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最大の価値を創造する組織への変革を最速で実現する方法

人類は、共通の目標に挑む「組織」をもって、現在に至るまでの数々の偉業を実現してきたと言われています。

ビジネスシーンにおける組織発達プロセスを概観すると、なんらかの力を持つ者を中心にまとまったモデルを端緒とし、更なる規模拡大と価値創造の最大化を目的として、構成員の強みや特性に応じた役割と機能を分担、専門化や高度化を進める階層型組織へと発展しました。

市場の変化スピードが爆速化し、振れ幅も大きくなった現代では、アジャイルでフレキシブルな対応が可能な組織構造、例えばマトリクスのような機能横断的構造、そして結びつき方が複雑かつ柔軟なネットワーク型組織等へと変わりました。フレデリック・ラルー氏が著書「ティール組織」で提唱したホラクラシー(仲間の合意に基づいて役割が流動的に変更される組織)が衆目を集めたのも、記憶に新しいところです。

しかし、今後の組織構造を考察するにあたって、価値創造の主役が「ヒトとAI」になることを織り込む必要があります。近い将来、AGI(Artificial General Intelligence、人工汎用知能)やASI(Artificial Super Intelligence、人工超知能)の登場も予測されており、今はまだヒトが担っている価値創造さえAIに委ねる時が来るのかもしれません。

日々刻々GAI(Generative AI、特化型人工知能)が進化する現在を、ヒトとAIが協働して価値を創造する時代と捉えるならば、組織変革(Organizational Transformation、以下OX)はヒトとAI双方の特性と機能を最大限に活かすことに最適化された構造へとシフトすることがゴールとなるでしょう。

本稿では、組織構造に期待されるものが価値創造の最大化にあることを念頭に据えて、ヒトとAIの共生時代におけるOXの実現方法についてまとめます。


組織変革が重要である理由

必然性

めまぐるしく変化する外部環境に対応するには、OXが必要です。日々進化するテクノロジー、市場機会、顧客嗜好、競合の動向等、変化の振れ幅が大きく、高速化する中、従来の組織体制で対応できないとなれば、必然的に変革しなければなりません。また、対応体制は整えたとしても、高業績を挙げるためのケイパビリティが足らなければ、挙績の重要ドライバーを強化するための打ち手が必要になります。

なお、OXは計画から実行まで平均10ヶ月程度の時間がかかること、その間の生産性は低下するうえ、成果に結びつくまでには更にある程度の時間が必要になることを考えると、平均2年強の任期で経営者が成果を出すことは簡単なことではありません。トップが交代と同時にOXに着手するのは、こうした事情があるからです。オーナー経営企業の場合でも、任期の制約はやや緩くなりがちですが、必然性に関しては同じです。

価値創造

OXの目的は価値創造の最大化です。戦略の効果的かつ効率的な遂行、成長の加速、質の高い意思決定、アカウンタビリティの強化、コスト削減等、その時々の目的を達成するために組織の最適化を図るわけです。

しかし、「その時々」という言葉が曲者で、前回の経営環境下では価値創造の最大化に役立ったOXが、今回の経営環境下でも同様の成果を挙げる保証はなく、逆効果になる可能性もあるということは理解しておきましょう。目的に合わせたOXの手間を惜しむと、手痛いしっぺ返しを喰らうことになりかねません。

成功確率わずか23%

価値創造の最大化のためにOXに取り組むことは必然ではあるのですが、成功例より失敗例を多く目にするように思います。例えば、OXを計画したもののなんらかの理由で実行されなかったケースや、実行されても目的未達成に終わったもの、そして実行したら業績に大きなダメージを与えてしまったもの等が大半を占めており、成功例は全体のうちわずか23%という調査結果もあるのです。

当初は大きな夢を描いて取り組むOXですが、実際には混乱、非効率、士気の低下といった不安定さを伴うものでもあり、失敗すれば価値創造にも悪影響を及ぼします。

一度躓くと、その失敗を克服するために新たなOXに取り組むものの、往々にして失敗に終わり、さらにまた新たなOXに挑戦する、という負のスパイラルに陥るものです。そうなると、まるで年中行事かのように、混乱、非効率、士気の低下というカルチャが定着してしまう危険性もあります。

OXによってもたらされる価値創造のインパクトが乏しい場合も同様です。皆様のなかにも、大変な思いをしながら1年近くOXに取り組んだあげく、特筆すべき成果が上がらなかった時の徒労感を経験した方も多いのではないかと推察します。

では、OXを成功させる重要な要因について見ていきましょう。

組織変革の3つのKFS

グランドデザイン

OXというとすぐ組織構造(組織図)をイメージする方がいますが、組織構造をリデザインすればトランスフォームが成功するわけではありません。組織を構成する人的資本、事業活動を遂行するなかで発生する様々なプロセスも同時に検討しないと、繰り返し組織図を書き直したところで文字通り画餅に帰すことになります。

組織構造、人的資本、プロセスを要素分解すると下記のようになります。

  1. 組織構造
    期待役割・責任、ガバナンス、コア・非コア(外注)、部門・部署等

  2. 人的資本
    能力・スキル、カルチャ、非公式ネットワーク、全従業員規模等

  3. プロセス
    意思決定、PM(パフォーマンス・マネジメント)、プロセス設計、テクノロジー、その他の連携状況等

これらの要素をすべて変革できればOXの成功可能性が高まると推察しますが、様々な制約がある中で10を超える取り組みをしなければならないとなると、重要な要素をいくつか実行するという結論になりがちです。

7割弱の企業がOXに失敗していると先に述べましたが、ほぼ同じ割合の企業が1つか2つの要素にしか取り組んでおらず、7つ以上の取り組みをした企業のOX成功確率はそうでない企業の6倍になることも明らかになっています。

複数要素の変革で生じるシナジーがかくも強力であることを考えれば、いたずらに効率性やタイパを追求するのではなく、腰を据えて複数要素の変革に取り組むことが成功へのクリティカルパス(最適かつ最短距離)になると捉えましょう。

アジリティとスタビリティ

アジリティとスタビリティは一見相反するように思えますが、実は突出した業績を挙げているエクセレント・カンパニーはこの2つを兼ね備えていることがわかっています。

これらの企業群では、安定して潤沢なキャッシュを稼ぎ出す事業が屋台骨を支えており、戦略や組織に一貫性があり、良好なカルチャが醸成されています。

一方、持続的なイノベーションの創発を促すには、アイディアソン、PoC、トライ&ラーニングを全速力で繰り返すアジャイルな働き方が求められます。キャッシュカウが安定している企業ほど、こうしたアジャイルなチャレンジを許容できる環境を整えられることはご理解いただけるかと存じます。

なお、アジャイルという言葉が意味するものは、単なる素早さ(スピード)や俊敏性、あるいは開発手法を指している訳ではありません。イノベーションを事業化・マネタイズに結実させるために必要となるマインドセットをはじめ、課題設定、仮説検証、問題解決、リーダーシップ、マネジメント、意思決定、顧客開発、決断力、学習力、実行力等、あらゆる取り組みにおいて創意工夫をこらし、粘り強く、賢明で、挑戦と失敗を繰り返して成功に漕ぎ着ける一連の行動様式のことを、アジャイル、あるいはアジリティと呼ぶべきと考えます。

さて、アジリティ・スタビリティと企業業績の相関調査によると、両方とも優れている企業が高業績を挙げられる可能性は68%にのぼりますが、アジリティが高くてもスタビリティが低ければ15%、アジリティが低くてもスタビリティが高ければ11%、両方とも低ければ6%という確率になっています。

興味深いのは、アジリティとスタビリティを兼ね備えた企業は、アジリティは高いがスタビリティが低い企業より高業績を挙げる可能性が3倍以上高いことです。

これはアジリティとスタビリティをバランスよく保持できるようデザインする際に、時代を越えて受け継いでいく普遍的なコアを見極めると同時に、次々やってくる新たな課題、機会、脅威に対して、素早く対応できるフレキシビリティやバッファを予め織り込んでおくことが必要であることを示唆します。

理屈としては、コア部分はステーブルなものとして変化させる必要はなく、アジャイル部分を状況に合わせてリデザインするだけでOXは完了するはずなのです。実際、高業績を挙げる企業では、数年ごとの大規模OXを繰り返すことはなく、変化させるべき部分を継続的に変化させ続けて対応しています。

9ルールズ

ある調査によると、高業績を挙げている企業がOX成功のために遵守した9ルールズがあります。

  1. PMVVへのフォーカス
    問題にフォーカスすると予期せぬ新たな問題が生まれがち

  2. 綿密な現状調査
    構造、人的資本、プロセスについて正確かつ検証可能な全体図を作成

  3. 構造的アプローチ
    複数の選択肢を作成、様々なシナリオをテスト

  4. グランドデザイン
    組織構造、人的資本、プロセスの各要素をモレなく検討

  5. 精緻な人的資本マップ
    各レベルで明確に定義された役割を、秩序ある透明性の高い方法で埋める

  6. マインドセット・シフト
    指示に対して皆が自動的に従うと仮定しない

  7. 長短両方の管理指標
    主要投資計画と同じ厳格さで、人的資本計画を実行する

  8. 緊密なコミュニケーション
    経営幹部と社員の双方向的なやりとりを通してストーリーを浸透させる

  9. 移行リスクのマネジメント
    事業の中断、人材流出、顧客対応力の低下等を監視し、軽減する

遵守ルール数と成功確率(%)の相関を分析した結果も見ておきましょう。遵守ルール数0では成功0、以下同様に、1~2:12、3~4:25、5~6:57、7~8:73、9:86という結果が出ているとのことです。

先述した23%という成功確率から推測すると、4つめのグランドデザインが越えられない壁になっている可能性が高いと考えます。つまり、組織図の描き直しに留まり、人的資本とプロセスの検討が不十分なのではないでしょうか。ここで躓くと、5つめのルール以降の遵守は難しくなります。マインドセットの転換、人的資本計画、コミュニケーション戦略、リスク管理等、すべての根本がグランドデザインの解像度の影響を受けるのです。グランドデザインがいかに重要で、遵守することが難しいのか、ご理解いただけるかと存じます。

続いて、具体的なOX成功へのステップについて記します。

成功のための5ステップ

1.ゴール・セッティング

OXのゴールを定めるためには、戦略が組織に及ぼす影響について明らかにすることが必須です。PMVV(Purpose, Mission, Vision & Value)の実現のためDXに挑戦するなら、あらゆる事業構造が変わり、組織構造もそれを実現できるものへと変革しなければなりません。勿論、人的資本、プロセスにおいても、どのような変革が必要になるのかを検討したうえで、どのようなゴールを目指すのかを目標に落とし込みます。

それと同時に、現行の組織構造、人的資本、プロセスが期待通りに機能していない原因を特定しておきます。各要素の検証ポイントは、3つのKFSで記した箇所をご参照ください。また、誰がいつ、どう関与すべきか、役割と責任を明確にしておきましょう。

2.レディネス精査

現状の組織構造、人的資本、プロセスについて定量的、定性的に正確に把握します。先述した普遍的なコア部分、フレキシブルに変化に対応させる部分についても確認しておきましょう。また、ベンチマーキングを活用して、どの点をどの程度まで改善すればよいのか明らかにします。そして、リデザイン案を複数作成し、各案の評価をしておきましょう。

3.ゴール到達に必要なものの明確化

ステーブルなコア部分と、アジャイルに変化に対応する部分を定め、基本的な組織構造、人的資本、プロセスのグランドデザインを実行します。デザインがまとまったら、取締役会の承認を経て主要ステークホルダーの支持・了解を取り付け、ディテールデザインに着手します。

組織構造、人的資本、プロセスをゼロからデザインすることは誰しも初めての挑戦になるため、戸惑いや不安の中、正解らしきものが見えない検討となり、正直なところ難渋します。ここを乗り越えたら、次に頭を悩ませることになるのが、人的資本ポートフォリオの最適化に基づく再配置になります。

4.実行

OXの実行フェーズは、表面的には計画通り推進できているように見えても、実態はあまり変化していないことが大半です。いくら大号令がかかっても、慣性を即座に断ってあるべき姿に切り替えることはできません。

ポイントは、マインドセットのシフトにフォーカスすることです。これまでの組織構造、人的資本、プロセスを決定づけてきたマインドから、あるべき姿の実現に資するマインドに切り替えるための仕掛けを計画的に準備しましょう。

失敗を恐れて挑戦しないカルチャが蔓延しているなら、新しい取り組みをひとつもせず、前例踏襲を重んじる人よりも、先陣を切って未知のテーマに積極的に取り組んで失敗する人、遅行より拙速、完璧に仕上げるより6割程度で次フェーズに突き進むこと等を高く評価するようにすれば、マネジメントが何を重視しているかが伝わります。

これらの取り組みを積極的に発信することで、社内外のステークホルダーの後押しを得ることができれば、実行が加速します。当然ですが、これらの取り組みは予め実行計画として策定されていなければならず、必要なリソースの調達をはじめ、進捗管理指標、トラッキングの仕組み、推進体制等も明確にしておきましょう。

5.持続的改善の仕組み化

一連の取り組みにより見通しが立った時点で、持続的改善が自然に行われるような仕組みをマネジメントサイクルに組み込みます。OXによってこれまでの組織構造、人的資本、プロセスを、ステーブルなコア部分とアジャイルに変化に対応する部分へと移行させるわけですが、単に切り分けを宣言すれば済むわけではありません。

組織構造に関しては事業継続性、人的資本に関してはA&R施策と従業員エンゲージメント、プロセスに関してはパフォーマンス・マネジメント、意思決定等の移行状況を逐一モニタリングしてダッシュボードに反映させることが必要になります。

Appendix

弊所ホームページとブログに関連コンテンツを掲載していますので、お時間に余裕がある時にご参照いただければ幸いに存じます。

People, Culture & Organizational Diagnosis

ヒト・カルチャ・組織の現状診断です。EX(Employee eXperience、従業員体験), HRDX(HR Department Transformation、人事部門改革), HCI(Human Capital Investment、人的資本投資、いわゆる人件費管理), HCM(Human Capital Management、人事制度改革), People Analytics, Workforce Design の中から、目的に合わせて選択して現状を明らかにします。

People, Culture & Organizational Consulting

上記診断の結果に基づいて、HCS(Human Capital Strategy)をデザインします。その際、デザイン要件としてDE&I、Flexibility & Fluidity、Enhancement、労働人口減少、長短両時間軸を見据えて、戦略性をいかに持たせるかを検討、最終的にはコア人事制度(ランク、評価、報酬、人的資本開発)改革、組織構造のリデザイン、カルチャチェンジに結実させます。

Change Management

DXコンサルティングの一環として提供しているチェンジマネジメントですが、OXの実行フェーズに適用、着実な遂行を実現します。OXは終わりなき旅と言われますが、モニタリングすることもなく漫然と行ってはならないので、推進体制を整えて完遂させましょう。

最期までお目通しいただきまして、ありがとうございました。ご質問、疑問点、コメントなどがございましたら、お気軽にお寄せいただければ幸いに存じます。皆様にとってなんらかの手蔓となれば嬉しいです。


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