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Ami Ⅱ 第12章-キアに帰ってくるまで

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「先にに説明しますね。
遠くから催眠術をかけたのです。」
とアミがニコニコ笑いながら言ったのです。
「テリにも使えるの?」
「彼らに使うのは、簡単です。
人間の意識レベルが低ければ低いほど、遠くからでも、催眠にかけられやすくなります。
だから、商業広告は、最も多くいるそのタイプの人々に大きな結果をもたらすのです。
進化のレベルが上がるにつれて、意識はより目覚め、くだらない事に影響されなくなるのです。」
クラトが笑いながら小屋の中に入ってきました。
「テリのパトロール隊にこの紙を10回は見せたんじゃよ。
それでもいつも何もしないで帰っていくんじゃ。
お役所のミスで出生証明書がないんで、何の書類も手に入らないんじゃよ。
まあ、これも、印刷所に勤めていたスワマの友人が作ってくれたものなんじゃがの......。
ホホホ!」
みんなで笑いました。
「残念じゃが、その友人は、法的な問題を抱えていてな、もう書類の更新が出来ないんじゃ...、ほっ、ほっ、ほっ。」
僕はそのスワマの友人が偽造をしたために刑務所に入ったのだと思いました。
するとビンカは「なぜテリに見つかることを恐れなかったの?」と尋ねたのです。
「彼らのトリックは知っています。
かつて逃亡した4人のワコスかズンボス--どちらに属していたかは覚えていませんが--、パトロール隊から保護したことがあるのです。」
と、アミ。
「テリなんて守る必要ないのに。」
とビンカが反論しました。
「彼らが、早くお互いを一掃したほうが、キアの平和のためだわ。」
すると、アミが「テリとスワマは兄弟なのです。
「スワマの任務はテリを導き、保護することなのです。」
と答えました。
クラトは何か馬鹿なことを聞いたような顔で両腕を空に上げました。
「テリを導き、守ってください!
あいつらは、わしらを支配し武器を持っとるんじゃ。
わしらは平和的で権力やお金を求めない。
だからこそ、あいつらは、わしらを弱い愚か者だと思っておる。
あいつらは、物質主義で、わしらを劣等人種とみなしているんじゃ。
わしらが、あいつらを導くことは不可能じゃないかい。
あいつらの関心は、テリワコスとテリズンボスとの戦いだけなんじゃからの。
その戦いのために、あいつらは、わしらを不幸に陥れ、惑星のすべての資源は軍備のために使われ、いつかそれをフルに使い、キアは爆発するじゃろうよ。」
「何もしなければ、そうなるでしょう。」とアミ。
「じゃあ、どうしたらいいんじゃ?」
「平和、団結、愛について教えるのです。」
猜疑心の強いクラトは、嘲笑しました。
「何を言っとるんじゃ、アミ。
テリにそんな提案したら...あいつらは、お前さんを精神病院にまっすぐ連れて行くじゃろうよ。
彼らにとって愛とは、セックス、せいぜい自分の家族、それ以外の相手には、たとえ他のテリであっても爪をむき、牙を見せるんじゃよ。」
ビンカはクラトの言う通りだと思いました。
するとアミが笑いながら、
「あなたの方がテリより怖いですね!」
と言ったのです。
「わしらは現実主義者なんじゃよ、アミ。」
このときも、アミはクラトの反応を面白がっているようでした。
「現実主義者?
テリが世界を滅ぼそうとしてるのに黙って見てるなんて、自分たちは現実主義者だと思っているのですか?
自分の将来のために何もしないくせに、現実的だと思っているのですか?」
「あいつらは、わしらの言うことを聞かんじゃろうよ。」
「聞かないふりをしたとしても、聞いたことはすべて頭の中に記憶され、どんなアドバイスも失われることはないのです。
一方、テリはあまりにひどい混乱を放置しているため、多くの人が自分自身を疑い始めています。
彼らが耳を傾けるには、あなたがそこにいなければならないのです。
自分自身とあなた方を破壊する以外に何をするかさえも解っていないのですから。」
「でも、宇宙の仲間は船で私たちを助けてくれるのよね?」
とビンカが尋ねると、
大災害が起きたとき、善意のために働く人だけが助けられるのです。
とアミが答えました。
「わしは、世の中のことはよくわからんのじゃよ、アミ。
わしが解っとるのは、幸せについてだけなんじゃ。」
とクラトが小屋から外に出ながら言いました。
そして、アミは僕たちの肩を抱き、外に連れ出しました。
「それも大事なことです。
自分への愛は自分の幸せを求めるようになり、他者への愛は助けること、すべての人のために働くようになる事なのです。
どちらの愛もバランスがとれていなければなりません。

「わしは、この山に閉じこもって、人のことをあまり考えてこなかったような気がするんじゃよ。
アミ、どう思う?」
とクラトは思慮深く頭を掻きながら言いました。
考えることではなく、実行することです。
いずれにせよ、意図していなくても、あなたは、すでに人のためになることをしているのです。」
「わしが? ホー、ホー、ホー!想像できんがね。」
「いつかあなたが書いた巻物、しばらく前に私に読ませてくれた物、それこそが、私たちがここに来た理由、あなたが愛を手に入れる方法を示してくれているものなのです。」
「ビンカとペドロは方法を知らないのですが、多くの人に読まれる本を書いており、あなたの原稿を彼らの作品に転載することで、多くの人があなたのおかげで助かることになるのです。」
クラトはアミの言うことが、全部冗談だと思っているようでした。
「でも......わしが書いたことはそれほど重要ではないと思うんじゃが。
みんな知ってることじゃよ......。」
「そこに愛を手に入れる方法が書いてあるのなら、クラトが言ってることは間違いよね。
みんなが知っているわけではないし、私も知らないわ。」
とビンカ。
「僕もそう思うよ。」
僕はクラトの巻物を読みたくなって言いました。
「とても簡単な事なんじゃよ。」
老人は、自分の知識の重要性を納得することが出来なかったのです。
「あなたにとっては簡単なことですが、ほとんどの人にとってはそうではありません。
戻って巻物を取ってきて下さい。
この子たちに知っておいてもらいたいのです。」
「わかった、わかった、でもどこに置いたか覚えてないんじゃよ。
もしかするとチュミチュミが食べたかも知れんの?ホホホ!」
彼が小屋に入ると、アミは同情した様子で彼を見つめました。
「多くの人は、自分のしていることや持っているものが、たとえ多くの価値があるとしても、それをどう評価したら良いのかわかりません。
また他の人は、自分のものがそれに値する以上の価値があると考え、どちらも悪い行いをしてしまいます。
多くの人にとって、すべての物事の中間点を見つけるのはとても難しい事なのです。」
クラトは汚れた巻物を手に戻ってきました。
「これじゃよ、来年の冬に燃やす薪の中にあったんじゃ。
巻物は火をつけるのに役立つからの。 ほ、ほ、ほ!」
アミは片手に巻物を持ち、もう片方の手でベルトから装置を取り出して、巻物をその装置の前に広げたので、僕はそれを撮影しているのだと思いました。
「登録しています。
巻物のイメージが『スーパーバイザー』のメモリに入ったところです。
クラト、もう燃やしていいですよ。」
「いやよ!」とビンカが叫びました。
「見てみたいわ。」
「オリジナルよりきれいでシャープなコピーがここにありますよ。」
デバイスの溝から、コピーというかスキャンというか、オリジナルより小さい紙が出てきました。
ビンカが読みたいと言うと、アミは笑いながら一枚の紙を差し出しました。
「この言葉は理解できないわ。
これはカイロスよ。」
と、彼女はがっかりした様子で言いました。
「手書きで翻訳しなければなりません。
あなた方の言語は私にとって非常に難しいので、簡単にはいきません。
しかも、私は何年も手書きをしていないので、良い字が書けないのです。
精神的に機器に口述するだけで、テキストは画面に表示されますが、私が知らない言語では表示されません。
まあとにかく試してみましょう。
そうすれば、クラトの巻物を各言語でコピーして、あなた方の本に載せることができるでしょう。」
結局、ずっと後になってから、僕はそうしました。
オリジナルの巻物は、神聖なものであるかのように大切に保管しました。、アミの存在について僕が持っている唯一の具体的な証拠なのですから。
ビクトルは、僕が筆跡を変えて書いたものだと思っているようですがね。
まあ、もし彼が、これに関すること全てにおいて不正行為としかとれないのであれば、残念なことに、良い面ではなく悪い面を選んで損をしているのですから。
「私の字が下手なら、すみません。
中国人の言葉で書かなければならないことを想像してみてください。」
とアミが言うと、
「中国人とは、誰の事じゃ?」
と、クラトが尋ねました。
すると、ビンカが先に、「ペドロの世界の人たちよ、こんなきれいな目をしているのよ。」
と目を横に伸ばしながら言いました。
僕とアミは笑いましたが、老人は考え込んだままでした。
「アミよ、もしわしをお前さんの飛行機で中国に連れて行ってくれたら、もしかしたら、あんな目をした小さな老婦人と友達になれるのかい?
中国人は辛いガラボロを食べんじゃろうか?」
僕たちが笑い終えるとアミが言いました。
「中国人がガラボロを食べないとしたら、それは手に入りにくいからで、そうでなければ、彼らは、千差万別の調理法で何でも食べます。」
クラトは「それなら中国人はセンスがいい。
そこに行きたいもう一つの正当な理由が出来たの。」
老人は食べ物が好きすぎるような気がしました。
「もしそれがスワマの精神性だとしたら、テリはどうあるべきなのでしょう?」とアミ。
「テリは人生を楽しんでいないんじゃよ。
わしは、あいつらをよく知ってるのさ。」
とクラトは説明しました。
「彼らは戦争や権力や金の追求に忙しすぎるんじゃ。
手に入れたら手に入れたで、今あるものを守ったり、もっと手に入れようとすることに忙しく、人生を楽しむ余裕もなく、良識もなく、自分の存在をみじめに浪費しているだけなんじゃ。
ところで、あそこにはガラボロのホットソースとスパークリングボトルが丸ごと1本待ってるぞ、さあ、食べようじゃないか。」
クラトの哲学に、アミは苦笑しました。
「この食いしん坊の老人は、楽しむことだけを考えています。
そして、それは部分的には正しいのです。
なぜなら彼は、他人のことを忘れているからです。
自分のことだけでなく他人のことも助ける者は、最終的に自分のことだけを考える者よりも多くの楽しみを得るということを彼は無視していますがね。
それでも、クラト、私が知っている中で最も霊的なスワマなのです。」
「わしの文章が、2つの世界で、何千人もの人々の役に立つんじゃろう。
もっと、わしに敬意を払ってくれんかの。
わしには、あのアルデンテのガラボロで舌を楽しませる権利があるんじゃよ。
ホー、ホー、ホー!。
中に入らんかね、腹がへった。」
小屋の中に入ろうとすると、アミが遮りました。
「申し訳ないですが、私は、肉を食べません。
それに、もう帰らなければならないのです。」
「僕もガラボロは食べないよ。」
と言い、その鍋の中身を見ないことに決めました。
「お庭のムフロ、とても美味しかったわ!クラト、ご馳走様でした。」とビンカ。
「ガラボロサンドも食べたくないのか?
すぐにでも作れるんじゃよ、美少女さん。」
ビンカは躊躇した様子で僕を見ましたが、僕の激しい嫌悪と非難の視線を受けて、「いいえ、結構です。」と答えたのです。
「まあ、お前さんらは、軽蔑しとったらいい。
わしは最大限に活用するんじゃよ。
ホー、ホー、ホー!
早く帰ってしまうのが残念じゃの。
またいつか会いたいもんじゃ。」
「時々お邪魔しているのはご存知ですね。」
「そうじゃよ。
今は、この子たちも好きになってしまったんじゃよ。」
「もしかしたら、いつか、この友人たちを連れてくることができるかもしれません。」
キアの老仙人、クラトに愛情をこめて別れを告げました。
今、僕は彼のことを懐かしく思い出しています。
彼の、のびのびとした在り方が好きでした。
二重基準や謎のない人でした。
彼の側にいたときは、僕に対する彼の冗談で少しイライラしていたので、彼をきちんと評価することができませんでしたが、後になってから、短い出会いでは、なかなか感じ取れない彼の一面を把握することができたのです。
ビンカが別れのキスをすると、老人の目に一瞬、涙が輝いた様に見えましたが、その感情を隠すためか、最後に冗談を言いました。
「気をつけるんじゃよ。
気をつけるんじゃ。
キスなんかするんじゃない。
わしの崇拝者らが群がって囲んで、嫉妬するからな。
お前さんの命が危ないんじゃよ。」
愚かな僕は、あたりをきょろきょろ見回し、自分の咄嗟の行動を恥じたのです。

https://note.com/hedwig/n/n59f402037c26


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