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仮説検証ゲーム

金曜日、娘が図書室で本を借りてきた。

彼女はこの4月に入学したばかりなので
実質初めて借りてきた本である。

一体何を借りてきたのかと見てみると
なんとお菓子作りのレシピ本であった。

以前からお菓子作りなどほとんどしたことが
なかったはずなのに急にどうしたのだろう。

そう思い娘に聞いてみると
「ゴールデンウイークに作るねん」と
嬉しそうに言う。

我が家の子供たちはあまり外出したがらず
家の周りで何かをするのが好きだが、
このゴールデンウイークもガッチリ家で
過ごすつもりらしい。

そう思っていると娘が
「もちろん、パパも一緒に作るんやで」
と言ってきた。

自分で言うのもなんだが私は料理ができる。

学生時代に飲食店で働いていた経験が活きて
和洋中どれでも何となく似たような味には
仕上げることができるのだ。

なので我が家では妻よりも私の方が
料理を作る機会は圧倒的に多い。

そんな私だが、お菓子の類は全くと言っていいほど
作ったことがない。

私が作る甘いものと言えば、
白玉団子、大学芋、パンケーキ、カルメラ焼きぐらいで
これまでお菓子を自分で作ろうという
発想に至ったことがなかった。

なので、今回の娘の提案は私にとって
新鮮なものであったのだ。

早速娘と一緒にページをめくり
何を作ろうかと考えてみる。

いきなりハードルの高そうなものを
作るのもよくないので、
色々娘と議論した結果、
最も簡単で美味しそうなスイートポテトを
作ることに決まった。

レシピ本に書かれている材料と
冷蔵庫にある材料を見比べる。

娘に無塩バターとは何かを説明ながら
足りない材料をメモに書きだして
その日は眠りについた。

そして迎えた昨日。

朝起きてきたときから
いつスーパーに買い出しに行くのかを
嬉しそうに尋ねてくる娘。

朝から少し外で用事があるので
そのついでに一緒に買い出しに行くことになった。

私の用事とは段ボールや食品トレーなどの
資源ごみを市が運営する回収センターに
もっていくことだったので、
正直全然楽しくない作業である。

だが、娘はそれも嬉しそうについてきて
予め家で分別していたゴミを所定の場所に出すのを
手伝ってくれた。

やはり、この後に楽しみがあると
人は少々面倒な事でも気分よくできてしまう
生き物らしい。

あっという間にゴミ出しが終わり、
近くのスーパーに車を滑り込ませた。

昨日がゴールデンウイーク初日ということもあり
スーパーの様子はいつもよりも少し
パーティ仕様な感じが漂っている。

ふとみると娘はカートとカゴをもうすでに
しっかりと用意して押している。

まずは無塩バターから、と娘に言うと
驚いたことに娘はあらかじめどのあたりに
あるのかを妻に聞いたりして
頭に思い浮かべていたらしい。

一目散にその場所に向かい始めた。

やはり好きなことをすると人は強い。

そうして必要なものを驚くほどスムーズに
カゴに入れて
私たちは帰路についた。

ここからの流れは言うまでもない。

家に帰ったからと言って、私がゆっくりと
コーヒーを飲ませてもらえるわけもなく
早速レシピを見ながら作り始めることになった。

日ごろ私は料理を作るときに計量をあまりしないが、
今回のお菓子作りは完全にレシピ通りに
作ってみることにした。

すべての原材料をしっかりと軽量しながら、
娘にさつまいもの皮をピーラーでむいてもらい、
それが終わったら一緒に輪切りにして
ラップで包んで電子レンジで加熱する。

加熱が終わったかどうかを竹串で確認し、
問題なければそれをボールに入れて
熱いうちにすりこぎ棒でつぶす。

私があらかじめ軽量していたバターや砂糖などの
原材料をその中に入れて、
今度はシリコン製のスパチュラで混ぜてもらう。

初めて使う調理器具に嬉しそうな娘。

その間に私はレシピに書かれた温度にオーブンを
余熱しておき、
広げたクッキングシートの上に
娘が混ぜ終わったものをアーモンド型のような
形状にして並べていく。

余熱完了のアラームが鳴ったらそれを
オーブンに投入して、後は焼き上がりを待つ。

こうして文字で書いてもとてもシンプルな
工程であったが、
娘にとってはもともと個々の原材料だったものが
自分の手で組み合わされていき
変化していく様子がとても面白かったらしい。

どの工程もとても興味深そうにやっていたし、
その工程にどのような意味があるのかを
私に聞いてきた。

そうして10分ほど経って、
完成のアラームが鳴った。

娘はオーブンの前で既にミトンをつけて
スタンバイしている。

オーブンの扉を開けると
スイートポテト独特のいい香りが
漂ってきた。

取り出したスイートポテトを
お皿に盛りつけて、
早速家族で食べてみることに。

一口食べると口いっぱいに芋の香りと
とても豊かなバターのコク、
そして砂糖のねっとりとした甘みが
すっと広がって、
驚くほど美味しいではないか。

皆が顔を見合わせて
「なにこれ、めちゃ美味しいやん」
と言いながらあっという間に食べてしまった。

自分で食べても美味しかったし
家族も喜んでくれたことに
とても満足そうな娘。

食べ終わって片付けをしていると
娘は早速借りてきた本をめくり
次は何を作ろうかと考えていた。

その様子を見ながら、
何だかこれは実験をする楽しみに
似ているなと思った。

私は商品開発という仕事柄
実験をすることが多い。

実験をするときには必ず仮説を立てて
この実験の結果で何が得られるのかを
予め考えながらする。

昨日娘とスイートポテトを作るプロセスで
娘は買いそろえた原材料や
その調理方法を見ながら、
どのような触感や味になるのかを
おぼろげながら想像していたと思う。

芋をつぶす工程ではどのぐらいまで
つぶせばいいかレシピ本には書かれていなかったので
「どれだけつぶしたら食べた時にどんな風になるか
想像しながら決めたらいいやん」と
娘にアドバイスすると、
何だか考えながら一生懸命に芋をつぶしていた。

まさに料理をしたりお菓子を作ることは
仮説検証の塊なのだ。

冒頭に書いたように、私は料理が得意であるが、
これも過去に仮説検証を沢山重ねてきたからこそ
何をどうすればどういう結果が得られるか
精度高く良そうで着るようになったからである。

仮説検証をすることは何も理系だけではない。

どんな学問においても重要な要素であるし、
ビジネスをするうえでも最も大切な要素だと
私は思っている。

そして、何よりも仮説検証をすることは
楽しいのである。

昨日のお菓子作りを通して
そんな仮説検証の楽しさを娘が感じてくれたならば
とても嬉しく思う。

早速つぎに作るメニューを決めて
「明日はこれを作るで、パパ」と言う娘を見ると
どうやら私の思惑通りになったようである。

ちなみにお菓子作りが終わった後、
近くの公園に息子とサッカーの練習を
しに行ったのだが、
息子は息子で狙ったようにボールを蹴れずに
自分なりに仮説検証を繰り返していた。

なかなか思ったような結果が出ずに
もがき苦しみながらボールを蹴る様子も
何だか楽しそうに見えたの私の気のせいではないだろう。

今日も晴の一日になる。

子供たちとどのような仮説検証をして
楽しもうか。

子供たちに仮説検証を楽しんでもらうという
仮説検証実験にワクワクする私であった。

ちなみに娘とお菓子作りをしながら
計量作業をしていた私は
こんなにも多くのバターと砂糖が
入っていることに驚いてしまった。

可視化は色んな事を気付かせてくれる反面、
知らずに食べていた方が良かったことにも
気づかせてくれるらしい。

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