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Ami Ⅲ 第10章 デリケートな秘密


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僕たちは、外に出て、廊下を進み、技術機器が並ぶ別の部屋へ入りました。
2人の男性がコントロールバーを操作し、専門的な言葉を交わしていました。
すると、ビンカのおじさんたちがスクリーンに映し出されたのです。
「しびれの段階への準備完了。」
と男性が言うと、彼らは即座に重い眠りにつきました。
次に「テレポーテーションへの準備完了。」と言うと、突然、アームチェアごと、赤ん坊のように眠っている夫婦が目の前に現れたのです。
ビンカは彼らを抱きしめたかったのですが、アミが止めました。
「私たちの友人が仕事を終えるのを待たなければなりません。」
毛むくじゃらの男たちは、そっと彼らを抱き上げ、車輪付きの担架に寝かせると、ソファを元の場所にテレポートさせました。
ちょうどその時、PPルームの扉が開き、テリス数人が入ってきたのです。
「この椅子はまだ温かいぞ!
いまいましいキア外生物がテレポートしたんだ!
あの惨めな奴らは狡猾すぎる......。」
僕にはそれがとても不思議に思えました。
「アミ、彼らは、テレポートできることを、知ってるんだね。」
「その通りです、ペドロ、この方法を取らなければならなかったのは、今回が初めてではないからです。」
ビンカも困惑していました。
「じゃあ、当局はあなたの存在に気づいていないわけではないのね?」
「もちろんです、ビンカ!
精神科医の窓の前で目撃されたとき、彼らがすぐに捜査に向かったのを覚えていますよね。」
「捜査だけだと思ってたよ。
何の証拠もつかんでないのに。
じゃあ、どうして公式発表では何も知らないふりをして、キアの外に知的生命体がいると信じている人たちを笑いものにしているの?」
「なぜなら、彼らは、実際に知っていることを隠して、非常に上手くやっているのです。
そのため、民間の調査を邪魔したり、嘘のニュースを流したりして、怖がらせたり混乱させたりしています。」
「そういうことなんだね、アミ。」
「残念ながら、そうなんです。」
「当局が、君のことを知ってるなんて、疑いもしなかったよ。」
「しかし、あなたはそれを推測することができたはずです。
なぜなら、当局が熱心にこの問題に対処し、何か興味深いことが出てくるとすぐに、必要であればキアの裏側まで出かけていくことを、ある程度の情報通なら誰でも知っているからです。
そして、軍隊や地元警察の協力を得て、現場を取り囲み、証拠を取り除き、サンプルを採取しますが、それは常に秘密にされています。
このことは、彼らが情報公開を拒否していることと同様に、知られていることなのです。
もし、当局がこのテーマについてよほどの知識がなければ、このような面倒なことはしないでしょう。
もし本当にこの件が単なる空想だと信じているのなら、自分たちが知っている以上のことを調べたり、すでに知っていることを隠そうとしたりするために、これほど多くの資金を投じることもないでしょう。
調べようと思い、少し考えれば、誰でもこう推測できるのです。」
「なぜ、彼らは知っていることを隠すの?」
「それはいい質問ですが、後で答えましょう。
さて、今は、目の前の問題、ゴローとクロルカ叔母さんに集中します。」
テリの友人の一人が言いました。
「ゴローの精神科医の友人は、この話を全く覚えていないのです。
彼にとっては、ある時、ゴリラたちがオフィスにやってきて、彼をボコボコに殴ったという事実に要約されているのですが、その理由はわかっていません。
そして、PPは、彼の窓の前に現れた宇宙船について多くの質問をしますが、哀れな彼は何も覚えていないでしょう。
さらに、ゴローやクロルカとの関係も聞かれるますが、誰のことかわからないと言うのです。
結局、徹底的に搾り取った後、彼が何も知らないことを理解し、彼の状態が良ければ、何度もやっているように、我々が彼の記憶から何かの記憶を消したのではないかと疑って、彼を放っておくでしょう...。」
アミはその点を明確にしました。
「私たちがその気になれば、最高の催眠術でも再活性化できない方法で、記憶のある部分を決定的に除去することができることを、彼らは知っています。
それが、私が先生にしたことです。
ビンカ、叔父さんたちについては、彼らが目覚めてから、PPの前で何を証言したか知れるでしょう。
そして、どうすべきかはそれからです。」
毛むくじゃらの仲間の1人が再び説明しました。
「繰り返しますが、彼らは自分たちがどこにいるのか知らないはずです。
この秘密基地が本当に存在することを、プランに関与していない人は当分知ってはならないのです。」
「じゃあ、僕たちは本に書いちゃだめなの?」
と僕は尋ねてみました。
「それは違います、ペドロ、それは全部ファンタジーと捉えられてるはずですから。
でもとにかく、後で、前の2回のミーティングでやったように、本に書いて良いいことと悪いことを教えてあげます。」
テリは話を続けました。
「私たち2人がフェローシップに所属していることを誰にも疑われないようにすることです。
もし疑われたら、他の政府機関にも彼らより頭のおかしいテリがいるのではないかと疑われてしまいます。
まあ、本当にいるのですがね。
それは私たちにとって災難となるでしょう。」
もう一人が言葉を続けました。
「さあ、みんなで隣の部屋に行きましょう。
そこでみんなを起こすのです。」
僕たちは外に出て、テリ達がストレッチャーを押しました。
そして、小さくて快適な部屋に入りました。
雑誌や新聞があり、片側にはジュースや果物、ビスケットなどがある簡易キッチンのようなものがあったのです。
そのすべてにクラトは興奮していました。
「本当にそこには俺の好きなボトルがないのかい?」
「フルーツジュースや健康的なハーブティー、純水などがありますよ。
どうぞご自由に。」
「ふっ、子供のガラクタじゃよ!」
テリ達は夫婦を肘掛け椅子に座らせると、一人がこう言いました。
「いきなりアミとペドロを見たら、怖がるかもしれません。
彼らは、異世界の存在を見たことがないのですら。
二人は私たちと一緒にこの部屋から出なければなりません、クラトもです。
彼らが目覚めた時、ビンカだけが目の前にいることになります。
私たちはモニターを監視しておきますから。」
もう一人はこう言いました。
「彼らは、自分たちが何処か、田舎にいると思わなければなりません。
そのために、私たちはそのスクリーンに適切な映像を映し出します。
ほら...。」
彼は、壁の黒い四角形のことを指していましたが、テリが手にしたリモコンで何かを操作した瞬間、点灯し、鳥や蝶、昆虫が飛び交う美しい田舎の風景が浮かび上がりました。
その後、テリの仲間の一人が、僕のソウルメイトに指示を出し始めました。
「彼らが目を覚ましたら、少し落ち着かせた後、この2つの翻訳機のイヤホンを渡して、装着させるのです。
そして、質問に対する答えは、隣の部屋からあなたの友人たちが教えてくれることを説明してください。
それ以降は、全ては私たちに任せるのです。
わかりましたか?」
「はい。」
「その後、夫婦が目を覚まして落ち着いたところで、アミ、ペドロ、クラトの3人がこの部屋に入ります。
そして、アミが話を進めます。
君たちは彼の指示に従い、即興で何かをしないでくださいね。
それと、クロルカとゴローの機嫌を損ねないようお願いします。
状況をさらに複雑にする可能性のある間違いを犯すことはできないのです。
解りましたか?」
僕たちは「はい」と答えました。
「では、ついてきてください。」
僕たちは、外からドアに鍵をかけて仲間を残して、移動しました。
僕たちが、技術設備室に戻り、スクリーンにはビンカとその叔父たちが眠っているのが映し出されています。
テリ達が働き出しました。
「さあ、彼らを起こしましょう。
ビンカ、準備してください。」
彼女はスピーカーから流れるその声に耳を傾け、「準備はできています。」と言うのがスピーカーから聞こえてきました。
すると、ビンカのおじさんたちは目を覚ましたのです。
突然の景色の変化に気付き、驚きを隠せない様子でしたが、ビンカの姿を見て、好奇心よりも喜びが勝ったようです。
3人は、長い間、抱き合って喜びをかみしめました。
でも、その愛情が薄ければ、ビンカが地球に行くのに苦労しないのに......と、少し腹が立ちましたが。
その後、彼女は叔父たちの耳にイヤホンを装着したのです。
「これは、他の言語を理解できるようにするためなのよ。」
「ここはどこだい? どうして俺がここにいるんだ?
どうして、お前が突然現れたんだい?」
「私達は、田舎にいるのよ。ゴロー!」
とクロルカは窓の外を眺めながら、嬉しそうにそう言ったのです。
「おじさん、おばさん、私は答えられないけど、私の友達が答えてくれるわ。
彼らは隣の部屋にいて、スクリーン越しに私たちを見ているのよ。
声も聞こえてくるわ。」
「そうです、ビンカ。
こんにちは、ゴロー、クロルカ。」
テリがマイクに向かって言いました。
「ああ、また乱入か!」
と、ゴローは敵意むき出しの顔と口調で言ったのです。
「あなたは、アミを知る必要があるのです。
彼は異世界の人間なので、あなたには奇妙に見えるかもしれませんが、無害です。
恐れることはありません。
この部屋には、同じく異世界から来たペドロ、お嬢さんのスワマの友人であるクラトと一緒にいます。
怖くないですよね?」
「あ、はい。」
とクロルカはゴローにしがみつきながら叫びました。
ゴローは、「クソッ」と気にならないふりをしていました。
「素晴らしい、じゃあ、そちらへ行きます。」
「怖いわ…。」
「おばさん、怖がらないで、私の友達はとてもいい人たちなのよ。」
一人のテリが、おじさんたちとビンカのいる部屋に入っていいと言って、もう一人が僕たちに付き添ってドアを開け、アミが先に入りました。
「自己紹介をさせてください。
私はビンカの本で有名なアミです。」
彼は朗らかな笑顔でそう言いました。
が、ゴローは愛想のない不信感を抱くような表情をして、クロルカは驚きと若干の恐怖を示していたのです。
テリの友達に肩を叩かれ、僕は、自己紹介をする時が来たと悟りました。
「僕の名前はペドロです。
地球という惑星から来ました。」
僕はそう言いながら中に入りました。
そして、クラトの登場です。
「わしの名はクラトじゃよ。
今はスワマだけど、以前はテリじゃった。
わしは、この世界で最初の生きるトランスフォーマーなんじゃ。」
ゴローは彼を攻撃的に見つめました。
「つまり、あなたは、私たちの種族に対する最初の裏切り者という事だね。
だから、キアの敵と協力するのも不思議じゃないってことだね。」
クラトは怒りで顔を真っ赤にして拳を握りしめ、テリを睨み付けました。
すると、アミがすかさず割って入ったのです。
「落ち着いて、落ち着いて。
ついさっきまで、あなた方はPP本部に投獄されていたのです。
PPから徹底的に尋問される予定でしたが、私たちは高度な分子技術で、あなた方をそこから脱出させ、ここに連れて来たのです。
今は安全な場所にいます。」
ゴローは、アミが的外れな事を言っていると思ったようです。
「何も隠すことはなかったのに、なぜ我々をそのままにしておかなかったのか、わからない。
彼らは私たちを尋問した後、家に帰しただろう。
俺たちは逃亡者なのか?
もう、こんな問題は嫌なんだ。」
「私たちは、あなたがPPに何と伝えたのか知りたいだけなのです。」
とアミが説明しました。
「何も。友人の精神科医のオフィスで大きな音がしたんだ!
彼はビンカをひどく扱ったんだよ。
その後、警察がやってきて、フードをかぶせられ、俺たちを無理やり車に乗せたんだ。
目が見えるようになると、密室でソファに座ってた。
そこにいたのに、突然ここに来たんだよ。それだけだ。」
アミが興奮しているのが伝わってきました。
「では、名前を聞かれたり、指紋を取られたりしなかったんですか?」
「そうだ。」
「素晴らしい。
彼らは、まだあなたが誰なのか知らないのですね?」
「でも、精神科医が彼らに言ったに違いない...。」
「それは気にしないでください。
私は、その医師に永遠の部分健忘症の治療を施しました。
彼はあなたに会った記憶もなく、あなたがビンカの "空想 "を取り除く手助けをしてほしいと頼んだことも永遠に忘れています。」
とアミは、少しの非難を込めて彼を見つめました。
ゴローは本能的に憤りを感じましたが、アミの透明で穏やかな眼差しは安らぎを与え、より冷静に物事を見ることができるようになっていったのです。
「そうだな...。
あの子にとって一番いいと思ったことをしたんだ。
俺の保護下にあるこんな小さな女の子を、異世界の存在に巻き込ませるなんて...どうやって許すことが出来るのかい?
お前の真意が何であるかをどうやって知る事が出来るっていうのかい?」
彼はそう言って、僕たちを疑いの目で見たのです。
「ビンカの本を読んだことがないのですか?
私たちの真意はそこにあります。」
「ええ、昨夜、読みましたよ。
でも、俺は世間知らずの赤ん坊じゃないんだよ。
姪を利用して、あの本を通して偽の情報を流布しているのでは?」
「キアの人類が、僕たちを無害で善良だと思い、油断するようにってこと?
でも実際は邪悪な文明に属しているのでしょう?」
と、僕は少し嘲笑しながら言いました。
「まあ... 自分たちを、侵略して、富を奪い、人々を奪い......そう思っているんだろうね。」
トータルで考えて、僕はゴローを理解しました。
僕もアミに会ったとき、同じような疑念を抱いたし、異世界の危険な動物として、宇宙動物園に連れて行かれるんじゃないかとさえ思ったのですから。
アミはゴローを現実に引き戻そうとしました。
「それは、純粋に被害妄想です。
そんな文明があるなら、わざわざそんなことする必要ないでしょう。
迫害や不信の妄想を自由にさせるためなんて...。
あなたの奥さんもまた、あなたが死ぬのを待って期待しているかもしれないと考えたことはありませんか?
あなたの両親は無害で善良なふりをしていましたが、実際は悪だったと考えたことはありますか?
あなたの友人、あなたが知っているすべての人々についても同じことを考えたことはありませんか? 」
「いいえ、もちろんありませんよ。
俺は家族や友人を知ってるからね。
誰がお前を知ってるって言うんだい?」
「僕は知ってるよ。」と僕は無邪気に言いました。
「彼らは善い人達だよ。
僕も最初はあなたと同じように不信感を抱いてたんだ。
彼らは善良なふりをして、実際は僕の世界を侵略しようとしているんだと思ってたからね。
僕は、なんて愚かだったんだろうね。」
ゴローは僕を不審そうに見て言いました。
「君も彼らの一人なんだよ。
もちろん、君もこの世界に対する陰謀において非常に重要な一人なんだからね。
君はビンカを誘惑することに成功したんだ。
その愚かな少年の奇妙な姿の裏に、どんな怪物が隠れていて、惑わそうとしているのか、誰にもわからない...。」
僕は、ゴローの恐ろしいほどの疑惑に打ちのめされたように感じました。
頬が赤くなり、何を言っていいのかわからなくなったのです。
泣きたくなりましたが、我慢しました。
すると、ビンカが「ゴローおじさん、お願い」と叫び、僕のそばに来てなぐさめようとしてくれたのです。
アミもそうでした。
「そうだね、ペドロ、進化していない人々の間で宣教師をするのは簡単なことではないのです。
そのような心を閉ざした人々の前では、疑い、不信、恐怖に耐えるのは容易ではありません。
でも、こういう状況にうまく対処できるように、ちょっとした秘密を教えてあげよう」とアミは、僕の耳元でこう呟きました。
そしてその瞬間、頭の中で彼がこう語りかけているのを感じたのです。
「彼らを憎まないでください。
或る意味、彼らを子供であるかのように見なければならないのです。
あなたは、今は彼らより進んでいますが、あなたもそうだったのですから。
でも、そんな風に思っていると疑われないようにね。
彼らのエゴは大きいから、激怒させてしまうからね。」

僕は、アミの言う通りだと思いました。
ゴローをそういう目で見ようとしたとき、彼の目が燃えているように見えたので、その裏にあるのは単なる恐怖心だと理解出来たのです。
根拠のない恐怖心が、すべてを黒く見させ、攻撃的にし、人生の最高の瞬間を逃すのです。
憤りは同情に変わり、哀れみに変わり、理解へと変わっていきました。
ゴローは立ち上がり、妻を促しました。
彼はクロルカの肩とビンカの手を取り、「じゃあ、帰るぞ。」と言い、ドアに向かったのです。
彼はドアを開けようとしましたが、それが無理だとわかると、「家に帰りたいんだ!」と叫びながらドアを叩き始めました。
あのゴリラにすぐに殺されると思いました。
どこか隠れるところはないかと探し回ったのですが、どこにもない......。
その時、スピーカーから力強い威厳のある声が聞こえてきのです。
「ゴロー、落ち着くのです。
誰もあなたと、あなたの家族を傷つけるつもりはありません。
もし、あなたが何らかの暴力的な態度をとろうとするならば、私たちはすぐに私たちの技術を使ってあなたを止めなければならないでしょう。
それは、あなたにとって喜ばしい事ではないでしょう。
だから、すぐに椅子に戻って、座って、リラックスしてください。
あなたとは、まだ話し合うべき問題がいくつかあるのです。」
それを聞いたゴローは、自分が単に子供や女性や老人の前にいるのではないことに気づき、自分たちの背後に強力な存在がいるのだと推理しました。
彼は落ち着きを取り戻し、諦めて椅子に戻ったのです。
「いいだろう、もうしばらくここにいるよ。」
すると、アミは無謀とも思える態度で、無邪気な笑顔をして、ゴローの隣に座ろうとしたのです。
ゴローは驚き、防御的に少し後ろに下がりました。
アミは彼に言いました。
「あなたはPPの捜査や尋問の方法について無知なようですね。」
「俺はそれほど愚かではないよ。
破壊者、犯罪者、容疑者に対して彼らが非常に暴力的であることぐらい、誰でも知っていることなんだよ。
しかし、俺には何も隠すことはないんだ。
俺は立派な市民で、何年も薬局を経営しているんだよ。
俺の人生はクリーンなんだから、彼らが俺に対して無礼な振る舞いをするはずがない。」
アミは微笑んで天井に目を向けました。
「ねえ、みんな、ゴローの友人の精神科医の取り調べの映像を見せてくれませんか?」
「はい。ちょっと待って。」
スピーカーから潜入したテリの一人が答えると、数秒後、それまで何もなかった壁に長方形のスクリーンが照らし出されました。
そこには、金属製のテーブルの上に、縛られ、濡れて全裸になった精神科医が、電流による尋問を受けている姿が映し出されたのです。
その光景は、あまりにも暴力的で、残酷だったので、ビンカとクロルカは目をそらすしかありませんでした。
ゴローは目を見開いて青ざめ、スクリーンを消すように頼むと、それは、消されました。
「あなたの友人も立派な人です。
博士号を持っているので、あなたより立派とも言えるでしょう。
しかし、PPの前では、そんなものは何の役にも立ちません。
特に、宇宙でより進んだ文明を追跡するとなると。。。」
「まあ...そうだけど...俺たちを守るためだからな。」
とゴローは言いました。
すると、アミは僕に向かってこう言ったのです。
「あなたは、当局がなぜ知っていることを隠すのか知りたがっていました。ゴローへの私の答えが、それを説明するでしょう。」
そして、ビンカの叔父に向かい、
「それは違うのです、ゴロー。
彼らは我々の真意を知っているのですが、それは単に教育的、形成的なものなのです。
だから、彼らはそれが真実だとは微塵も思っていない。。。
彼らはこの宇宙の誰もが、自分たちと同じように下劣で偽善的だと思っています。
しかし、このテーマは、我々の存在と技術の具体的な証拠を持っているキア最強の国アルテン・ジーの当局にとって最も重要であるため、この知識を手に入れようとする他の国に先を越されたくないので、自分たちの知っていることを誰にも教えず、何も存在しないと言い、密かにわずかな手がかりを悪魔のように探しているのです。
その一方で、何の根拠もなく、彼らはキア外生物を侵略者や敵の可能性があるとみなしています。
実際には、私たちは、彼らの親友なのですから。」
その時、まだ宇宙はバラ色であると信じていた僕は、意見を述べました。
「ゴローおじさん、もし、あなた方がキア外生物に優しさと良いマナーで情報を求めてたら。。。と思うんだけどね。」
「でも誰も俺の言うことなんか聞かなかったと思うんだよ。
テレパシーで俺を愚かな無実から抜け出させたアミを除いてはね。
犯罪者が俺たちを親切に扱うだけで充分思っているように…。
何か情報を搾り取るためだけのために…。」
テリの友人の一人が拡声器で発言しました。
「あなたの友人は長い間、とてもとても辛い思いをすることになるでしょう、ゴロー。
彼が家に帰れるかどうか、どんな状態で帰れるかもわかりません。
地元警察は、PPよりも多くの情報を持っている強国であるアルテン・ジーの諜報機関と協力しています。
キア外生物の死体を持っていることまでわかっているのです。
おい、みんな、アルテン・ジーのあの砂漠の下の格納庫の映像を映してくれ。」
再び壁に光る長方形のスクリーンが現れました。
その映像は、エレベーターを下り、武装した警備員がひしめく廊下を進み、分厚いドアをくぐり、さらにもう1枚、もう1枚と進み、最後には恐怖の博物館のような大きな部屋に入ったのです。
そこには、ガラスケースや液体の入った大きなフラスコの中に、様々な種類のヒューマノイドの死体が冷凍されているのが見えました。
それとは別に、宇宙船の残骸、さまざまな文字が書かれた本やマニュアル、衣服、宇宙服、壊れた機器や奇妙な装置の膨大な量の残骸も見えたのです。そして、スクリーンは消されました。
ゴローはうつむいていました。
これで、現実を疑う余地はなくなったのです。
そこで、アミは続けました。
「私たちは完璧ではありません。
時には船が故障し、時には致命的な事故を起こし、時には何らかの事故で生き残った我々の世界の人間を生きたまま捕らえ、徹底的に尋問したことすらあるのです。
彼らは、私たちの文明化の意図について、ここキアでずっと前に学んだのですが、もちろん、そんな不思議なことは信じられなかったのです。」
ビンカの叔父は今、とても混乱しているように見えました。
「ゴロー、あなたの状況を分析しましょう。
もしPPがあなたの身元を知ったなら、普通の生活に戻るのは容易ではありません。
そのことを理解していますか?」
「でも、俺は何もしていない...。」
「そうかもしれません。
でも、彼らはそれを知らないのです。
彼らはただ、あなたが私たちのことをもっと知るための手がかりになるかもしれないということだけを知っています。
だから、もしあなたが捕まったら、彼らはあなたとあなたの奥さんと小さな姪を最後の一滴まで絞るでしょう。
あなたが知っていることを話すように彼女らに悪いことをするかもしれないし、彼らが情報を加えようとあなたに悪いことをするかもしれないのです...。」
ゴローは頭を下げ、しばらく考え込んだ後、こう抗議しました。
「俺の人生は葬られてしまうのか?
それは全部、お前のせいじゃないか。」
アミは、「それはあなたの責任なのです。
私は、この件に関して厳重に黙秘するよう警告したのですが、あなたは私を無視して、精神科医の友人をこの混乱に巻き込み、しかも真実ではなく、嘘をつきました。
あなたは、現実をすでに知っていたのに、ビンカの空想に過ぎないと信じさせたのです。
さらに、あなたは、友人が行ったこの洗脳によって、姪の感情的、心理的な完全性を侵害しようとまでしました。
あなたは彼女を守るために、私たちの介入を強要し、それで事態は複雑化し、PPが現れ、そしてここにいるのです。
あなたのせいなのです。」
「ブーメランじゃよ。ブーメランの法則じゃ。」
クラトはそう言いましたが、その意味を理解したのはアミとビンカと僕だけでした。
アミの言葉とは裏腹に、ゴローは何の罪悪感も持っていなかったのです。
「君たちは、姪の人生に口を挟むべきじゃなかったんだ!」
「落ち着いて、ゴロー。
それは逆だよ。
ビンカの本をちゃんと読んでたのでなら、ビンカが文学的な仕事をするためにこの世に生まれてきたということを、あなたはもう知らないわけではなかったんだよね。
あなたこそ、彼女の仕事や気持ちを邪魔するようなことをしてはいけなかったんだよ。」
ビンカは僕のところにやってきて、僕たちは他のことを忘れて優しく抱き合いました。
抱き合う度に僕たちは他の世界を忘れてしまうのです。
ソウルメイトであることが関係しているのは確かですが、どんな内なる引力が、抱き合ったときの催眠術のような心地よい状態を創り出すのか、今でもその理由はわかりません。
その様子を見て、クロルカはハンカチを取り出し、興奮した様子で目を潤ませました。
「彼は、小さいわね...でも、いい子そうだわ...。」
彼女はそう言って、僕の「痛いところ」をついてきました...。
ゴローはまた頭を下げて、「あの子を守りたかっただけなんだ...。」とすすり泣きをはじめたのです。
「君たちは、俺がたくさんの新しい真実を受け入れる準備を少しずつしてくれていたんだな。
受け入れるべきだったよ。
僕を理解してくれないかね。」
それを聞き、僕も感情的になってしまいました。
ビンカは叔父のもとに駆け寄り、頭を撫で始めました。
アミは「それが、私が起こそうとしたことです。そうなるように、少しずつ真実を理解してもらうようにしたんですけど、ビンカはとても衝動的で急ぎすぎたのです。」と説明しました。
「この件では、すべてが非常に複雑になってしまいました。
しかし、落胆しないでください、ゴロー。
私たちの優秀なエージェントが、PPがあなたのことを余り知らないか、運が良ければ何も知らないことにしてしまったことが判るでしょう。
そして、家に帰り、仕事に戻り、普通の生活に戻れるのです。」
ゴローは少し元気になったようで、その目に小さな光が射しました。
「それは... そんなこと出来るのかい?
どうやったらわかるのかい?」
「さあ、みんな、どうですか?」
「PPは事務所と、彼らをPP本部に連れて行った車と、彼らが監禁されていた部屋で指紋をチェックしています。」
「この国の指紋押捺に関する法律はどうなっているのですか?
市民を尊重する先進的な国のように、犯罪者からだけ押捺するのですか?」
「いいえ、ここでは書類を取るときに国民全員から取ります。
書類を取ることは義務なので、ここでは国民全員が指紋を取られています。」
「地獄じゃな!くっそー!たまげた!」とクラト。
「しかし、我々のエージェントがすでに全ての指紋を拭き取っています。」
「やったー!!」と、ゴローを除く全員が嬉しそうに叫びました。
「PPは間違いなく、我々が誰なのか知る由もないのです。」
僕たちは喜びを爆発させ、お互いに抱き合って幸福感に浸りましたが、ゴローは喜びを見せませんでした。
クロルカとビンカに抱きつき、ほんの一瞬だけ笑顔を見せたかと思うと、またいつもの酢っぱい顔に戻ったのです...。


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