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アウェーを楽しむ

関西から関東に来て一年半近くになる。
我が家は元々あまり外食をしないが、こちらに来てからはぐんと頻度が減った。店をよく知らないというのは表向きの理由で、味付けに馴染めるか、心配だったからなんとなく腰が引けていた、というのが正直なところである。しかし思っていたほど違和感はなく、みんな美味しく頂けた。ちょっとビビり過ぎだったようだ。
そう言えば東京にいる子供も「味の違いは特に感じない」と言っていた。かなり味に敏感な子だから、本当に違いはないのだろう。

しかし、関西との調味料などの違いには時々戸惑う。
こちらでは薄口醤油を使わない、というのは知っていたので、関西を離れる前に一本買っておいた。おかげで今のところ大丈夫である。
醤油の陳列棚を見ると、薄口醤油は確かにあるにはあるがかなり小さいサイズだし、一種類しかない。やっぱり使わないんだなあ、と実感する。変な話、少し寂しい。
驚いたのはソースである。ウチの夫は毎朝目玉焼きにウスターソースをかけるのだが、関西から持参したウスターソースを切らして買いに行った時、棚を見て目を疑った。
ウスターソースが一種類しかない。「一択」なのである。
最初は「このスーパー、品ぞろえ悪すぎ!」とプンプンしていた(そこで働くことになるとは思わず)のだが、他の店に行ってもほぼ状況は変わらず、ビックリしてしまった。しかも関西ではかなりアウェーなメーカーのものがメインで堂々と売られているのには更に驚いた。
カ〇メやイ〇リのウスターソースですら懐かしい。

正月の雑煮の為に白味噌を買いに行ったら、また驚いた。関西に居る時は正月が近づくと「これでもか」というくらい、白味噌が山積みにしてあったのに、こちらでは陳列棚の隅の方に「一応居てます」と言うくらいの存在感の薄さで置かれていたからだ。抹殺されてなくて良かった。いろんな雑煮があることは承知しているが、ここらあたりの雑煮は澄まし汁なのだろうか。
調味料ではないが、丸い餅はどこに行ってもないので諦めて、こっちにいる間は四角い餅を雑煮に放り込むことにした。味が変わるわけではないから、まあいいが、違和感はある。

関西のスーパーで働いていた時、福岡店から転勤してきたバイヤーが棚を見ながら、
「こっちは調味料が全然違うなあ。また一から覚えなおししないと」
と言っていた。九州は醤油も味噌も全然違うそうだ。
近所に熊本出身の友人夫婦がいたのだが、
「醤油と味噌は九州物産展で買いだめする。切れたらネット通販」
と言っていた。当時は「そこまでする?!」と笑っていたが、今となっては気持ちがよくわかる。
そのバイヤーは名古屋のあたりの店にも居たことがあり、
「名古屋は『白醤油』ってのがあるんだよな」
とも教えてくれた。どんなシロモノなのか、未だに見たことはないが、調味料にはこんなに地域性が現れるのだなあ、と面白い。

「かんずり」という調味料を大量にまとめ買いするお客様もいらした。近所ではウチのスーパーしか取り扱いがない、と仰って、定期的に来られていた。私達は密かに「かんずりの人」と呼んでいたのだが、誰も「かんずり」がなんなのか、知らなかった。
どうも新潟の調味料で、唐辛子を発酵させたもの?のようである。こちらには新潟の人も多いようで、普通にあちこちで売られているのも興味深い。

おでんの具材の陳列をしていたら、
「『ちくわぶ』はないよね?」
と関東弁の男性に聞かれたこともあった。ちょうどその頃、一種類だけれどちくわぶの取り扱いを始めたばかりだったので、「あります」とご案内すると非常に喜ばれた。
「こっち(関西)にはなかなか売ってないんだよね」
と仰っていた。
私はこちらに来て、おでんの季節に『はんぺん』が具材として並べられていることに驚いた。入れる人もいるのかも知れないが、関西ではあまり見かけない。よく味が染みて美味しいかもしれないとは思う。
勿論、おでんを煮込むのはウチでは薄口醤油を使うが、こちらは濃口醤油だろう。

幼い頃から慣れ親しんだ味を、急に毛色の違うものに変えるのはちょっと勇気が要る。でも案外試してみれば美味しかったりする。
ちょっとした違いを面白がり、楽しみながらのアウェー生活である。