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奈良クラブを100倍楽しむ方法#012 第13節対福島ユナイテッドFC ”ブルース”

 まだ「春一番」の余韻が身体中を巡っている。出演者全員がお目当てなフェスだったが、なかでも一番は友部正人さんだ。サポートに僕が最近では一番推しているおおはた雄一さんがつくということで、ものすごい組み合わせだなと思っていたが、そのパフォーマンスは思った以上だった。名曲揃いのラインナップのなかで、心に響いたのは割と最近の曲で「ブルース」という曲だった。

ブルースは元気がない時には歌えない

「ブルース」友部正人

 この歌詞を延々とリフレインしながら、曲は進んでいく。淡々と歌う友部さん。でも、その淡々さが心に染みる。思えばブルースというのは自分の不幸や不運を明るい曲調で歌うものだ。ブルースやフォークソングというのは、日常の嫌なこと、不条理、割り切れない出来事をあくまで明るく歌い上げるという表現方法なのだが、言ってみればこれは「痩せ我慢」である。だからこそ、「元氣がないときには歌えない」のだ。
 言ってみれば奈良クラブの目指すフットボールも「痩せ我慢」であるので、元気がないときには歌えない。全精力を出し切って、中2日で移動日を含んだ中で、同じパッションで試合をするのは、プロだから当たり前だと言われても、なかなかに辛いものがある。そういう意味で、福島ユナイテッド戦は戦術どうのこうのではなく、かなりコンディションの面で苦労する試合となった。

おおはた雄一と友部正人

試合展開

 福島ユナイテッドは、はっきりした思想をもつチームである。フォーメーションは綺麗な4−3−3。奈良クラブも3列表記だと同じ4−3−3になるが、福島は中盤3列が綺麗に横に並ぶところが奈良との違いになる。バランスよく選手を配置して、できるだけ自分たちの立ち位置は変えないぞ、という配置だ。奈良クラブは3トップをディフェンスラインのスライドで対応する様子。開始早々のオープニングシュートは岡田。今日は自分が点を取るのだ、という強い意思を感じる。
 奈良クラブは非保持のときは神垣がアンカーで堀内が前に出るというあまり見られない立ち位置をとる。その脇を嫁阪と岡田で閉めるので、中央が硬い。その分ウィングがいなくなくので、サイドでボールをキープしてサイドバックが上がるという攻撃の展開を作ることができなかった。特に前半においてはコンディション面を考慮してのペース配分だったのかもしれない。
 試合の序盤は奈良クラブがボールを回すが、徐々に盛り返す福島。20分あたりからは五分五分で進む。堀内を前にだしているので、トランジションのときの全体の推進力がほしいと感じた。おそらく、もしうまく奪えた時は堀内から百田と國武に決定的な形でパスを通す狙いがファーストチョイスで、それができない時にいつものポゼッションに切り替えるというようなプランだったのではないか。しかし、これは以前も言った通り、ウィングバックの運動量がかなり多くなるので、相手のトランジションのときの対応ややや遅れる。それが失点の場面である。結果的に自チームのイージーなパスミスから、一つ一つの対応が遅れると戻りながらの守備になるので、それが失点の直接的な原因である。しかし、あの場面で嫁阪は足を出さなければやられていたので、結果としては同じこと。むしろ自分のミスからの失点を責任を取ろうとしてのプレーだったので、仕方ないように思う。

 後半、パトリック投入。百田が右へ。今シーズン初めて見る形だ。百田とパトリックの2トップかと思ったが、百田が右に動くことで陣形は変わらずだ。
 しかし、福島は球際が強い。寒いところ特有のフィジカルの強さに加えて、非常に組織立っているので、かなり手強い相手だ。50分あたりでやっと生駒が高いポジションでボールをうける。ここからコーナーキックでチャンス。サイドから揺さぶられると福島もそんなに盤石じゃない。組織だっているということは、その分、融通が効かないということでもある。彼らの想定外をいく攻撃を繰り出せばまだまだ勝機はある。お互い睨み合いのような状態が続くなかで、64分。奈良クラブ失点。
 今日のレフリーは全体的に接触には厳しく笛を吹いていたので、カバーに入る鈴木も含めて全体的に相手を見すぎてしまった。あそこまでこまめに吹かれると、選手はかなり慎重になるだろう。そのなかで決め切った福島の大関選手は立派である。
 ただし、ここから奈良クラブがリアクション。キックオフ直後に中島選手の強烈なミドルシュート。惜しくもポストを直撃するがチームに喝を入れるシュート。そして、これに応えるのが國武選手だ。
68分、國武、初ゴール。サイドに開く岡田からボールを引き出してキープ、からのゴール隅へのシュートが決まって2−1。とうとうJリーグ初ゴールを決めた。前の試合から保持の時はゴール左のスペースは左のインテリオールが入ることが約束されていたので、それが結果を出した格好だ。
 勢いづく奈良クラブ。かなりお互いに苦しそうだが、その中でも百田がとにかくがんばっている。サイドに回ってからもよくバランスをとり、点も狙っている。彼もかなりキツいはずなのだが、最後まで足が止まらなかった。試合の最終盤、澤田に代えて西田を投入。これまであまり見られなかった交代だ。これでディフェンスを一枚削って前線の枚数を増やす。なりふり構わず同点を目指す交代はこれまであまり見たことがない。ここから奈良クラブの必死の反撃が見られるも、実らずに2−1で敗戦。今季初の連勝はお預けとなった。

あえて書く改善点

 現実的な選択肢ではないことを承知の上で改善点を書く。真ん中を固めるために岡田と嫁阪が中に絞る作戦は効果はもちろんあったが、両翼を広げられない奈良クラブは攻撃を構築できない。自分たちのストロングポイントを削っても勝利を目指すのであれば、もっとリアリズムに徹する姿勢が必要になる。今日の戦術なら先発は岡田ではなくて桑島の方が良かったかもしれない。後半にドリブルのできる岡田が入ってきたほうが相手は嫌だろうし、桑島はフレッシュだった。あるいは、神垣と中島の併用でも良かった。
 前節の良さはサイドをいっぱいに使った攻撃ができたことだ。今日の戦術で岡田の良さはでない。スタメンがそのままなのであれば、非保持の時の國武と岡田の立ち位置は逆にしても良かった。その方が相手は嫌なはずだ。奈良クラブのチャンスメイクをする両サイドバックが上がるための時間を作ることができないので、攻撃が単発になってしまっていた。岡田はキープできるので、その時間を作ることができたように思う。國武はボールを捌くので、タメをつくるようなプレーはまだできない。中盤の構成力では五分五分だったので、内容としては見劣りはしてない。ゴール前のディティールのところの差での決着だった。そこは不運だった。しかし、決定的なチャンスの数が少なかったのも事実だ。であるなら、少ないチャンスは絶対に決めないと、こういう試合で勝ちは取れない。選手の必死さは痛いほど伝わっているので、良い流れがもっとできれば、ああいうシュートもどんどん入っていくはずだ。

ロードムービーとしてのJ3

 それにしても、J3というのは地域の様子がよく見えて面白い。家族でも今期の後半、あるいは来期はアウェー遠征の話題がよく出るようになった。小さな町、大きな町、全国津々浦々にJ3のチームはあり、そこの選手はその町のヒーローなのだ。今日もダゾーンには、福島の子供達の熱い熱い声援が聞こえていた。ああいう応援をされたら、福島の選手は頑張らざるを得ないだろう。コールしているなかでも、ファールにはちゃんと反応をして「ぅおーーい!」と抗議するところも板についていた。もう何度もスタジアムに足を運んでいる様子だった。
 もちろん、奈良クラブには勝ってほしいのだが、いつもいつも良い景色が見られるわけではないことは百も承知である。ただ、定点として奈良クラブを据えることで、毎週のようにどこかへ旅をしたり、帰ってきた選手を労ったりという、ロードムービー的な面白さがある。そして、奈良クラブの選手やチームにストーリーがあるように、相手チームにもストーリーがある。もっというと、そのサポーターたち一人一人にもストーリーがあり、お互い痩せ我慢と意地の張り合いをする。この光景は、なかなかに美しいものだと感じる。
 ロートフィールドでも、試合前の隣の人の鼓動まで聞こえそうな緊張感だったり、試合のあとのなんとも言えない余韻だったりと、ひとつひとつのシーンが思い出になる。それは個人的なものもあるし、場所に積み重なるものでもある。奈良クラブは身近なクラブだけに、その1ページ1ページを自分たちで書き記しているような気持ちになるクラブだ。おそらく、福島ユナイテッドのファンもそんな気持ちなのではないだろうか。
 現地に行ったことはないが、今日の福島のスタジアムに妙な親近感を抱いてしまったのは、おそらく福島ユナイテッドというチームの性格も奈良クラブに似ているんじゃないかと想像するからだ。志向するフットボールのスタイル、ファンの雰囲気、場所は違えど彼らがチームを大切に思う気持ちはあまり自分たちと変わらないように見えた。ぜひ一度訪れてみたいスタジアムだ。
 リーグ戦は少しお休みで、来週は天皇杯の奈良県代表を決める試合が開催される。橿原陸上競技場は、僕が少年時代に実際にプレーしたこともある思い出のスタジアムだ。感慨深いので、現地観戦をしてこようと思う。

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