてわざと殺されるように夢の中で仕向けたりしていたし、中学に上がると死んだふりを夢の中でするようになった。

私が見るこの手の夢は夢の中での意識がわりとちゃんとあって、夢を夢だとちゃんと認識をしていて、夢の中で夢から覚めるための行動をしようとしていた。

私は夢の中だけじゃなくて、眠る前も夢を見ないように祈っていた。小学校入学前は、悪夢を見ないようにするため、眠る前に枕元で「バクさん、バクさん、怖い夢を食べてください」とお願いしていた。夢喰いバクとも呼ばれるバクは夢を食べて生きると言われていて、それを父親から聞いた幼い私は毎晩お願いをしていた。
殺される夢を見た日も、その晩はどうしても寝るのが怖く、中学生になっても目を瞑りながら私の中のバクに心の中で必死にお願いをして眠っていた。

そんなお願いをしていても、何度も悪夢は続いた。相手が何者なのかも、なんのために毎回殺されるのかもわからない夢は、10年近く何十回も続いた。

そんな夢が続いた高校生のある日、いつも私を殺していた相手を銃で撃ち抜く夢を見た。夢の中の私は「ふざけんな」とか「どうしていつも!」とかそんなことを言いながら銃の引き金を引いていた。その日は運動終わりのような荒い自分の呼吸で目が覚めた。身体は8時間近く寝たはずなのにドッと疲れていた。枕は涙で濡れていなかった。

その日から、私はあの夢を見ていない。あの夢の、あのよくわからない相手はなんだったんだろう。何を表していて、私の中で何が吹っ切れたんだろう。私は何を打ち抜いたんだろう。もしかしたら、あの日を境に私のなかの何かが変わったのかもしれない。そうだとしたら、もしそうだったとしたら、私は少し嬉しく思う。

私は今でも10階から落下して夢なのに浮遊感を味わったり、これは夢だなと夢を夢として認識することが多くある。自分でも不思議に思ったりするけど、きっともうあの長く続いた夢をもう一度見ることはないような気がしている。

もしいつか同じように何度も続く夢を見ることがあったとしても、いつかその悪夢は終わるし、終わらせることができるはずだと信じている。

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眠れない夜に

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