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最遅本命発表~マイルCS編~

天地が逆さにでもならない限り、シュネルマイスターの本命はあり得ない


初めに言っておくが、この発言を撤回することはない。
少なからず筆者をご存知の方であれば言うまでもなかろうが、補足として告げておくと俺は隙あらば横山武史騎手の騎乗する馬を本命に挙げる。

イギリスの伝説的登山家であるジョージ・マロニーが何故山に登るのかという問いに対し「そこに、山があるからだ」と答えた逸話はあまりにも有名だが、俺が武史を買うのも同じ理由だ。その馬に武史が乗れば買う、他に理由はいらないのだ。

しかし、今回はそうもいかない。横山武史をこよなく愛する私でさえ、今回はシュネルマイスターを買えない理由がある。

昔の自暴自棄な自分であれば、深くは考えずにただこの馬を買っていただろう。
だが、俺は変わった。TBS時代のベイスターズとDeNAベイスターズくらい変わった。あの頃の横浜は二軍チームだけ湘南シーレックスという異なる球団名だったことを知らない若い野球ファンも増えたことだろう。

いいんだ、知る必要はない。本当の闇に触れて若く純粋な心を汚す必要はないのだから。一軍ではてんで通用することのなかったジェイジェイ・ファーマニアックという謎の助っ人がキャプテンを務めていたシーレックスの話はここまでにしよう。

すまない、話が脱線してしまった。
かつての自分と今の自分を比較した時、最も大きく変わった部分。
それは、人生におけるあらゆる局面において【運命】というものの存在を強く意識するようになったことだろう。
この世界に生きとし生ける全ての生命は、運命という名の果てしなく壮大な大河の中を揺蕩うように生きている。
ちっぽけな価値観では途方もない奇跡としか思えぬ出来事でさえ、全ては運命という流れの中でそうなることが決まっていた必然なのだ。

ここで運命論を熱弁するつもりは毛頭ないが、70億人もの人間がうじゃうじゃとひしめくこんなにも青い星の中で、たった1人の相手と巡り逢って愛を誓い合うなんて奇跡があちらこちらで起きるなんて、運命としか思えないだろ。

なんならこんなちっぽけな一人の男が自由気ままに書いてるこんな文章を、今あなたが読んでくれてることだって、運命という流れの中でそうなることが決まっていたのかもしれないのだ。
すげえよな、地球って。月9よりもドラマチックな出来事がこうしている今だってどっかで起こってる。

この記事を読んでくださっているお前もあんたもてめえも貴殿も貴女も全員、この星に生きるメインキャストだ。全員に主演男優賞と主演女優賞をくれてやりたい。こんなnoteに目を通してくれている優しい皆様の人生はハッピーエンドに決まってる。幸せになってくれ、マジで。


気付くとすぐに話が脱線している。話を元に戻そう。
今回俺は、当初はシュネルマイスターを本命にする気満々だった。が、曲がりなりにも競馬予想noteを執筆している身で、何の根拠もなしに本命を決定する行為は、愛すべき読者の皆様への冒涜である。本命馬を選出するにあたり、運命の流れを占うのはスピリチュアル馬券師として当然のマナーだ。

今回俺はこの馬の運命を占う為に、新たなファクターとして「タロット」を用いることにした。まだまだ勉強中の不慣れな身ではあるが、古くは13世紀の頃よりその歴史が刻まれたタロットカードは単なるゲーム用カードではなく、古代エジプトの英知が詰まった神秘的な書ともされている、実に権威ある占い方法なのだ。

今後予想ファクターとして有効に活用していく為に、まずは習うより慣れろのつもりで、カードのデッキをシャッフルし、シュネルマイスターの運命を占う為に俺はカードを引いた。
そして、導かれたカードを目にした時、俺は思わず目を伏せたくなった。


逆位置



導かれたカードは、【吊るされた男・正位置】。
まだまだタロットの造詣が深くはない俺も、このカードが持つネガティブな意味合いは認識していた。正位置で導かれたこのカードが持つ意味合いは、

「試練」 「苦労」 「艱難辛苦」 「逆境」

杭に縛り付けられた男の姿が象徴するように、正にがんじがらめの運命を示唆するカードが導かれた時、俺はシュネルマイスターを本命にすることを諦めた。
運命の動向を重んじる予想家として、このカードが導かれた以上は、シュネルマイスターを本命にすることはできなかったのだ。


ここで少し余談を挟むが、俺がタロットカードに触れるきっかけになる出会いがあったのは今から十年ほど前のこと。

当時、最寄り駅近くの商店街で客が並んでる所を見たことがないきたねえ占い師が毎日客引きをしてた。
江原啓之の胡散臭さを100倍増しにしたような、気味の悪いおっさんだった。

間違っても俺はおっさんの占いに頼ることなんてあり得ないと思っていた。何故なら、俺が当時週8のペースで通っていたパチンコ屋でしょっゆう俺はあのおっさんを目撃していた。しかも本当にビビるぐらいに当たってる姿を見たことがなかった。怪しい念仏でも唱えるかのように、当たる気配のないハマり台に向かって熱心に何かを呟き続けるオッサンの姿を見て、俺はこんな男の占いなんぞ頼ってはならぬと心に誓っていた。人様の運命を占う人間が運否天賦のギャンブルに身を投じ、しかも天に愛されてすらいない。そんなオッサンの占いに金を賭けるくらいなら俺は三浦の単勝を買う。

当時、パチンコでスリ続けるおっさんを尻目に俺はそこそこパチンコで金を稼げていた。
ここで少しだけ、名機「CRぱちんこ仮面ライダーMAX EDITION」の話をしよう。
この台はヘソ当たりの内およそ57%が潜伏大当たりというスペックに加え、頻繁に当選する小当たりがくせ者であり、小当たりに当選する度に盤面左下のランプ群の点灯パターンをツールで確認しなければ、正式な大当たりか否かを判別できない嫌らしい台だった。

俺が通っていたホールはホール内の平均年齢70歳オーバー、車いすに乗りながらパチンコ、酸素ボンベを引きずりながらパチンコ、正に天国に一番近い場所だった。
しかして台の詳しいスペックなど知る由もなく、じいちゃんばあちゃん達が一心不乱にハンドルを握りパチンコを楽しんでいた。たまにはハンドルじゃなくて孫の手でも握ってやれ、そんなことを思いながら俺はホール内を徘徊し、虎視眈々と千載一遇のチャンスを狙っていた。
トラップモードに突入する台を見つけた時は、一時的にマサイ族ばりの視力を見に付け、ランプ群をツールに入力。潜伏大当たりしている台を見つけ、じいちゃんばあちゃんが潜伏に気付かずに台を離れた時には、初年度のロッテ荻野並の俊足で台を確保し、美味しい思いをさせてもらっていたのだ。

姑息な手段だが、勝たねばならぬ戦いを苦学生の俺は続けていたのだ。それに、俺も初めは老人を敬う純朴な心を持っていた。潜伏当たりを引いたのに席を立とうとした橋田寿賀子似の婆ちゃんに「ばあちゃん、それ当たっとるから後3000円だけ打った方がいいで」とアドバイスをした。結果的にばあちゃんは潜伏ST中に当たりを引けず、「兄ちゃん嘘ついたらアカンよ!」と悪態をついて店を出て行った。てめえのヒキ弱の責任を擦り付けられ、この日から俺は人の心を失った。渡る世間には鬼しかいねえと悟った俺は、その日以降は前述の手段で金を稼ぎまくった。

やや大きめに話が脱線してしまったが、そんなこんなでひたすら毎日負け続ける占い師のおっさんと、ライダーベルトが虹色に輝く様を見ながら勝ち続けた俺の奇妙な邂逅の日々が暫く続いた。
ある日のことだ、俺が一撃3万発の大勝利を収めて退店しようとした時、2000回転ハマりの花の慶次を閉店10分前にも関わらず現金投資し続けるおっちゃんの姿を見て、俺は流石に居た堪れなくなった。

パチンコ屋が閉店した後、いつものように商店街の通りで占いを始めたおっさんに、俺は自分の将来を占ってもらうことにした。
いつまでもパチンコばっかりして遊んで暮らす訳にもいかないし、真剣に将来に関するヒントが欲しい気持ちがあったのも事実。
おっさんは俺に一枚のカードを引かせ、そして導かれたカードに関する解説をぐだぐだと話してくれた訳だが、恐ろしいくらいにおっさんの占いは当たっていた。そして、おっさんのアドバイス通りに行動していくことで、就活やその後の人生はトントン拍子で良い方向へ向かっていくこととなる。

ただのギャンブルジャンキーだと思っていたおっさんは、占いに関する実力はマジのガチでピカイチだった。

以降、パチンコ屋で顔を合わせる度に談笑する間柄になったおっさんの占いは俺の人生の要所で大事な気付きをもたらしてくれたものだ。
今にして思えば、俺がスピリチュアル馬券師を自称し、今回のマイルCS本命予想にあたりタロットカードを予想に用いたのも、おっさんの影響があったことは間違いない。


いい加減に前置きが長くなりすぎてしまったが、いよいよ本題に入っていくこととする。
この前置きの長さは映画上映前に「NO MORE映画泥棒」のダンスを1時間見続けさせられるようなものだ。もう前置きは終わりにしよう。


俺は、おっさんに久方ぶりにLINEを入れた。



「最近俺もおっさん見習ってタロット始めてみたんだけどさ。買いたかった馬に、最悪のカードが出ちまったよ」


おっさん
『まあ、そんな日もある。どのカードが出たんだ?』



「【吊るされた男・正位置】。流石にこのカードが出た馬を本命にはできないよ」


おっさん
『…お前、タロット始めたばかりって言ったな。引いたカード、見せてみな』


俺は、言われるがままに先ほど添付したのと同じカードの画像をおっちゃんに送った。
すると、おっさんからの着信が入ったのだ。


おっさん
『まだまだカードの勉強が足りなさすぎるぞ、坊主。
お前が言ってることは“逆さま”だよ。吊るされた男ってカードはな、反逆者が逆さ吊りにされている姿を描いたカードなんだよ。

つまり、お前が引いたカードは【正位置】ではなく【逆位置】ってわけだ。

タロットの面白さってのは…』


嬉しそうにタロットの講釈を垂れてこようとしたおっさんの話を聞く余裕はない。
俺は電話をガチャ切りして、全身を駆け巡る凄まじい衝撃に身悶えた。


そう、俺は初めから勘違いしていた。


【吊るされた男】というカードの正しい姿はこうだ。



正位置



このカードの【正位置】が持つ意味合いは「試練」「苦労」「艱難辛苦」「逆境」と俺は言った。しかし、カードが【逆位置】で導かれた時、このカードは全く異なる運命の導きをもたらしてくれるのだ。

逆位置で導かれたこのカードが意味するのは、絶望ではない。

「逆境からの脱出」

「暗闇に射す光」

「番狂わせと栄光」

初の関西遠征に加え、立ちはだかる最強のマイル女王。
不安な要素は多く、簡単に勝てるレースではないことは誰の目にも明らかだ。

だが、運命はここに導かれた。


吊るされた男。正位置と逆位置。
運命の反転。覆された絶望。


秋の夜長に、ついに辿り着いた渾身の本命馬。


確かに、俺は冒頭でこう言った。


“天地が逆さにでもならない限り、シュネルマイスターの本命はあり得ない”


「吊るされた男」のカードを見つめ、思わず笑ってしまった。

そう。初めから、俺の中の天地は逆さになっていたのだ。

本命は、シュネルマイスター。

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