文体の舵を取れ:練習問題3 長短どちらも

## 前提

『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』(フィルムアート社)]の練習問題3の回答をここに書く。

制限時間は指定通り1問30分。原文で指定がなければ、1段落は160~240文字、1Pは500~800文字として扱う。

## 問1

### レギュレーション

1段落の語り(200~300字)を15字前後の文を並べて書くこと。

### テーマ案

緊迫・白熱した動きのある出来事(ex.盗み)

### 回答

22分/298文字

廃駅のロッカーを漁る。ロッカーをひとつ選ぶ。ドライバーを隙間にねじ込む。広がった隙間に無理矢理指を入れる。指を挟む。痛みに悪態をつく。俺は何をやっているんだろう。家に帰ってしまいたくなる。だが俺は命が惜しい。心を落ち着かせるルーチンを執り行う。両手で頬を叩く。鼻で息を吸い込む。錆の匂いがする。せっかくここまで絞り込んだのだ。ここのロッカーのどれかにあるはず。隣のロッカーをこじ開ける。天板の裏を見つめる。セロテープで鍵が止めてある。テープを剥がす。鍵を裏返す。シールの文字を読む。今日の日付と俺の名前が書かれている。首の皮一枚つながった。安堵のため息をつく。寿命が三日延びた。ゲームを続けよう。

### 解説

何かデスゲームをやらされているらしい。思い浮かべたのは『Portal』の実験施設や『Splatoon2 オクト・エキスパンション』の深海メトロ中央駅。あの薄暗さはこのお題にぴったりだ。ちなみに『オクト』では全ステージクリア後に中央駅のロッカーを調べると裏ボスに挑戦でき、限定ギア『金のつまようじ』がもらえる。ゲームをプレイするとクリアまでにした苦労や緊迫感をセットで記憶するので、こうした『緊迫・白熱』というお題で想起しやすいのかもしれない。問2との対比で読点は使わないことにした。

## 問2

### レギュレーション

700文字に達するまで語りを1文で書くこと。

### テーマ案

感情の高まり・大勢の登場人物

### 回答

30分+7分over/763文字 ※百合描写があるので注意

ふたりっきりの夏の教室で抱き合ったあと、りえが細っこい指先であたしの耳の裏をなでると、触れられたところから首筋、胸、お腹にかけてびりびりと電流が走ったようになって、思わず甘い声が出てしまい、顔が赤くなるのをごまかすように額をりえの肩に乗せると、りえがくすくすと笑うのが見なくてもわかって、マリは耳が弱いんだ、なんてナメたこと言われたら普段のあたしならぶっ飛ばすところなんだけど、あの甘い声のせいで今はもう体も心も芯からふにゃふにゃになってしまっていて、黙ってうなずくことしかできないあたしはもうどうしようもなくりえに落ちてしまっていることを自覚させられたから、もういいやと思ってりえの胸元に顔をうずめると、夏の汗と女の子の匂いがして、心拍数も記録更新、あたしの降伏宣言に応えるようにりえが背中に腕を回すと、触れたりえの手のひらからまたあのびりびりした感覚があたしのお腹にますます集まってくるのが感じられるから、無理無理無理、と快感の電流を無理矢理アースで逃がすみたいにあたしの背中が無意識に丸まっていくのがわかって、その背中をりえがまた撫でるものだからかえってお腹の甘さが指数関数的に増えて、こっちも抱き返す腕に力が入ってしまって、こんな露骨に発情したような、前のあたしなら一番嫌っていたはずの動きを決めてしまうなんて心の底から情けなくなるし、あたしのぜんぶをねじ曲げてダメにしてしまう巨大台風を、りえがあたしの大海原をかき回して作っているのに止めることができないことに無力感を覚えるけれど、でもやってしまったからには、あたしの理性はもう使い古しのスポンジみたいにグズグズになってしまっていることを認めるしかなくて、でもミルクを染み込ませたシフォンケーキみたいに素敵なあまい味がしているようにも思えて、これが恋なんだと思った。

### 解説

このふたりは『蠍田マリ』『琴井谷りえ』。高校生だ。りえはマリより15cm高い。今書いてる一次創作百合の長編から出張してもらった。キネノベ大賞3に出すつもりだったが思った以上に長くなってしまい、8/31の〆切に間に合いそうにないので休止中だ。はい、ちゃんと完成させます……

何しろ百合でイチャイチャなので書いていて非常に楽しかったのは確かだが、『1文で書く』というレギュレーションを遵守する上では結構迷う場面があった。

例えば『りえがあたしの大海原をかき回して作っているのに止めることができないことに無力感を覚えるけれど、』を『りえがあたしの大海原をかき回して作っているのに止めることができない無力感、』としたとする。これは事実上体言止めなのでは?

また、『逃れられない快感の電流を無理矢理アースで逃がすみたいにあたしの背中が丸まっていくのがわかって、その背中をりえがまた撫でるものだからお腹の甘さが指数関数的に増えて、』を『逃れられない快感の電流を無理矢理アースで逃がすみたいにあたしの背中が丸まっていくのがわかる、その背中をりえがまた撫でるものだからお腹の甘さが指数関数的に増える、』としたとする。これも読点で区切っているだけの複数の文なのでは?

文章としての好みやリズムを優先するなら上の2つの技法を使ったはずだけど、基準がよくわからなかったので助詞でつなぐことを優先した。おかげで「て、」の多い文章になってしまった。

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