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忖度しないブッチャー


#忘れられない先生

中学生の時にお世話になった公民のM先生は、横も縦も物凄くデッカイ人だった。声もデカイし、態度もデカイ。いつも廊下をノシノシ歩いていた。威圧感たっぷりだった。

唯一小さいのは、通勤に使っていた原付バイク。デカイ先生を乗せるので、今にもパンクするのではないか、というくらいタイヤがペちゃんこになり、いつも苦しそうな音を立てていた。
そう言えば、ヘルメットもとても小さく、先生が被るとボールにお椀を伏せて置いたようになって、とても滑稽だった。

常に丸刈りで、かなり濃い色付きの眼鏡。色黒。タラコ唇。
体躯だけでも迫力十分なのに、この外見。絶対学校の先生には見えない。
首の後ろが『肉の階段』になっていて、みんな密かに「下敷きが挟める」等と言って笑っていた。まるで悪役プロレスラーのようだった。

ちょっとワルイ卒業生が、学校にバイクで賑やかに乗り付けたりすると、先生の怒りはいきなり頂点に達する。
「お前らあ!授業の邪魔すんなあ!」
窓を開けるか、廊下から外に出て直接本人達に怒鳴る。相手もああアイツか、うるさいから帰ろう、とばかりに去っていく。
生活指導の担当だったのだが、まるでヤ○ザのようであった。

定期テストの点が悪いと、答案を返してくれない。平均点以下だと後で職員室に呼び出しをくらう。そして愛情たっぷり?の叱責を受けて、宿題を余分にもらうという事だった。
ある保護者が「テストのやり直しの宿題が多すぎる」と抗議したら、学校は勉強するところや、テストの点悪かったら勉強し直すのが普通や、やり直しせんでもええように授業ちゃんと聞いとけと子供に言っとけ、と怒られたらしい。
テストが満点でも返してくれない。授業でやった事ばかり出してるから、満点取れるのは当然である。調子に乗るな。問題をみて、本当にわかってるのか、もう一度解き直せ、と言われた。
テストの"受けっぱなし"を許してくれない先生だった。

中3時の進路指導もはっきりしていたそうで、曖昧に「志望校どうする?」みたいな話はなく、
「この成績だと、ここが妥当。これ以上は無理」
とはっきり言うらしかった。
友人はこの先生が中3の担任だったのだが、行きたい学校は無理、とバッサリ切られてしょげていた。だが、私は彼女の成績を知っていたので、彼女には気の毒だけど、心の中では先生に賛成であった。

熱血というのとは違うし、イタズラに怖いわけでもない。ひょうきんな所は少しもなかったし、体罰なんかなかったが常に威圧感がたっぷりだった。
笑顔を見た事はないが、冷たい先生という印象がない。どうしてなのかな、と不思議に思う。

先生のあだ名はいろいろあった。名字の呼び捨てが一番多かったが、ブッチャー、雪だるま、などもあった。
あの首の後ろの肉の階段は、ブッチャーという呼び名がピッタリだと思う。
多分、生徒に色々言われているのもわかっていたと思うが、どこ吹く風、であった。好きなように振る舞っているように見えた。

常に誰にも媚びない先生の態度は、未だに忘れられない。
大人になった今、ああいうふうに生きられれば理想だな、と思っている。




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