ショートショート(と、朗読) 行列のできるリモコン【SAND BOX 1099】
ーいいぞ。もっと伸びろ。ー
インターネット配信を観るためのリモコンのはずだった。けれど届いたのは思っていたものと随分違う。『行列のできるリモコン』。パッケージにはそう書いてあった。『大人気』ってことだろうか。
誤配送ということで返せばよかったのだけれど、なぜか興味が湧いた。封を開ける。棒状の装置に『10分』『30分』『1時間』とボタンがあった。タイマーだろうか。電池を入れてテレビに向けてみる。変わった様子はない。何度も押してみた。
ふと、窓の外を見た。家の向かいのお好み焼き屋に見たことがないほどの行列ができていた。パッケージの文字を思い出す。『行列のできるリモコン』。そうか、と僕は思った。
「付き合わせちゃって、ごめんね」
同じクラスの松本さんが笑った。人気の洋菓子店の前だった。以前から誰かに並ぶのを付き合って欲しいと言っていたのだ。僕からお供を名乗り出た。
「なんだかちっとも進まないね」
松本さんがよそ見をする度に、こっそり行列の先頭に向けてリモコンのボタンを押す。不思議な力で行列が伸びていく。いいぞ。もっと伸びろ。僕と松本さんの、二人きりの時間。
おまけ(水上さん爽やかさゼロバージョン)
声のお仕事をされている(詩や小説も書いておられます)水上洋甫さんにお願いして、朗読をしていただこう、のシリーズ「SAND BOX 1099」です。
今回は朗読の別バージョンのおまけ付きです。読み方を変えるだけでこんなにおかしくなるの(主人公一体いくつなんだろう)、なんかずるいですね(笑)。水上さんどうもありがとうございます。ぜひ聞いてみてください。
そして、今月は悠紀さんにイラストをお願いしました。一ヶ月間素敵なイラストをどうもありがとうございました。可愛らしい中にも、大人のユーモアを感じさせる絵だなあって思ってたんです。
水上さんも、悠紀さんも(そして私も)6月16(日)の岩手文学フリマに出店します。よろしかったら遊びにお越しくださいね。
今回のもとのお話はこちら。
前回のSAND BOXはこちら
sandbox1099のシリーズはこちらのマガジンにまとめられています。