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エッセイ 顔の見える本(#わたしの本棚)

 noteやXなどのSNSを始めて4年めになる。明らかに変わったことが、本棚の中身で、見知った方の書いた本が増えた。正直、そんな日が来るだなんて思わなかった。

 4年も続けていれば、それなりにフォローしてくださる方も増えて(読んでくださってありがとうございます)、投稿を始めた時には思いもよらなかった大きさになったけれど、特に収益化しているわけではないから、たくさんの方の目に触れても実は「いいこと」はない。「フォロワー増やして何かいいことあるの?」と聞かれたら、「ないかもしれない」としか答えようがない。

 ただ、ここ数年私が見出している答えの一つは、「アカウントが大きくなれば、なっただけ、誰かを応援できる力は大きくなるかもしれない」ということで、自分がお願いして作品をお預かりした方や、好きなお店、お世話になっている企画を広めるのに、少しは役立てるかもしれない、というのがモチベーションのひとつになっている。

 同じ理由でXの方では、できるだけ読んだ本の感想を書くようにしていた。感想を言うと、多少なりとも本の宣伝にもなるかな、と思っていたからだ。自分自身の生活に特に呟くことが見つからない、という、私のSNS運営上の最大に欠陥も解消するからね。

 ここのところ、いろいろ立て込んでいて、本の感想のpostができないまま溜まってしまっているので、ここで書いてしまおうと思う。以前にXかnoteで紹介したことのある本は外します。終わらなくなってしまうので。ごめんなさい。


 「SHINONOMEDIA」。時折朗読をお願いしている水上洋甫さんのご参加されたオタクのためのフリーマーケット「SHINONOME」の初回合同誌です。水上さんは詩の活動もなさっていて、下のイラスト付きの詩と新聞は、盛岡で個展を開催なさったときのもの。宮城県気仙沼出身の方で、個展は震災をテーマにしたものでした。

「文学フリマ」すらnoteを始める前は知らなかった私にしたら、こうした創作物のイベントの存在は、今でもなんだか珍しい存在です。何かを創る仲間がいるって素敵なことですね。

 イベント繋がり、ということでnoteでお馴染みの方も多いであろう、白鉛筆さんの「九回死んで、直列。」です。表題作はnoteに記事もありますね。

 白鉛筆さんの作品は、情動的なものに流されない、冷たい、というより硬質的な、文字通り白い色鉛筆のような冷静さや温度を持っていると思います。理性的というか。この本の作品では「神はアイスクリームから生まれる」が好きです。他者との距離はあるんだけど、他者を求めない(共感や、同情をしない)ということではないんですよね。個人的な日常だと、こういうシチュエーションの時、逆にものすごく他人と社交的に触れ合っている方の方が相手に対してきっちりと感情的に分離できていたりする。迷う人の優しさを感じました。

 文学フリマといえば、「毎週ショートショートnote」のたらはかにさん。

「ベリショーズ関東支部」の名前でショートショートガーデンの作家の方々とショートショートの合同誌を出しておられました。(真ん中のプチプチしたやつ)。普段は電子書籍でご出版なされているものの書籍版です。

 「ベリショーズ関東支部」の参加者はたらはさんを始め、第19回坊ちゃん文学賞受賞者のそるとばたあさん(noteにアカウントをお持ちなんですよ!)や同じく第18回受賞者の椿あやかさん(イラストもお描きになっています!)もご参加なさっているというとても豪華な本です。そしてこの本の中のたらはさんの「ひとプチ、いかが?」はとっても怖いお話です。私、プチプチ、プチッとやるともう元に戻らないのが辛すぎて、プチっとできなかったりします…。

 写真の左端は「ひなた短編文学賞」の受賞作品集。同賞のたらはさんの大賞受賞作「可愛がってください」が掲載されています。プチッとしちゃう人が書いたとは思えないくらいハートフルな作品です。

 右端は「幻想と怪奇 ショートショート・カーニヴァル」。

 坊ちゃん文学賞第17、18、19回で佳作を受賞なさっている石原三日月さん(時々毎週ショートショートnoteに参加なさっているのをお見かけしています)が、第一回『幻想と怪奇』ショートショート・コンテストの優秀作を受賞なさっています。受賞作の「せせらぎ」は、思い出の景色に突然現れた不気味なものの描写に、グッと引き込まれ、読んだ後も恐ろしさを感じた作品でした。

 このコンテストでは同じく優秀作を坂崎かおるさんがご受賞なさっています。

 坂崎さんは今年3月に「嘘つき姫」を河出書房新社からご出版なさっています。一度、星々の会でお会いしたことがあり、Xで快進撃を眺めては感嘆の声をあげております。非常に完成度の高い短編を書く方です。

 この写真の3冊の本の共通点は、どの方も星々の短編コンテストの入賞者であること。
 左端の「はやにえ日記」は糸川及衣さん。こちらは現在電子書籍「我らは群れ」がKaguya Booksにて発売中です。第3回かぐやSFコンテスト審査員特別賞受賞の実力者です。

 「はやにえ日記」は糸川さんがもずのはやにえを探し回った文字通り日記で、小説ではないんですが、糸川さんの繊細さや、優しさ(故の身勝手な人間への怒り)を感じることのできる本です。

 右端の「棕梠10」は中川マルカさんが編集人をおつとめの総合文芸誌です。

 中川マルカさんご本人は第1回NIIKEI文学賞のショートショート部門の大賞をご受賞なさっています。

 「棕梠10号」も中川マルカさん、糸川乃衣さんがご参加なさっているとても豪華な雑誌です。noteにもいらっしゃる冬乃くじさんもご参加なさっていますね。「棕梠10号」に掲載されている中川マルカさんの小説は「あたらしい人には」。肉感的な描写や食べ物に関する描写が多い小説なのですが、いやらしさを感じる、とか食欲が湧く、とは一線を画した表現がとても特徴的です。少しの残酷さと、厳しい美意識を感じるような文章です。

 こんな本もあります。「脆弱さのネットワークとその構成員に向けたメモ」。

 つまずく本屋ホォルさんのある埼玉県川越市、mibunkaで場づくりの活動をなさっている吉田尚平さんの本です。「私が取り組む「場づくり」の記録であり、同じような状況に置かれた船と乗組員に向けためもでもある」と冒頭にあります。私は日中の仕事の関係で、街づくりにとても興味があります。職場で地域のそうした活動をなさっている方のお手伝いや支援をすることもしばしばです。ただ、そうした場合は私は立場上、あくまで「余所者」で、本当の芯の部分を担うことはありません。(それは私が民間企業の一員として一種の公共性を持って踏み込んでいるからで、そのコミュニティが排他的だという意味ではありません)。
 現場で人と向き合うのはとても大変で、エネルギーのいることだと思います。私はすぐに怯えてしまう方の人間なので、どんどん動いていく人を眩しく思います。

 最後に、ちょっと私ものっております星々の本を。

 オンライン文芸コミュニティ星々の雑誌「星々」。vol4には140字小説を載せていただいています。右の「羽牛の這う丘から」はこの前一緒にスペースでラジオをさせていただいた四葩ナヲコさんの短編集です。

 SNSを題材にした話から地球規模の移住が計画される近未来、魔法世界のファンタジーまで幅広いジャンルの話が収録されていますが、いずれの話でも登場人物たちは地に足のついた、悩みを持った人々です。きめの細かい文章を書かれる方で、バターケーキみたいな舌触りだと思います。よく冷やしたバターケーキのような。わたしは目地のあらい文章を書くにんげ…ねこなので、なんだかびっくりして、襟を正すような気持ちになります。

 これまでにもいくつか本の紹介記事をnoteで書いていますが、私はあんまり感想を書くのが上手ではありません。特にnoteでは意識的に「感想」というより、「何冊かを比較して、そこから自分が思ったこと」を書くようにしています。本そのものの感想は、興味を持って読まれた方が自分で持つものだと思うし、どこまで行っても私の記事の主目的は「感想」よりも「紹介」なんです。

 お話したことのある方から、遠くで眺めさせていただいている方まで、たくさんの方を本棚にお迎えさえていただいてきました。皆様の活躍を眩しく拝見しております。私もnoteで記事を書いたり、イベントで本を出したり、公募にチャレンジしたりするようになったのだけれど、それらがね、いつか全部ダメになっても、こんなにたくさんの方が活動しているから、なんか大丈夫だなあ、と思ったりするんです。
 大丈夫、っていうのはなんか変かもしれないけれど。

 私はずっと何かを書くことが続けたかったから、そうやって、書くことを続けて、活躍までできている方はすごいと思うし、応援したいと思うんです。
 私も、きっと、やれるうちは続ける。でも続けられない日が来るかもしれない。
 だからね、少しでも、みなさんの続けていく力になったら、嬉しいなあって、思います。そしたら、何かを作っていく人がずっと続くでしょう。ずっと、これからも、そういう幸福が、みんなにずっとあるといいなあって思うんですよ。(これだけ書いてきたくせに、結局うまく言えないね)

エッセイ No.113



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