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Ami Ⅱ 第13章-キャリバー        

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「さて、この装置が私達を、驚くべき場所に『配置』するのを待つ間、クラトが後世に遺したものを君達の言語でコピーしておこうと思います。
その間、宇宙散歩を楽しみましょう。」
とアミが笑顔で言いました。
「時空を超えているときに、ドアを開けたらどうなるのか、興味があったんだ。」と答えると、アミは、呆れたようなフリをしました。
ビンカも「そんなの無理でしょ」というような顔をしましたが、知りたくてたまらないのがみてとれました。
2対1だったのです。
「まあ、私もどうなるかは、わかりませんが、いいアイデアですね。
ドアを開けて様子を見ましょう。」
と、アミが肘掛け椅子から立ち上がりました。
そして、ドアを開ける気満々でドアに近づいたので、僕たちが飛んで行って彼を引き止めました。
彼が笑い転げたところで、僕たちはやっと冗談だったのだと気づきました。
「目的地に着く前にこのコピーを書かせて下さい。
でも、次元に吹き飛ばされないように、何も触らないように...。
は、は、は。
なんて難しいんだ。
解読不能な言語を手書きで書かなければならないとは...。」
彼の前には、僕の言語であるアルファベットが書かれたスクリーンがあり、その横には、別のとても奇妙な記号が書かれていたのです。
アミは、紙に手書きで書きながら、ボードのいろいろなところに指を滑らせました。
僕が彼の仕事に夢中になっていると、ビンカが僕の肩を叩いて言いました。
「静かに仕事させてあげましょう。
宇宙船の点検に行くのはどう?」
「グッドアイディアです。
後ろから覗かれるのは、嫌いなんです。」
とアミが冗談交じりに言いました。
それまで、僕は、この宇宙船の細部まで知らなかったのです。
ビンカと僕は短い散策に出かけました。

これが、後にパソコンで描いた図面です。
僕の記憶によると、こんな感じです。

その後、コントロールルームの奥にもう一つ小さな部屋があり、僕たちは、そこで会話を楽しみました。
窓からは、反射している白い霧だけが見えました。
「窓の向こうに何があるのか知りたいわ。」
とビンカが夢見るような表情で言ったのです。
その様子をじっと見ていると、異世界の人間と会話していることが信じられないような気がしてきました。
彼女が近づいてきて、「初めて私を見たとき、どう感じたの?」
「本当の気持ち?」
「そうよ。」
嘘をつくのが苦手な僕は、自分の気持ちを正直に伝えました。
「最初、君はあまり親切じゃなかったけど….僕は君に….。
すぐに気持ちが変わったんだ。
今は違うんだ...。」
ビンカは、今、どんな風に思ってるの?」
「あなたは、私がずっと夢見ていた人だと感じているのよ。」
その言葉には、僕が彼女に対して感じていたこと、そのままだったのですが、僕には、こんな簡単な表現で伝えることは出来なかったでしょう。
「それは僕の中でも同じなんだよ。
深いところにあるものがどんどん大きくなっていくんだ。」
彼女の紫色の瞳が光を放っているように見えました。
彼女はとても美しかったのです。
お互いを見つめ合うだけで、トランス状態に陥り、異次元に運ばれてしまいました。
すると「禁断の恋にはご用心」
と制御室からアミの声が聞こえてきたのです。
僕たちは彼を無視して、その場に立ち尽くし、お互いを見つめ合っていました。
「ずっと一緒にいられたらいいのに...。」
と、僕は彼女の手をとりながら、言いました。
アミがまた遠くから介入してきました。
「2人には真のパートナーがいることを忘れないでください。
忠実でなければなりません。」
そこで、僕たちは暫く考えてみたのです。
「僕たちの間で禁止されているような事があるの?もしそうでも、僕は気にしないよ。
どうしたら、自分の感じることを止められるっていうの?
意志の問題じゃないよね。」
「未来の出会いを思い出すのです。
その人を思い出してください。
東洋的な顔立ちの女性を思い浮かべると、確かにその時は大きな愛を感じたのですが、今は......。
ビンカは実在してるんだけど、もう1人は記憶にしかないのですから。
「僕は永遠にビンカを選ぶよ。」と、確信を持って言いました。
「私は、ペドロを選びます。」とビンカ。
またしても隣の部屋からアミが笑いました。
「過ぎ行く情熱、どんな風でも消せる炎、ガラボロや子羊の肉のように。」
アミは痛いところを突いてきたのです。
僕たちは、お互いを厳しく評価したことを後悔しながら、顔を見合わせました。
しばらく手をつないだまま、ビンカが言いました。
「ペドロ、何が起ころうとも、あなたのことを知ろうとも、私はもう2度と自分の愛を疑わないわ。
たとえ距離が私たちを隔てたとしても。
いいえ、全てが私たちを隔てたとしても。
あなたは、いつも私にとって唯一の存在であり続けるのよ。」
彼女の目には、小さな涙が浮かんでいました。
もちろん僕も同じ気持ちでした。
僕の心の底から出た言葉は、
「ビンカ、君を知らないときは寂しかったけど、これからは一緒にいなくても、いつも僕の中にいてよね。」でした。
「僕たちは永遠に一緒だと知ってるんだ。
君と一緒なら、僕はもう空っぽではないからね。
うまく説明できないけど、君は僕の中に、永遠に僕の中にいるんだね。」
そして、僕たちは抱き合いました。
それは、世界で一番美しい時間だったのです。
その瞬間から、僕たちはひとつの存在になるのだと感じました。
しばらくすると、アミがいつものようにユーモアを交えて、「罪な恋はもうたくさんです。コピーができました。
それに、私たちはキャリバーに到着しましたよ。」
目を開けると、窓の向こうの、とても濃い青色の大空に、星が浮かび上がっていたのです。
僕たちは、制御室に走りました。
すると、そこには、衝撃的な光景が現れたのです。
なんと、青くて大きい太陽と白くて小さい太陽が2つ並んでいたのです。
「ペドロの世界で最も明るい星、シリウスです。」
「シリウス?
シリウスはどっちなの?」
と僕は尋ねました。
「2つともです。
地球から見ると、この2つの太陽は1つに見えますが、地球からはとても遠い。
この明るい点が見えますか?」
アミが指差したのは、ぶどうほどの大きさの青い小さな球体でした。
「あれがキャリバーです。
あそこに行きます。
植物の種を作るための小さな惑星です。
あそこは、植物の遺伝子実験に特化した世界なのです。
すべては、私たちが培ってきたものです。
そこで優秀な種を手に入れたら、それを必要とする世界へ持っていくのです。」
「何人住んでいるの?」
「コントロール・ステーションにいる数人の遺伝子工学者だけです。
僕たちは、直ぐにその明るい球体に近づき、それが窓いっぱいに広がる巨大な円盤になったとき、僕はこの世界が自分の星とは違っていることに気づきました。
全てが柔らかい青色に包まれていたのです。
紫色の砂浜が広がり、ライラック色の海が広がる穏やかな海の上を飛んでいました。
ビンカが、その興奮を楽しそうに表現しました。
「とても美しいわね!
降りることは、できないの?」
「問題ありません。
それにペドロをこのビーチに連れてくるって約束しましたから。」
確かに、以前の旅でアミはそう言いました。
「ここでは、酸素、重力、温度、植物相などの条件は、あなた方に全く影響を与えず、あなたもこの星に影響を与えません。」
船は空中で停止してから、地面に着地しました。
「私は、次の旅の旅程を準備しなければなりません。
あなた達は散歩に行くことができます。
怖がらなくても大丈夫ですよ。
ここには、何もあなた達に害を及ぼすものは、ありません。
でも、何も食べないでくださいね。」
ドアが開き、僕たちは階段を下りて、オフィルで見たのと同じくらい大きな青みがかった太陽に照らされた柔らかい砂浜を歩きました。
「うーん、ここの空気は、なんて心地いいのでしょう。」
と、ビンカが深く息を吸い込みながら言いました。
花と海藻が混ざったような物も見えます...。
巨大な太陽にもかかわらず、光の強さは、厚い霧の層のおかげで、地球やキアや、オフィルよりも弱かったのです。
まるで夕暮れ時のビーチのようでしたが、地球上よりも限りなく微妙な色合いでした。
もちろん、地球上の砂は紫でもなく、海はライラックでもありませんがね。
手をつないで歩いていると、曲がり角にさしかかり、海に向かって花々が咲き乱れる美しい庭が現れました。
「ここは楽園よ!」
と、ビンカが目を輝かせながら言いました。
ビーチから離れた植え込みの中を歩いていき、さらに進むと、小さな木の森があったのです。
ここの木には葉がなく、細い糸状で、樹皮が磨かれているため、まるで人工的なもののように見えました。
巨大な太陽が海の上に降り始め、ビンカの顔を鮮やかなスカイブルーの色合いで照らしています。
僕たちが、木々の下に座ると、垂れ下がった枝が花々の間で柔らかく揺れているのです。
それが、静まり返った水面に映る姿を、しばし見つめていました。
こんな不思議で荘厳な夕焼けは見たことがありません。
ふと気がつくと、ビンカの髪の後ろがオレンジ色の光に照らされていました。
木々の後ろ、つまり、僕たちの後ろに、第2の太陽が出現したのです。
「見て!!もう一つの太陽だよ!」
「これはすごいわ!
夕日と朝日が同時に見られるなんて。」
僕たちは喜びで笑い合いました。
しかし、しばらくすると、ビンカが悲しげに、「こんなことでいいのかな?正しいことではないのよね。」と言うのです。
「どういう意味?」
「私たちは、未来の生活の中で、誰かが待っていることを知ってるわ。」
僕は、しばらく沈黙していましたが、彼女の言うとおりでした。
「アミが、僕たちを会わせたから、返って辛い思いをするよね
互いに惹かれ合うことを計算し、防ぐこともできたはずなのに。」
と答えたのです。
でも、彼女は、そんな事より、その瞬間を楽しみたいようでした。
「でも、私の人生で最も神々しいことなの。
アミに感謝したいわ。」
これも正しかったのです。
唯一、至福の時を邪魔したのは、将来、他の人と出会うという記憶でした。
そして、僕は、ビンカのソウルメイトが誰なのか気になっていました。
嫉妬もあってか、「君のヒーローは、どんな人だった?」と尋ねてみたのです。
「そんなことは永遠に忘れて、今の自分達のことだけを考えましょうよ。」
「素晴らしいアイデアだね。
僕は額にホクロのある女性を忘れ、君は魅力的な青い王子様を忘れている。」
「どうして彼が青かったとわかるの?」
「どういう事、ビンカ? 」
「青い肌をしていたから...。」
「それなら、ソウルメイトはみんな肌が青いのかも知れないね。
僕が見た女性も青い肌をしてたからね。」
彼女は、とても興味を示し、詳しく突っ込んで来たのです。
「僕は空中に浮いていて、白鳥が出迎えてくれるラグーン(潟)の近くにいたんだよ。
草原や花や葦が歌っていて、彼女が僕を待っていたんだ。」
「蔓だながあって、ピンクのぶどうの木とカラフルな縞模様のクッションに囲まれて?」
僕は唖然としました。
どうしてわかるんだろう?
ビンカは僕の本を読んだからなのかな?
僕の本を読めば、同じ状況がわかると思うけど、待つ女性の視点から...。
「君なんだ!」
「あなたなの?」
と、僕たちは同時に喜びを爆発させました。
そして、まるでひとつの存在になるかのように抱き合ったのです。
今は罪悪感もなく、幸福感に包まれています。
僕は、あの未来での出会いで経験したのとよく似た感覚を感じたのですが、今は見知らぬ未来の自分ではなく、今の自分であると完全に自覚できていたのです。
僕たちを微笑みながら見ていたアミが、「これ以上、違法な恋愛はありません。」と遮りました。
「あなたは、嘘つきよ!」
ビンカは、『ソウルメイトは他者であり、私たちは禁じられている』と言ったことに触れ、とても動揺していたのです。
「自分たちで確かめてほしかったのです。
そのほうが良かったのではないでしょうか?」
「でも、あなたは嘘をついたわ。」
「もし私が『ソウルメイトを紹介します』などと言ったら、何か強制的で義務的で意外性のないものになったでしょう。
代わりに、すべて自然発生的に、意図的にハードルを設けて、それを乗り越えられるかどうか試してみたら、とても上手くいったのです。
あなた達の心の思いは、より強くなった、ということです。」
船に戻ってから僕は尋ねました。
「ピンクの世界での出会いは、いつになるの?」
「何度か一緒になったり別れたりした後です。
これからは、人生から人生へ、常に求め合い、必ず出会います。
ピンクの世界での出会いのずっと後に、あなたたちはひとつの存在として統合され、完全になりるのです
今のところ、同じ存在の2つの半分であり、別々に進化しているいうことです。」
「じゃあ、今、また、別れを告げなければならないの?」
と、ビンカが悲しげに聞きました。
「そうです。
もうすぐあなたはキアに戻り、ペドロは地球に戻ります。
でも今は、生身の人間の誰かが、あなたを深く愛していると知っているのです。
それが、避けられない別れを楽にしてくれるでしょう。」
「楽になるの?その逆だよね。」
と僕が言うと、ビンカも同意しました。
「自分の世界を助ける使命があることを忘れないでください。
もし兄弟を助けなければ、彼らは、利己主義のままなのです。
利己主義者は高いレベルではありませんし、高いレベルでない人は、ソウルメイトを見つける資格がありません
もし、あなた達が、何事にも積極的に協力しなければ、運命は、あなた達を引き離すでしょう。
逆に、あなた達が人の役に立つほど、運命はあなた達をより早く近づけてくれるのです。」
僕たちは、悲しげに船の梯子を登りました。
「別れるのはつらいよ。」
「簡単なことです。
あなた達は今、自分の補うべき魂が存在することを知り、それがあなたを覚えていて、あなたを待っていることを知ったのですから。
その上、コミュニケーションも取れるようになるのです。」
「どうやって? マイクを置いていってくれるの?」
「マイクなんて必要ありません。
愛で結ばれた2つの魂は、時空を超えたコミュニケーションを実現する事が出来のです。


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