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Ami Ⅲ 第6章 ゴローとUFO

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ビンカは宇宙船から降り、家の中に向かいました。
様々な視点から、様々な距離から、その様子を映し出すモニターを、僕たちは真剣に見ていました。
「ハーイ!」
彼女は中に入ると、それぞれの頬にキスをして挨拶したのです。
「なんであの変人とキスができるんだ!」
僕は絶句してしまいました。
「少しは敬意を払ったらどうです、ペドロ。」
僕は、なぜあの化け物に敬意を払わなければならないのか、理解できませんでした。
「まだ続けますか?」
アミが燃えるような眼差しを向けてきたので、僕は続けることができなかったのですが、出来るなら彼女に、聞いてみようと思っていたのです。
彼は、僕の考えを察知し、テレパシーで話し始めました。
「私たちは愛の奉仕者であって、攻撃者ではないのです。」
「ああ、もちろん、その通りだね。
謝まるよ。
ただ、とても緊張してるんだ。」
「じゃあ、今は静かに聞きましょう。」
と、アミは命じました。
「クロルカおばさん... 宇宙人がいるって信じてる?」
「何の前置きもないなんて......なんて衝動的すぎます。
しかも、一人で話すように言ったのに...。
なんて軽率なんでしょう。」
とアミは腹正しい気持ちを抑える事が出来ませんでした。
おばさんは、少し警戒した様子で、「そんなこと信じてないよ。」と答えました。
そして、新聞の後ろに埋もれているゴローを指差しながら、静かにするように目くばせしたのです。
しかし、それを聞いた彼は、
「そんなに必死にどうしたんだい?
ふむ、この子は、大人になったら普通の大人にはなれないだろうな。
彼女に恥をかかせないようにしたいもんだ。」と言いました。
「もし私がそんなにおかしいのなら、ここから遠く離れて暮らすようになっても構わない?」
テリスは飛び跳ね、新聞を投げ捨て、彼女を睨みつけ、威嚇するように「お前は... 何を...したいんだ...?」と言ったのです。
かわいそうに、ビンカは青ざめました。
しかし、それを和らげる方法を見つけたのです。
「この家では、私がおかしいと思われている...恥だと思われている...いっそのこと出て行った方がいいのよ。」
と泣きそうな顔で言ったのです。
その言葉に感動したゴローは、立ち上がり、彼女のそばに行き、頭を撫で始めました。
「ごめんね、ビンカ、お前の言う通り、俺は君にちょっと厳しかったんだな。
お前が2度とこの家を出るという考えを持たないように、もっと気をつけるよ......。」
「くそっ、もっと悪いよ!」
僕が腹立たしげに叫ぶと、
「全く簡単にはいかないもんじゃよ。」
クラトも髭を撫でながら言いました。
すると「みんな、元気を出しましょう。」
とアミが僕たちを励ましたのです。
ビンカは、僕たちが見ていることを知って、顔を上げ、どうしようという顔をしました。
こんな状態の中でも、その仕草には、ほっこりさせられました。
そして、彼女は新たな戦略を思いつき「私は、宇宙人の存在を信じてるのに。」と言うと、ゴローはうまい具合に彼女を説得しようとしたのです。
「いいだろう。ビンカ。娘よ...いい加減にしろ...お前のそのこだわりは...。」
すると彼女は「私は宇宙船を見たことがあるのよ!」
と反抗的な態度で彼に立ち向かったのです。
「それは幻覚か、夢か、気象現象なんだよ、娘よ!
それじゃあ、今、この瞬間に現れる宇宙船が幻覚かどうか、行ってみようじゃないか。
中庭に行って、自分の目で確かめるんだな。」
アミは動揺して髪を引っ張っていました。
「ビンカの持って行き方が悪い、こんなんじゃ...!
いや、私が悪いのです、見てましたよね?
もっと注意深く指示するべきだったのです。
なんて災難なんだ、何事も進化が足りない!」
「完璧だよ、アミ、あとは船を見えるようにする、それだけだよ。」
僕はそう言いました。
「なんだって!?
そんなことしたら、ゴローが死んだり、おかしくなったりするのです。
それは許されません。
それに、その気になればいつでも船が見えるように出来るわけじゃない。
そのためには、許可をもらわなければならないのです。
しかも、下手すると、もらえないのですから。」
ビンカは少しずつ、様子を見ながら、クロルカおばさんと2人だけの時に話をすべきだったんだよね...と僕はアミに言いました。
僕のソウルメイトの行動を見て、僕はこう説明しました。
「アミの不注意じゃないと思うよ。
ビンカが敢えて選んだんだよ、アミ。
焦ってたのさ。
彼女は何が起こったとしても、自分の運命を強制したかったんだよ。」
「そうかも知れませんが、私はなんて愚かなのでしょうか。
そしてビンカは、なんて反抗的なのでしょう。
でも、私のせいです。
こんなにも自制心のない存在の前にいると考えるだけで辛い…。」
ゴローはとても心配そうにクロルカを見て言いました。
「うちの姪はとてもひどい状態だな。
精神科に連れていかなければならないのかな。
これは狂気の沙汰だよ。」
「中庭に来て、自分の目で確かめてよ。
私は、宇宙からの存在とコンタクトをとることができるのよ。
来て、見て、私が狂っているかどうか判断してよ。
私が望むなら宇宙船が現れるのよ。」
「かわいそうに...。」
これを聞いたクロルカ叔母さんは、目と鼻にハンカチを当てて言いました。実際、僕のかわいそうな最愛の人は、まるで狂った女のように見えました。僕は、そんな彼女を見るのがかわいそうで、また、彼女が僕たちの愛のためにやっていることを思い出すと、少し罪悪感を覚えたのです。
おじさんたちは、ビンカが狂ってしまったと思っていたので、中庭に出て見ようとは思いませんでした。
「さあ、アミ、この不信心な人たちに宇宙船を見せてあげて!」
と、僕たちの姿も見えない空を見上げながら、彼女は心の中で言いました。アミは、以前から知っていた、ある一定の範囲までしか声を出せないマイクを手にして「ビンカ。」と言いました。
彼の声は、相棒の耳元で響きました。
「え?アミが見えないわ、耳元で話してるのに...。
来て...。」
「かわいそうな、ビンカ....。」
「なんということだ、恥ずかしい。
クロルカ、お前の育て方が悪かったんだ。
この子は見当違いの、欠陥遺伝子を持ってるようだな。」
とテリス。
「私のせいでじゃないわ、ゴロー。
私の姉と義理の弟のジアクロは、有名なワコスの戦いのロス・メダノス爆撃で急死したのよ。
私がほとんど子供の頃、戦争のさなかに子供を預けられ、誰も子育ての仕方を教えてくれなかったのよ...。」
「落ち着きなさい、ビンカ、落ち着いて。」
アミは彼女に忠告しました。
「どこにいるの、アミ?」
「声を抑えて、ビンカ。
落ち着いてもらえますか?
私は、船から指向性マイクを通してあなたに話しているのです。
ゴローはまだ船を見るべきではないのです。」
「あ、そうだ、おばさんだけだったわね...。
クロルカ叔母さん、すぐに来て!」
「あ、違います。」
とアミは叫びました。
「私は、まず叔母さんに声をかけて、心の準備をさせるように頼んだのです。
このような突然の目撃は、彼女にもまだ許されません。」
「どうしたんでしょう......。かわいそうに......。あっあの本!?」
とクロルカ叔母さん。
「それだ、あの本だよ...。
精神科医の友人を呼ぶから、この子を家の中に連れてきて、近所の人に気づかれないように、静かにさせといてくれないかい。」
クロルカは中庭に出て、ちょうど顔を上げていたビンカを抱きしめました。
「さあ、アミ、船を見えるようにして、お願い。」
と僕は彼に頼みました。
彼は操縦桿を握って、
「まず、彼に相談しなければならないのです。
クロルカが、そのビジョンに耐えられるかどうか、計算しなければなりません。
待ってください。」
別のスクリーンでは、おばさんの頭がとても大きく映り、次におばさんの内部が映りました。
色とりどりのエネルギーが点滅していましたが、アミが見ているのはその画面ではなく、別の画面であり、そこには奇妙な兆候が現れていたのです。
ブザーが鳴りました。
「素晴らしい!
彼女はギリギリのところですが、害なく耐えられるでしょう。
許可を得たのです。
よし、では哀れなクロルカおばさんに "密接な接触 "をしてもらいましょう。
ただし、警察を刺激しないように、あの中庭で円錐状に縮小して見るだけです。」
船は中庭で見えるようになり、僕たちは非常に低い高度にいました。
僕たちは、2人の周囲を回り始めました。
「見て、おばさん、あそこだよ!」
ビンカは、幸せでした。
おばさんは、彼女を無視していましたが、突然、中庭にまばゆいばかりの光が射し込んできたので、見上げると、口を開けるしかありませんでした。
「もういいでしょう。」とアミが言うと、僕たちは透明人間に戻りました。クロルカおばさんは、15秒ほどの宇宙船を見る事が出来たのです。
「おばさん、見た?
あれは友達の宇宙船なの。」
ゴローは、電話をかけようとしたとき、家の外から大きな閃光が走ったのに気づき、庭に出てきました。
すると、妻が口を開けて目を大きく見開き、まだ上を向いているのです。
彼もそうしましたが、もう空しか見えませんでした。
僕は、嬉しかったのです。
クロルカおばさんは、気絶しそうでしたが。
それに気づいたゴローは、2人を家の中に連れて行き、とても心配しているように見えました。
「どうしたんだ、クロルカ、何を見たんだ?」
と、彼女を肘掛け椅子に座らせながら、彼は尋ねました。
「当然、おばさんは、私の友達の宇宙船を見たのよ。」
「それは...それは...本当に...。
宇宙船が...あったのよ...。
本当なのよ、ビンカは狂っていなかったの。
見たの、見たのよ、ゴロー、見たのよ!」
「あ~... 幻覚だよ、 クロルカ...。
でも、外に大きな光も見えた... 何だろう... しかし、空には何も見えなかった...。」
「違うの、おじさん、あなたが見えないのは、準備が出来ていないからなのよ。
おじさんが来た時、私の友達は見えなくしたのよ。
それは、おじさんを守るためなのよ。
発狂したりショック死したりしないようにね。」
ゴローも座らざるを得なかったのです。
彼は目を閉じ、こめかみに手を当て、考え始めました。
「宇宙船...見えない...。
これはデマのような気がする...。
論理的な説明があるはずだ...。
本当に何か見たのかい、クロルカ?」
「そうなのよ、ゴロー、幻覚じゃなかったわ。」
「隕石かもしれない、流れ星かもしれない...。」
「シルべーメタル製の?」
とクロルカは言いました。
「それなら、飛行機だったかもしれない...。」
「丸い?」
「じゃあ、惑星か、星か?」
「色のついたライトとその下にシンボルを付けて、家の上をぐるぐると回る?」
「シンボル?
そのシンボルはどんなものだった?」
「私の本に出てくるような、翼のある心臓のようなものよ。
ゴローおじさん。
全部本当なのよ、私は本当にアミの船で異世界に行ったのよ。」
クラトもアミも僕も、その会話を聞いて幸せでした。
「しかも、ゴローおじさん、彼らは、今もスクリーンで私たちを見ているのよ。
私たちの会話を全部聞いているの。」
「彼ら?
君の本には、たった一人しか出てこない、あの有名なアミだけじゃないか。」
「他にも、現代で初めてテリスがスワマに変身したクラトもいるの。
彼はウトナの山に隠れていたから、知られてないのだけどね。
彼はそこから来たのよ。
そして、この船にはペドロも乗っているの。
彼はこの星とよく似た星から来ているのよ。
そして、彼は私のソウルメイトなの...。
私たちは2人とも、それぞれの世界での宣教師であり、普遍的な愛の奉仕者なのよ...。」
宇宙船、異星人、ソウルメイト、宣教師...そんな非合理的な話題を聞いて、テリスは顔の両脇の緑色の毛を引っ張っぱりました。
「普遍的な愛?それは何だ?悪魔の宗派かい?
ビンカ、お願いだ、これは全部ファンタジーだと言ってくれ、それ以上のことはありえない。
現実は、童話のように突飛なものではないんだよ。
どうかわかってくれないかい。
頭が爆発しそうだ...。
この宇宙は、お前が本で描いているようなものではないんだ。
空想、現実、いや、俺や科学者、真面目で合理的な人々、全部、間違っていたのかい?」
「そうなです、ゴロー、何千年も前から間違っていたのです。」
とアミがマイクで言うと、テリスは飛び上がりました。
「今、誰が喋ったんだ!?」
「アミよ、ゴローおじさん。
彼は船にマイクを積んでいるから、どこでも自分の声を届けることができるのよ。」
もちろん、どんな言葉でも話せるんだよ、と僕は思いました。
「怖いのよ...霊かもしれないわ... 邪悪な存在かもしれないわ... 。」
クロルカが震える声で言いました。
「怖がる必要はないのよ、おばさん。
アミはとてもいい人だし、普通の人間なんだから。
本当に本に書いてある通りなのよ。」
ゴローはある結論に達したようでした。
「まあ、それなら、ここに未知の技術があるのは確かだが、異世界のものではないな、もちろん、そんなバカな...。
あるいは、あるのかもしれない...そう考えるのはおかしいが...。
どうなんだろう...。
明らかでないのは、彼らが善意を持っているかどうかだ...。
もしかしたら、利用されているのかもしれない...。
PPに電話しようと思う。
これはキアに脅威を与えるかも知れんからな。」
「PPってなんなの、アミ?」
と僕が尋ねると、クラトは震えながらこう答えました。
「政治警察だ。」
「その通りです。」とアミ。
「仕事として、素晴らしいと思って選ぶ人たちがいるんじゃよ...。」
クラトがこう言うと、
「各人の永久的な仕事は、たいてい、その人の魂の質を明らかにする写真のようなものなのです。」
とアミは説明しました。
「しかし、差別してはいけません。」
と彼は付け加えました。
「PPの中にも良い人がいることがわかるでしょう。」
「愛が...キアにとって脅威なの?」
ビンカは皮肉を込めて叔父に尋ねました。
「トゥコに化けたチュグがいるのかい?」
ゴローは怪訝そうに言いました。
「それはきっと『羊の皮をかぶった狼』というような意味だろう。」
と僕が言うと、アミは爆笑しました。
「そうです、ペドロ。
だから不信感は万国共通で、いつも同じイメージに頼ってしまうのです。
テリスのメンタリティがどうなっているか、見てみましょう。
高次の現実を受け入れることができるようになったとき、それを自分のレベルにまで引き下げる必要があるのです。
それは、彼のメンタルが映し出すのと同じくらい恐ろしいのです。
ゴローは、他の世界に生命が存在することをようやく半分受け入れましたが、もちろん、それは邪悪な存在であるに違いないと思ってしまうのです。
もし彼が、ある美しい次元の存在や、ある素晴らしい宇宙の魂について知っていれば...。」
「化けてないトゥコもいるわ、おじさん。」
「それは、素晴らしいけどな...でも、ダメだ...そんなはずはない、ありえない。」
「いや、もちろん」アミはマイクで言いました。
「宇宙のすべてが、キアと同じように怖くなければならないのです。
自然界には、高次の現実や存在は存在し得ない。
キアは、何百万もの星や銀河の中に存在するすべてのものの究極です。
キアは、普遍的な生命の進化における最高点なのですね、ゴロー?」
ビンカと僕とクラトは笑い、ゴローは自分の考えを嘲笑するアミの言葉を聞いて少しためらいました。
「どうだろう、あえて顔を出さない人とは話が出来ないな。
顔を見れるのなら....。
何をしってると言えるんだい?
もっと考えないといけない。
頭が痛くなったよ。
もう寝よう。」
「でも、まだ日が沈んでないわ、おじさん。」
「わかった、わかった。
お前たちはここにいてくれ、おれはベッドで、お前の本を読んで情報収集に励むよ。」
「まだ読んでなかったの、おじさん?」
「俺は、真面目な文学を読むんだ、子供じみたものは... じゃあ、また明日。それと、お前の友達に言うんだな。
もし本当に友達なら、隠しカメラで覗くのはやめて、プライバシーを尊重するようにとな。」
ビンカは笑い出し、顔を上げて言いました。
「みんな、今の聞いた?」
アミは再びマイクを握りました。
「また明日会いましょう。
そして、あなたが思っているほど、すべてが恐ろしいものではないことを、少しは受け入れてみてください。
そして、全てが複雑になる可能性があるので、このことを絶対に誰にも話さないで下さいね。友達のゴロー。いいですか?」
「わかった。」とゴローは渋々言い、ドアを大きく叩いて自分の部屋に鍵をかけました。
アミはスクリーンを消しました。
「1回のセッションで多くの進歩を遂げ、予想以上に上手くいきました。
でも、まだ喜ばないで下さい。
テリスマインドは世界の暴君の影響下にあるのです......。」
「どういう事なの、アミ?」と言うと、アミが世界の暴君のことを説明し、僕が目を離している間にスクリーンで見せました。
「あーありがとう、もう十分だよ。」
「心と体に与える負の影響を乗り越えれば、人は、少しずつテリスでなくなります。
でも遅かれ早かれ、すべてのテリスはテリスでなくなるのです。
愛はいつも勝つのです。
なぜだかわかりますか?」
「いいえ。」
「なぜなら、愛は神性そのものだからです。」
クラトが真剣な表情になり、「お前さんの言うとおりだよ、アミ。わしは知っておる。わしは、そう生きてきた、わしが巻物を書いたとき、テリスをやめた時じゃ。」と言いました。
「テリスとして、そのような悟りのような体験をしたのですか。」とアミ。
「ゴローのようなテリスの時にじゃ。」
「ほら、大宇宙の心は、迷える羊を蔑ろにしないのです。」
とアミは説明しました。
「迷える羊って何じゃ?」とクラト。
「迷子のトゥコと一緒です。」
「ああ、わしもそうじゃったよ、アミ。」
「クラト、あなたは誰も軽蔑していないの?」
「わしの山で迷子になったトゥコはおらんのじゃよ。
1匹つかまえると…う~ん、ホットソースが溢れるんじゃ。
ほっほっほ!!
ところで、お腹が空いた。帰ろうか。」
アミは、笑いながら、コントロールバーを握りました。
「クラト、本当に地球に住む気がありますか?
地球を見に行こうと思ってます。」
「最高じゃ!
この船で地球に向かうんじゃな!
でも...速くして欲しいんじゃよ。
ここに無いかも知れんしの。。。
アミが使うかどうか分からんのじゃよ...。」
「どうしたの、クラト?」と僕は尋ねました。
「トイレです。」
と、アミは、老人の考えていることがわかっていたので、笑いながら言ったのです。
「トイレはあそこです、クラト、左の2番目のドアです。」
「ほーい。」と彼はトイレに駆け込みました。
前の船では、とても近代的でよい香りのトイレを使っていました。
その時は、それが来客用なのか、アミも使っているのか、わかりませんでしたが。
「もしや...。アミ、トイレは使うの?」
「まさか、私が木の横で用を足しているなんて思わないでしょう。
それはつまり、あなたもって事です。」と笑う彼。
「え?どういう意味?
僕はまだ、他のレベルの存在のように、愛と太陽と酸素のエネルギーだけで栄養を補給する方法を知らないんだよ。」
その時、クラトが非常に興奮して帰ってきて言いました。
「いやー、トイレではなかったんじゃ。
何もないんじゃよ。
空っぽの部屋なんじゃ。」
「そうです、その通りです。
説明するのを忘れていました。
そこに入ってドアを閉めればいいのです。」
「わしは、不精者じゃが、汚くはない。
あそこを濡れたままにしておくわけにはいかんじゃろう......。
そこには汚れた排水溝もなかったんじゃ!」
アミは大笑いしました。
「いや、クラト、違います。
あなたは、あそこで何もする必要はないのです。」
「じゃが、もしわしのやりたいことが.…。
じゃあ、何のために行くんじゃろう?
何もせんのかい?」
アミは、彼に説明するために、笑いを止めなければなりませんでした。
「あの部屋に入って、ドアを閉めて、何もしないでいてください。
そして、ここに戻ってくるのです。
そうしたら、もうそんな気分じゃないことがわかります。」
「ああ、欲望が通過する場所なんじゃな...。
でも、いつかは、せないかんじゃろ...。
何も解らんし、もう我慢できんのじゃよ。
わしは行くぞ。」
やがて、その部屋から彼の声が聞こえてきたのです。
「ああ、安心した。」
と言いながら、彼は僕たちの前に戻ってきました。
「あーっ、素晴らしい感覚じゃ、子供たちよ!
なんてこった!アミよ!」
「普通の事です。
そこに入ると、皮膚や体内の好ましくない物質を非物質化する光線が活性化されるのです。
この トイレのモデルは、私が、以前、乗っていた船のものよりも進化しています。
この光線は、生物や生態系にとって有害な菌や異物である菌を認識し、場合によっては除去・不活性化することができるため、殺菌室としての役割も果たし、菌が生態系に害を及ぼす可能性のある場所に降りる前に使用するのです。」
そういえば、以前の旅では、細菌が問題を引き起こす可能性があるため、進化した世界には降りられず、窓やモニター越しに眺めるだけででした。
「ということは、この船からなら、進化した世界に降りられるということなの?」
「そうです。
あの消毒室がお風呂やトイレにもなるのです。
それが最も一般的な使い方ですが。」
「前の船には、何もない部屋を消毒室として使わなかったよね。
普通のトイレがあったんだけど、どうやって用を足してたの?」
「そのトイレでは、あなたのような訪問者だけが使う便器があるのですが、天井にあるボタンを押すことで消毒ができるようになっています。
あなたは、あの旅で、どの世界にも降りなかったから知らせる必要はないと思ったのですが、フェローシップの世界のトイレはすべて消毒室であり、便器はありません。」
「それは信じられないよ。
つまり君は、トイレットペーパーも使わないってこと?」
「ふぅ...。何もないのです。
幸いなことに、私たちにとっては前時代的なことなのです。」
「お風呂にも入らない?」
「その通りです。
体や髪、衣服の中の好ましくないものは非物質化されるのです。」
「服のまま入浴するってことだよね!」
「そうです。」
「つまり、服を脱ぐことはないんだね。」
アミは笑いました。
「また精神的過激主義になりましたね。
どんなにきれいな服でも、たまには着替えます。
それに、日光浴をしたり、芝生の上を裸足で歩いたり、服を脱いで水泳をしたりするのもいいものです。」
「じゃあ、君は、何のために服を脱ぐの?」
僕が『愛し合うかどうか』を知りたがっているのを察して、「また。」と彼は答えました。
「このいたずらっ子!」
と、僕が彼の頬をそっとつねって言いと、彼は僕たちに笑いながら説明しました。
「それは、私たちが幼いころから教えられている主題であり、非常に敬意を払っており、悪意無く受け止めているものです。
ペドロ、あなた達とは違うのです。
インターネットでの情報とも違います。
私たちにとって、性とは神聖な力であり、生命を生み出すだけでなく、愛し合う2人の間の優れたコミュニケーション、喜び、内面の成長、創造性をも、もたらす力なのです。
それが、私たちが、この力を、非常に尊重する理由です。
愛する人に贈ることができる最高の愛の贈り物だと考えています。」
「まるで生まれ変わったような気分じゃよ。
あそこに入ったら、すべてが消えてしまったんじゃ......。
服は洗いたての香りがするし、髪はぐしゃぐしゃじゃない......。
これは魔術じゃよ、アミ。」
「それは技術です、クラト、それ以上のものではありません。」
僕はその発明品を試しに行ってみました。
それは、老人が言ったように、魔術と呼ばれるようなものでした。
「あんなものが家にあれば、もっと頻繁に風呂に入れるのにね。
時間を無駄にしない、凍らない、やけどしない、シャンプーや石鹸が目に入らない、滑らない、浴室を濡らさない、水や給湯器、タオルを無駄にしないのだからね。
地球をオフィルのようにしたい!!」
僕は、冗談めかして、そして真剣に、そう叫んだのです。
「ペドロ、君はそれに勝たなければならないのです。
君の内と外に愛の論理が支配するのを助け、苦痛と嘘の影を消し去り、暴君が弱り、下僕の行き場を失うようにするのです。
その時こそ、私たちの全面的でオープンな、グローバルな支援に値するのです...。
地球に到着しました、友よ。」
「お前さんの世界は、とても美しいの。ペドロ。」
「でも、僕たちはそれを破壊しているんだよ、クラト。」
「あいつらが、キアを破壊しているようにな。」
「あいつら?」
アミが言いました。
「あいつらじゃ、テリスたちじゃ、わしじゃない。
わしは、あの山で何も悪いことをせんと暮らしてるんじゃ。」
「でも、あなたも良いことは何もしていません。
まるで自分には関係ないことのように、何も関わらないのですから。
もし誰も良いことをしなかったら、愛のない支配が何千年も何万年も続くでしょう......。」
「何もできんのじゃよ、アミ。
わしは、テリスを殺しに行くつもりはないんじゃ。
そして、殺すことではなく、教えることであれば、巻物を書き、わしはやり遂げたんじゃよ。
じゃから今は平和に生きる権利があるんじゃ。
ほ、ほ、ほ、ほ、ほ。
何か食べられるものはないのかい?
内臓が空っぽになったような気がするんじゃ。」
「あなたは、生きている老人のくせに、都合が悪くなると話題を変えるのが好きですね。
ずるいです、クラト。」
「何だと?
ガッツが出ないのは本当じゃよ、星の少年。」
アミは、さらに続けました。
「働く事、奉仕する事をやめてはいけないというのも事実です。
たまには良いことして、『家賃で暮らす』なんていうのでは、充分ではないのです。
本当に愛と調和している人は、働くこと、つまり善に仕えることを決して止められないものなのです。
「なぜなの、アミ?」
「なぜならば、愛することをやめることができないからです。
だから高次の世界では、誰も『引退』せず、『ストライキ』もせず、誰もが自分の仕事、コミュニティへの奉仕を怠りません。」

「そうなの?」
「もちろんです!
しかし、当局が、私たち全員が、自分が最も才能があり、何よりも『望む』こと、それこそ私たちが最も好きなことに、好きなだけ働けるように配慮していることも事実なのです。」
「ああ... そういう事か。
地球上では、そんなに配慮されてないから、誰もが、どうにか自分に出来る仕事で間に合わせてるってことだよね。」
「そうして、多くの人の、多くの才能と仕事が失われていくのです。
改善すべき点はたくさんあるのですが、私にとっては、働くこと以上に素晴らしい休日はありません。
それが私への報酬であり、今していることなのです。
『ブーメランの法則』、つまり『原因と結果の法則』によって、自分がやっていることで得られる満足感とは別に、何か良いものを得ていることは知っていますが、そんなことは考えず、これが私の楽園であり、天国なのです。

アミの言葉に、僕は少し震えました。
確かに僕は2冊の本を書きましたが、その一方で、ゲーム機やソーシャルネットワーク、インターネットで何時間もブラウジングをしたり、テレビの見過ぎで、何の役にも立たないことをしたりしていました。
そんな僕の思いに、アミが笑い出したので、ほっとしました。
「それが全てではありません。
自分に罰を与えないでください。
奉仕の精神は少しずつ育つものなのです

私はあなたのようでした。
あなたも私のようになります。
すべてが調和して成熟していかなければならないのです。
もしあなたが、もっと絶えず奉仕したいという願望をまだ持っていないなら、それをしないことです。
なぜなら、義務から奉仕するものではなく、何か違うと感じたものでも、自分で課したものであってはならないのです。

愛は、強制されるものではなく、自由であるべきなのです。
そして、もし自由でないのなら、それは愛に属するものではありません。」

「腹が空っぽのときは、愛もないんじゃよ。
ホー、ホー、ホー!」
老人は本当にお腹が空いていました。
「クラトにナッツを持ってきてください、ペドロ。」
アミは、最初の旅行で僕に食べさせ、僕が気に入った、ナッツのような、しかし甘い食べ物のことを指していました。
今回、僕は自分でパントリーの場所と、どの容器を開ければいいかを考え、青い点のついた容器を選びました。
そして、僕は、彼にその "ナッツ "を渡しました。
「これ、食べられるのかい?」
「もちろんです、食べてみてください。」
「えーと、うーん...。ぷはっ!?
こりゃ不味い。
甘い "トパス "みたいじゃ、スパイスも効いてない...。
この子を家に連れて帰ろう、おばあちゃんが、わしの空腹を哀れんでくれるかもしれんよ。」
「行きましょう。
でも下に降ることは出来ません。
あなたのようなエイリアンが、ここで見られるのは良くないでしょう、クラト。」
「エイリアンとはお前たちのことじゃ。
わしは... グッ!着いたのかい?
じゃあ、早くこの子を置いてキアに帰ろうじゃないか、宇宙少年。
家には、ホットソースに漬かったガラボロがある。
泣き声が聞こえるんじゃよ。
『クラト、早く僕を食べに来て、お願い』と呻いとるんじゃ。
ホッホッホッホッ!」
満点の星空のビーチタウンに到着しました。
「何なら、一緒に行って、おばあさんを自己紹介しようかの、ペドロ」
と、老人は冗談を言いました。
「そんなこと考えないでください。
多分、彼女も、あなたのようにホットソースを作るのが上手でしょうが。」
「どうしてじゃ?肉は柔らかいのかい?ホッホッホッホッ!」
「明日の朝、森で待っていてください。ペドロ。」
僕が船を出ようとしたとき、アミが言いました。
僕は初めて、悲しみに暮れることなく船から降りたのでした。
ビンカとも、アミとも、クラトとも、今回は長い別れではないからです。
たった一晩だけですから。
もちろん、そう簡単にはいかなかったのですが、その時の僕は、幸いにもそれを知らなかったのです。
アミは僕を砂浜に降ろしました。
空を見上げても、星以外には何も見えませんでした。


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