へいた|ショートショート

小説(ショートショート)を書いています。第二期「月々の星々」年間大賞。2023年よりオ…

へいた|ショートショート

小説(ショートショート)を書いています。第二期「月々の星々」年間大賞。2023年よりオンライン文芸コミニティ「星々」の運営に参加。一杯の珈琲のようなお話が目標。

マガジン

  • ショートショートnote参加集 WEEKS

    たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」への参加作を集めています。お題に従った410文字。週替わりの一杯どどうぞ。

  • ただの日記

    キラキラでもハラハラでもない、ねこの中の人のただの日記。

  • 朗読付きショートショート集 SAND BOX 1099

    水上洋甫さんの朗読による画像付きショートショート集です。ショートショートのお砂場。こんなんできるんだなあ、というのが作れたら、いいのに、なあ。

  • エッセイ集 へいたのはなし

    エッセイ集です。ここに書いていることだけは本当の話です。おそらく、多分、だいたいは。

  • ショートショート集 ARRANGED

    パスティーシュ集です。日本古典と近現代文学が主です。ミルクコーヒーにロシアンコーヒー、アイリッシュコーヒーもいいですね。アレンジ作品がお気に召したらどうか原作をご覧ください。ベースが良いからこそのアレンジです。(台無しにしないように気をつけますね!)

記事一覧

固定された記事

ショートショート(と、朗読)  逆光【SAND BOX 1099】

ー水飛沫。ー  父は写真が趣味だった。  出かける時はいつも大きな荷物を背負って、私や母そっちのけでレンズをのぞいていた。  撮った写真はリビングに飾る。客が皆褒…

ショートショート 奇岩シューズ

 だいたらぼっちはつぶやいた。 「地味だな」  東の方には富士山が見えた。だいたらぼっちが土を固めて作った山だ。西の方には琵琶湖が見えた。山を作るのに掘り返して…

ショートショート 祈願上手

 西尾店長の趣味は神社巡りである。店内どころか他の支店にまで知れ渡っている。 「子供の受験なので」 「父が病気になりまして」 「いい人が見つかりますように!」  ほ…

ただの日記 #35 (2024.05.19〜2024.05.25)

ガリガリくんチョコミント味をリッチに食すねこの中の人のただの日記 ←last week 2024年05月19日(日)  文学フリマ東京に(一般客として)行く。初めての方や何度目か…

ショートショート 山岳カルマ

 子供の頃から万事負けん気が強くて、なんでも一番でなくては気が済まない性分だった。一種の業だ。当然なんでもなんて無理だ。悔しくて布団に潜り込んでは朝まで唸った。…

ショートショート 文学トリマー

「毛を整えて、抜けていた歯を補おう。目でチャーミングに見せるのちょっといいかも」  先輩がデスクの横で僕に言った。きょとんとした顔で僕は見返す。 「わからないかな…

ただの日記 #34 (2024.05.12〜2024.05.18)

たぬきご飯に喜びを見出すねこの中の人のただの日記。 ←last week 2024年05月12日(日)  「岩瀬文庫のあゆみ」の企画展示を見に西尾市に行く。岩瀬文庫に行くのが久し…

ショートショート(と、朗読)  深煎り【SAND BOX 1099】

ー「大事な生徒たちのためでごわす!」ー 「今年の入学式は『深煎り』を目指します」  職員室に教頭先生の声が響いた。 「人生は苦い。しかしその中に旨みがある」  始…

おしらせ(その2) 文学フリマ東京38 ち-01〜02 出店のhoshiboshiブースで販売する雑誌「星々」に掲載していただいています。

 おしらせその2です。  5月19日(日)開催の文学フリマ東京、第二展示場2階Fホールち-01〜02に出店するhoshiboshiのブースで、雑誌「星々」の新刊「星々vol.5」〈特集…

おしらせ 140字小説の個人作品集シリーズ「言葉のふね」に参加します。(※文学フリマ東京にも "ち-03" でブースが出ます)

 本日はお知らせです。  140字小説の個人作品集シリーズ「言葉のふね」第1期に参加します。  監修・発行は「活版印刷三日月堂」(ポプラ文庫)、「菓子屋横丁月光荘…

ショートショート 冷凍記憶

 昔から記憶力はいい方で嫌なことばかり覚えている。幼稚園の遠足で水たまりに落ちたこと。小学校の入学式に雨が降ったこと。中学の初日は寝癖が直らなくて、幼馴染のよし…

ただの日記 #33 (2024.05.05〜2024.05.11)

ピノのチョコミント味にハマっているねこの中の人のただの日記。 ←last week 2024年05月05日(日) 前日の夜に激しく体調を崩す。兼ねてよりスケジューリングしていた用…

ショートショート(と、朗読)  ダイエット【SAND BOX 1099】

-「仕方がないな」-  お月さまには悩みがありました。いつもスリムでいたいのに、痩せては太ってを繰り返してしまうのです。鏡を見たら、もうまんまるの満月でした。  …

ショートショート ビンゴゲーム

 木枯らしが吹いて肩を縮めた。久しぶりに訪れた公園は遊ぶ子供もなく、古い遊具のペンキがはげかかっていた。  ちょうど十年前の午後だ。競馬でひどく負けた日だった。…

ショートショート 真夜中万華鏡

 坂本の爺さんは飲兵衛でな。真昼間から酒くらっては、道端で寝っ転がってた。村の人から咎められはしなくてな、酔っぱらいの割には悪さはしねえし、何よりたまに面白えこ…

ショートショート 放課後ランプ

 授業が終わった後の学校は真っ暗闇だ。僕みたいな陰気な人間にとっては。  帰りの会が終わると同時に鞄の中に教科書をしまう。目立たないようにするのが肝心だ。教室に…

固定された記事

ショートショート(と、朗読)  逆光【SAND BOX 1099】

ー水飛沫。ー  父は写真が趣味だった。  出かける時はいつも大きな荷物を背負って、私や母そっちのけでレンズをのぞいていた。  撮った写真はリビングに飾る。客が皆褒めた。実際、私から見てもよく撮れていた。  小学生の夏に家族で伊豆大島に行った。テレビで見た火山に父が心を打たれたらしい。行きのフェリーにひどく興奮したのを覚えている。産まれて初めての船だった。  海風のあたる甲板は気持ちが良かった。父が遠くの島に向かってカメラを構えていた。 「クジラが出るかもって!」  客室

ショートショート 奇岩シューズ

 だいたらぼっちはつぶやいた。 「地味だな」  東の方には富士山が見えた。だいたらぼっちが土を固めて作った山だ。西の方には琵琶湖が見えた。山を作るのに掘り返してできた湖だ。 「地味で結構」  にこにこしながらお天道さんが言った。 「両方とも、日の本一の光景だ」 「違う、違う」  だいたらぼっちが地団駄を踏んだ。 「俺が作りたいのはこういうのじゃねえんだ」  頭を掻きむしって富士山のてっぺんに拳を当てた。中から溶岩が溢れ出て、だいたらぼっちの素足に触れた。 「あっちい! 

ショートショート 祈願上手

 西尾店長の趣味は神社巡りである。店内どころか他の支店にまで知れ渡っている。 「子供の受験なので」 「父が病気になりまして」 「いい人が見つかりますように!」  ほとんど毎週、どこからか電話がかかってくる。この願いにはどこの神社がいいかみんな店長に聞きにくるのだ。 「神社巡りの仲間内では『祈願上手』なんて呼ばれまして」  今日は応接室で得意先とはなしこんでいる。隣の給湯室にいる筒抜けだ。 「いやあ、本当にお詳しいですなあ」  お客さまも満更ではないらしい。 「しかし、店長

ただの日記 #35 (2024.05.19〜2024.05.25)

ガリガリくんチョコミント味をリッチに食すねこの中の人のただの日記 ←last week 2024年05月19日(日)  文学フリマ東京に(一般客として)行く。初めての方や何度目かの方のブースを名刺とえびせんべいを持って歩く。名刺はとても怖い。「誰?」となるかもしれない、といつも膝が震えて逃げ帰りたくなる。(ちなみに特に名刺を渡さなくても逃げ帰りたくはなる)  帰宅途中でガリガリくんリッチチョコミント味を発見する。以前紹介されたが自宅周辺では見つからなかったものだ。購入して

ショートショート 山岳カルマ

 子供の頃から万事負けん気が強くて、なんでも一番でなくては気が済まない性分だった。一種の業だ。当然なんでもなんて無理だ。悔しくて布団に潜り込んでは朝まで唸った。  夜明け近くによく夢を見た。いつも同じ夢だ。抜けるような青い空。手が届きそうに近い。険しい山肌に緑が張り付いている。私は座ると黙って空を見上げた。  夢の場所が実在すると知ったのは高校生の時だ。地理の教科書の写真に驚いた。夢で立っていたのと同じ場所だ。「北岳」と書いてあった。「日本で二番目に高い山」とも。  こ

ショートショート 文学トリマー

「毛を整えて、抜けていた歯を補おう。目でチャーミングに見せるのちょっといいかも」  先輩がデスクの横で僕に言った。きょとんとした顔で僕は見返す。 「わからないかな。例えばここ」  先輩が僕の眺めていたページを印刷して手元に持ってきた。 「これをこう」  先輩が赤鉛筆で修正を入れる。 「ああ!」  声が出た。 「『ケ』を整えて、『は』を補って、『め』でちょっとチャーミングに見せるんですね?」 「さっきもそう言ったろ?」  先輩が呆れた顔をする。僕は笑って答える。 「毛整える

ただの日記 #34 (2024.05.12〜2024.05.18)

たぬきご飯に喜びを見出すねこの中の人のただの日記。 ←last week 2024年05月12日(日)  「岩瀬文庫のあゆみ」の企画展示を見に西尾市に行く。岩瀬文庫に行くのが久しぶりでわくわくする。古典籍を読む講座を受講し、帰りに寄った飲食店でオーナーの戦後の思い出話を聞く。昔は文庫の屋根に登って遊んだとか、お城の跡地で遊んだとか、楽しそうに話をしてくれる。  お茶屋さんに寄って抹茶(西尾の名物です)を飲む。いいお出かけでした。 2024年05月13日(月)  朝にた

ショートショート(と、朗読)  深煎り【SAND BOX 1099】

ー「大事な生徒たちのためでごわす!」ー 「今年の入学式は『深煎り』を目指します」  職員室に教頭先生の声が響いた。 「人生は苦い。しかしその中に旨みがある」  始まった、と私は思う。他の先生たちもそう思ったはずだ。教師になる前はバリスタだったからといって、なんでもかんでもコーヒーに例えるのはやめて欲しい。 「では、夕方にピアノのリハーサルに入っていただきます」 「稽古は朝にするでごわす! 朝入りで!」 音楽の吉田先生が立ち上がった。教師になる前は力士だったという。 「いや、

おしらせ(その2) 文学フリマ東京38 ち-01〜02 出店のhoshiboshiブースで販売する雑誌「星々」に掲載していただいています。

 おしらせその2です。  5月19日(日)開催の文学フリマ東京、第二展示場2階Fホールち-01〜02に出店するhoshiboshiのブースで、雑誌「星々」の新刊「星々vol.5」〈特集 地図〉が発売されます。  星々短編コンテストの受賞作や、140字コンテストの受賞作、エッセイなどとても読み応えのある雑誌です。(表紙のととりかさんの挿画も素敵です!)  この雑誌星々の中に私の書いた短編をご掲載いただいています。(リンクしているポストで試し読みができます) 普段not

おしらせ 140字小説の個人作品集シリーズ「言葉のふね」に参加します。(※文学フリマ東京にも "ち-03" でブースが出ます)

 本日はお知らせです。  140字小説の個人作品集シリーズ「言葉のふね」第1期に参加します。  監修・発行は「活版印刷三日月堂」(ポプラ文庫)、「菓子屋横丁月光荘」(ハルキ文庫)などの人気シリーズを手がけておられる小説家、ほしおさなえ先生です。2012年から140字小説をお書きになられ、現在まで多くの140時小説の活動を続けていらっしゃいます。  先日は、140字小説の入門書「言葉の舟 心に響く140字小説の作り方」(ホーム社/集英社)をご出版なさいました。 ※5月3

ショートショート 冷凍記憶

 昔から記憶力はいい方で嫌なことばかり覚えている。幼稚園の遠足で水たまりに落ちたこと。小学校の入学式に雨が降ったこと。中学の初日は寝癖が直らなくて、幼馴染のよしちゃんに笑われた。  よしちゃんとは同じ高校に行った。最初は私の方ができて、2年の冬には逆転された。  大学も同じ。大学には『記憶力がいい』だけじゃない人がいっぱいいた。よしちゃんもそう。私は違う。すぐに行くのが嫌になった。「学校やめたい」と私が言うと「いいかもしれない」とよしちゃんが言った。「好きなことやりなよ」

ただの日記 #33 (2024.05.05〜2024.05.11)

ピノのチョコミント味にハマっているねこの中の人のただの日記。 ←last week 2024年05月05日(日) 前日の夜に激しく体調を崩す。兼ねてよりスケジューリングしていた用事があったため、一考の後、決行する。目的地まで高速バス。バスに乗っている間、体調を崩さないか不安で仕方がない。途中で席をたちにくいのはどうも苦手である。高速バスは節約にはなるが、次からは他の交通手段で行きたいと思う。 目的地に付く。移動中ほぼ寝ていたのが幸いして格段に体調が改善する。ここ数日あまり

ショートショート(と、朗読)  ダイエット【SAND BOX 1099】

-「仕方がないな」-  お月さまには悩みがありました。いつもスリムでいたいのに、痩せては太ってを繰り返してしまうのです。鏡を見たら、もうまんまるの満月でした。  ため息をついて、スマートフォンを手に取りました。エステのお店の予約を取りました。 「いらっしゃいませ」  お店では上を下へのおもてなし。何せ本物お月さまです。とっておきのマッサージで、まんまるだったお月さまはほっそりスリムになりました。 「空にもう三日月がのぼってる!」  その夜、空にのぼった得意満面のお月さまに

ショートショート ビンゴゲーム

 木枯らしが吹いて肩を縮めた。久しぶりに訪れた公園は遊ぶ子供もなく、古い遊具のペンキがはげかかっていた。  ちょうど十年前の午後だ。競馬でひどく負けた日だった。財布にはかろうじて小銭が残っているだけだったが、帰り道にコンビニで酒を買った。家まで辛抱できる心境でもなく、道沿いの公園のベンチに座った。蓋を開けて、あおる。音を立てて風が吹いた。公園の砂が舞い上がって、思わず目を閉じた。 「やあ」 まぶたを開ける前に声がした。左の耳のすぐそばだ。目を開けて、声の方を向くと同じベ

ショートショート 真夜中万華鏡

 坂本の爺さんは飲兵衛でな。真昼間から酒くらっては、道端で寝っ転がってた。村の人から咎められはしなくてな、酔っぱらいの割には悪さはしねえし、何よりたまに面白えことを言うんだ。  ある日、爺さんがビールをひと瓶平らげちゃって、意地汚いもんだから、残ってねえもんかとひっくり返して眺めててな。すると、この辺じゃちょっと見ないくらいの身なりのいい紳士が爺さんに尋ねたんだと。 「何か見えるんですか?」  爺さん、罰が悪くて苦笑いだ。苦し紛れに瓶をくるくる回してみせた。 「瓶じゃねえ

ショートショート 放課後ランプ

 授業が終わった後の学校は真っ暗闇だ。僕みたいな陰気な人間にとっては。  帰りの会が終わると同時に鞄の中に教科書をしまう。目立たないようにするのが肝心だ。教室には恐ろしい生き物がうじゃうじゃしている。  シアイニムケテレンシューシヨーゼ。汗臭い野獣ども。カラオケバイトゲームナニスル。ピイピイうるさい鳥たち。ナヤミガアッタラショクインシツニオイデーナ。担任。一番厄介な妖怪。  鞄を抱えて席を立った。机と机の間を身を細めて抜ける。授業が終わった教室は無法地帯だ。安全な場所など