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ショートショート(と、朗読)  深煎り【SAND BOX 1099】

ー「大事な生徒たちのためでごわす!」ー

「今年の入学式は『深煎り』を目指します」
 職員室に教頭先生の声が響いた。
「人生は苦い。しかしその中に旨みがある」
 始まった、と私は思う。他の先生たちもそう思ったはずだ。教師になる前はバリスタだったからといって、なんでもかんでもコーヒーに例えるのはやめて欲しい。
「では、夕方にピアノのリハーサルに入っていただきます」
「稽古は朝にするでごわす! 朝入りで!」
音楽の吉田先生が立ち上がった。教師になる前は力士だったという。
「いや、しかし浅煎りでは……」
「大事な生徒たちのためでごわす!」
 有無を言わさず吉田先生が教頭先生に飛びかかった。がっぷり四つに組む。教頭先生も一歩も引かない。
「ふ、深煎りです!」
「朝入りでごわす!」
他の教師たちがとめに入る。大騒ぎだ。ガラリ。騒ぎを聞きつけた校長先生が現れた。着物姿だ。教師になる前は落語家をしていたという。ぺちん、と扇子でおでこを叩いて言った。
「これにて、なかいり!」

イラスト 着ぐるみ

SAND BOX 1099 No.030

 声のお仕事をされている(詩や小説も書いておられます)水上洋甫さんにお願いして、朗読をしていただこう、のシリーズ「SAND BOX 1099」です。
 今月のイラストはnoteでイラストの投稿しておいでの着ぐるみさんにお願いしています。

 イラストを描いていただいていることを記事にしていただきました。どうもありがとうございます。

 着ぐるみさんには、5月19日の文学フリマ東京38に た-20 に御出店なさるウミネコ製作委員会がご販売なさる「ウミネコ童話集」(私も一編載せていただきました)の挿絵を描いていただいています。

 また、W-7 に御出店なさるおだんごさんの御本のイラストも描いておられます。

 文学フリマ東京38に足をお運びのさいは是非のぞいて行ってくださいね! 

前回のSANDBOXはこちら。