葉咲透織(はざきとおる)
note創作大賞2024参加中の「ごえんのお返しでございます」をまとめています。 スキやSNSでの拡散、ありがとうございます。応援よろしくお願いします。
子どもの頃に自分を助けてくれたレオンに忠誠を誓い、あれこれと世話を焼くルゥ。美形で賢い貴公子のレオンには、唯一の欠点があった。それは極度のシスコンだということ。ある日レオンは言う。「ルゥ。僕たち、付き合わない?」と。 美形策士シスコン貴公子×平凡尽くす系従者のラブコメ風ファンタジー。
kindle配信中の『このキスは返品不可』の番外編ssです。3話完結。
十二月を師走というが、「師」を「教師」に限定すれば、四月も同じくらい慌ただしいものだと、端から見ていて思う。 一年でやらなければならないカリキュラムは決ま…
病院へ行こうとした僕のもとに、着信があった。相手を見て、バスに乗る前でよかったと思う。 電話に出なかったら、機嫌を損なうことになる。そうなれば、今度電話をく…
とうとう、見つかってしまった。 「あれ、紡くん?」 総合玄関から入って西棟へ向かう途中、冴木医師に声をかけられた瞬間、足が竦んだ。 「今日はどうしたの?」 …
美希たちは、相変わらず教室の中心になっていた。 今は、終業式前日の球技大会の話で盛り上がっている。誰がどれに出れば活躍できそうか、あいつは運動音痴だから足手…
放課後、部活も何もしていない僕は、まっすぐ家に帰るのが常だが、今日は違った。 商店街と住宅地の狭間、古民家に擬態した、ニッチな商材を扱う店に向かう。 途中…
次の日、僕はいつもよりも早い時間に家を出た。相変わらず、「行ってきます」に応じる声はなかった。ご飯は用意してあるけれど、家族らしい会話はない。朝は特に、父親は…
曇天の梅雨空は、低く感じる。頭のすぐ上に、分厚い雲が重くのしかかってきて、あまり好きではなかった。 今にも雨が降りそうな窓の外を、ぼんやりと眺めながら、先日…
聡子は逮捕され、篤久も、学校と警察の両方から事情を聞かれた。 刃傷沙汰を起こした聡子はもちろん悪いが、それを誘発したのは、篤久の複数人相手の異性交遊であるこ…
五月の最終日。もうほとんど夏ではないか、という気温の中、僕は遅刻していた。 寝坊ではなく、腹痛でしばらくトイレから出られなかったという正当な理由だから、のん…
刺したり刺されたり、殺したり殺されたりする覚悟があれば、ハーレムはつくることができるらしい。 本当だろうか? 考えてみれば、ハーレムや後宮は、権力者のため…
翌日、学校に現れた篤久は、ある意味クラスの話題をかっさらっていた。 「おはよう」 にこやかに挨拶をしているが、両手の指、全十本に包帯が巻かれていて、とてもじ…
糸屋に行ってから、一週間が経った。 放課後、僕の近くに寄ってきた篤久は、頭がお花畑状態らしい。ふわふわと夢見心地の目がとろんとしていて、言葉を選ばずに言うと…
縁結びのおまじないをした翌日から、都合よく美希と仲良くなれるなんて、そんなうまい話はなかった。 チャイムが鳴るまで、篤久は僕の席で喋っていた。運動部しか使わ…
「おはよう」 約束をしているわけではないが、部活をやめた篤久とは、登校時間もよくかぶるため、一緒に学校へ行く日も多い。開店準備中の店前を、他愛のない話をしなが…
「ただいま」 商店街を抜けたところで、篤久とは左右に分かれた。あの不思議な店以外に寄り道はしなかったから、まだ日は高い。 僕の帰宅の報に、返事はなかった。再…
糸屋って知ってるか? 駅までの道のりをゆっくりと歩きながら、篤久の話を聞いた。 「糸屋?」 どんな店なのか想像ができなかった。篤久のことだから、大盛りサー…
2024年4月30日 20:20
十二月を師走というが、「師」を「教師」に限定すれば、四月も同じくらい慌ただしいものだと、端から見ていて思う。 一年でやらなければならないカリキュラムは決まっていて、それなのに、健康診断やら歓迎会やらで、授業時間は限られる。五月末の中間テストは、範囲が狭くなりそうだともっぱらの噂だった。 連休でほっと一息ついたのもつかの間、中学の知識を前提として、ガンガン進んでいく授業に、ちらほらと離
2024年5月19日 20:22
病院へ行こうとした僕のもとに、着信があった。相手を見て、バスに乗る前でよかったと思う。 電話に出なかったら、機嫌を損なうことになる。そうなれば、今度電話をくれるのは、いつになることか。 以前、怒らせて、長期間連絡が来なかったときは、姉が倒れているのではないかと、やきもきした。 最近は、美空の見舞いや糸屋の監視で忙しく、あまり気に留めていなかった。「もしもし、姉さん?」 くぐも
2024年5月18日 10:39
とうとう、見つかってしまった。「あれ、紡くん?」 総合玄関から入って西棟へ向かう途中、冴木医師に声をかけられた瞬間、足が竦んだ。「今日はどうしたの?」 医者だから、なのか、彼だから、なのか。冴木は僕のことを上から下まで観察し(なんなら目をライトで照らされそうにすらなった)、どこも悪いところはなさそうだ、と首を傾げた。 別にやましいことはしていない。なのに、彼への苦手意識が、自
2024年5月16日 20:07
美希たちは、相変わらず教室の中心になっていた。 今は、終業式前日の球技大会の話で盛り上がっている。誰がどれに出れば活躍できそうか、あいつは運動音痴だから足手まといだとか、当の本人たちが教室にいるにも関わらず。 そもそも球技大会云々の前に、期末テストじゃないだろうか。 言えばひんしゅくを買うことはわかりきっているので、何も言わない。彼らのことなんかよりも、僕には考えなければならないこと
2024年5月15日 08:36
放課後、部活も何もしていない僕は、まっすぐ家に帰るのが常だが、今日は違った。 商店街と住宅地の狭間、古民家に擬態した、ニッチな商材を扱う店に向かう。 途中で肉屋の店主の息子に声をかけられた。「おー、紡。お前、コロッケいらん? つか買って! 俺を助けて!」「どうしたの、大輔(だいすけ)さん」 彼は姉と同級生だったし、肉屋は昔からのおつかいルートのひとつで、僕のこともよく知っている
2024年5月14日 19:15
次の日、僕はいつもよりも早い時間に家を出た。相変わらず、「行ってきます」に応じる声はなかった。ご飯は用意してあるけれど、家族らしい会話はない。朝は特に、父親は出勤準備に忙しい。 それでも僕は、挨拶は欠かさないようにしている。僕からの発信を諦めたら、本当に、家族としての形が崩れてしまうような気がして。 到着したときには、教室の中には誰もいなかった。今日も朝から雨が降っていたから、外でやる部
2024年5月13日 19:33
曇天の梅雨空は、低く感じる。頭のすぐ上に、分厚い雲が重くのしかかってきて、あまり好きではなかった。 今にも雨が降りそうな窓の外を、ぼんやりと眺めながら、先日の古典の授業のことを思い出していた。 古語の「眺む」は今と違って、「物思いにふける」という意味だ。そして「長雨」との掛詞にも使われる。 ぽつり、と最初の雨の一粒が窓を叩き、僕を現実に引き戻した。 デスクの前に座る白衣の男性――
2024年5月10日 20:13
聡子は逮捕され、篤久も、学校と警察の両方から事情を聞かれた。 刃傷沙汰を起こした聡子はもちろん悪いが、それを誘発したのは、篤久の複数人相手の異性交遊であることは、明らかだった。 生徒同士の事件に発展していた可能性も高く、実際、裏では陰湿な嫌がらせを相互に行っている女子がいたことが、調査によって発覚した。 そうまでして執着していた篤久に対して、だが、女子生徒たちは、まるで憑き物が落ちた
2024年5月9日 19:36
五月の最終日。もうほとんど夏ではないか、という気温の中、僕は遅刻していた。 寝坊ではなく、腹痛でしばらくトイレから出られなかったという正当な理由だから、のんびりと歩いている。すでに担任には連絡済みだった。 朝のショートホームルームが始まる前には、教室に到着できそうだ。 人気のない玄関で靴を履き替え、時計を見ながら思った。 遅刻の理由は、あんまり突っ込まれたくない。高校生にもなって
2024年5月8日 18:24
刺したり刺されたり、殺したり殺されたりする覚悟があれば、ハーレムはつくることができるらしい。 本当だろうか? 考えてみれば、ハーレムや後宮は、権力者のための施設だ。イスラーム帝国のスルタンしかり、日本や中国の帝しかり。 美しい女性が集められ、権力闘争の舞台となる。ときには、身分が低い女性すら、その美貌ゆえに誘拐同然で連れてこられることすらある。妃と奴隷は紙一重だ。 主が無能だと、
2024年5月7日 09:48
翌日、学校に現れた篤久は、ある意味クラスの話題をかっさらっていた。「おはよう」 にこやかに挨拶をしているが、両手の指、全十本に包帯が巻かれていて、とてもじゃないが正気とは思えない。周りが心配するものの、本人は「なんでもない」と笑っている。 怪我ではないことを知っているのは、僕だけだ。あの包帯の下には、赤い糸がぐるぐると巻かれている。小指だけでは足りないくらい、好みの女子が多いというこ
2024年5月6日 19:29
糸屋に行ってから、一週間が経った。 放課後、僕の近くに寄ってきた篤久は、頭がお花畑状態らしい。ふわふわと夢見心地の目がとろんとしていて、言葉を選ばずに言うと、気持ち悪かった。 だが、どれほど気味が悪くても、彼は僕の親友だ。「なぁなぁ、紡」 と、声をかけてくるが、自分から話をしようとしないのは、「何かあったのか?」と、僕に聞いてもらいたい心理の表れ。 期待には応えてあげてしまう
2024年5月5日 10:06
縁結びのおまじないをした翌日から、都合よく美希と仲良くなれるなんて、そんなうまい話はなかった。 チャイムが鳴るまで、篤久は僕の席で喋っていた。運動部しか使わない、馬鹿みたいに大きなエナメルバッグを邪魔にならないように前で抱えて、篤久はようやく自分の席、美希の隣に戻っていった。 見送りながら、こういう短い時間で話しかければいいのにな、と思う。青山たちも自分の席に戻っていったんだから。本当に
2024年5月3日 19:52
「おはよう」 約束をしているわけではないが、部活をやめた篤久とは、登校時間もよくかぶるため、一緒に学校へ行く日も多い。開店準備中の店前を、他愛のない話をしながら抜けていく。糸屋の前は、あえて素通りした。「ところで、ずっと気になってたんだけど」「おう」「その手、どうしたの?」 篤久の手、右の小指には、包帯が巻かれていた。 突き指? 骨折? 昨日別れてから、何かあったのだろうか。
2024年5月2日 19:27
「ただいま」 商店街を抜けたところで、篤久とは左右に分かれた。あの不思議な店以外に寄り道はしなかったから、まだ日は高い。 僕の帰宅の報に、返事はなかった。再放送の刑事ドラマだろう音は聞こえるから、母は在宅のはずだ。 案の定、リビングに顔を出せば、母はいた。ソファに座ってドラマを見ているが、頭が規則的に上下しているから、うとうと居眠りをしていることが、後ろから見て取れた。「ただいま」
2024年5月1日 08:48
糸屋って知ってるか? 駅までの道のりをゆっくりと歩きながら、篤久の話を聞いた。「糸屋?」 どんな店なのか想像ができなかった。篤久のことだから、大盛りサービスの充実したラーメン屋か。 いいや、それなら美希は無関係。僕の背中に痛烈なダメージを与える必要はない。 ならば、彼女を誘いたい店か? 僕の脳内では、いかにも女子が「カワイー」と写真を撮りまくるだろう、ファンシーなカフェ