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『落下の解剖学』感想 心の傷とともに生きていくしかないのが人生

2月の頭に映画館でポスターを見てから、ずっと気になっていた一本
予定をつけられずにグズグズしているうちに、アカデミー賞脚本賞をとったということで、ますます見なきゃ!!!と思っていたので、無事に観られて良かった。
以下、ネタバレを含みます。

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・ダニエルは12歳なのに、ちゃんと現実を受け止めて、お母さんのこともお父さんのことも嫌いにならずにいて、偉いなー
・精神科医の証言のくだりを見てて、私の友達で医学生をしている子の話を思い出した。
精神科医は、薬を出して解決(なんて表現するのが適切なのか?)を図るのが仕事。悩みが深まったら薬を増やすしか道がなくなるっていう趣旨の話だった気がする。
心が不安定になって、その原因を取り除くのが本質的に不可能な場合、傷ついた心を抱えてどう生きるかが問題で、それは投薬ではどうにもならないこともあるんだと、感じた。
心の痛みが完全に消えることはないし、ひたすら傷を癒やし続けていくしかないんだよな。
私はKing Gnuの曲で『Sorrows』が大好きだけど、それは悲しみに立ち向かう術を力強く歌っているからなんだと気づけた。

・自分の幸福を追求しながらも息子に惜しみなく愛を注いで、いつも前を向いてがんばるサンドラは、一面的には自己中心的で、性に奔放で、思いやりに欠けるように見えるけど、それはサンドラの真実じゃない。
そもそも、人の真実とか、本質というものは存在し得ないと思う。
ダニエルが難しい曲を上手に弾けるようになるように、ヴァンサンがかつての想い人を一線をひいて弁護できるように、人間とは変化するもの。しかも、その変化も決して直線的なものではない。
個人は様々な側面を持っていて、それは演出や視点によって誇張されたり矮小化されたりする。
そんな意地悪な視線に翻弄されないで、あくまでも事実を自分の言葉(英語という話し慣れた言語)で堂々と語るサンドラに、母としての、人間としての強さを感じた。
それが自分の母親と重なって見えて、そこで泣けた。

・死の真相なんてものは、遺された者にとっては関係のないことで、遺族は何よりも、大切な人がいなくなったという揺るぎない残酷な現実に直面したショックや悲しみしか感じられないはずだと、私は思う。だから、サンドラとダニエルは裁判どころでないぐらい相当なつらい思いをしているはず。それなのに、そうした感情があまり細かく描かれなかったのが、強いて言えば気になるかも。

・でもわざわざ解剖学というタイトルをつけて、蓋を開けてみれば法廷シーンが大半を占める映画って、結構おもしろい。しかも劇的な真相の解明には至らなかったわけだし。
解剖したつもりになってるのは、誰なんだ?

・まあとにかく、スヌープがめちゃくちゃお利口ということが分かった。ボーダーコリーいいなー。

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