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数学マニア


#忘れられない先生

高校一年生の担任は、数学担当のX先生であった。超のつく文系人間の私はあまり有難くない気持ちになったものだ。しかし極めてフラット且つ鷹揚な雰囲気の先生で、校則でガチガチだった中学校から進学した私は「高校って自由だなあ」と肩の力が抜ける感じがしたものである。

先生は授業が趣味なんじゃないかと思うほど、授業をしたがった。教師なんだから授業するのは当たり前…ではあるが、先生の場合マニアックと言おうか、熱心というのとは些か違う気がした。なんせ、他の教科の先生がお休みで自習…となると自分が空いていればさっさと入ってきて授業を始めてしまうのだ。折角の休息?が台無しになり、生徒はブーブー言っていた。が、そんな事はお構いなし。喜々として板書を始めてしまう。エスケープする者もいたが、なんせ進度が早いので、エスケープした分自分が苦しむことになる。従って殆どの者は恨めしい目を向けつつ、大人しく授業を受けていた。お陰でウチのクラスは他のクラスと定期テストの範囲が違うことがよくあった。進度が早すぎるのである。苦手な者にとっては予習復習が本当に大変だった。一年生の時は、勉強時間の大半を数学に費やしていた気がする。

世の中がまだまだアナログだった頃である。先生は定期テストの結果からクラス一人一人の偏差値を各教科ごとに計算で割り出し、折れ線グラフに落とし込み、三者面談に使っていた。勿論全部手書きである。40人分くらいだろうか。親は「わかりやすい」ととても喜んでいたが、どう考えても生徒や保護者の為とは思えなかった。きっと計算するのが楽しかったに違いない。

職員室の机の上がまた凄かった。参考書や教材が、これ以上出来ないくらい、ピシッと並べてある。聞くところによると、本を入手するとまず縦横幅を図り、大きさを揃えて並べていく、という事だった。物の多い教師が多い中、先生の机は一際異彩を放っていた。

先生の趣味は囲碁で、掃除終了の報告をしに行くと、よく詰め碁をしておられた。きっと頭の中の盤面もさぞかしキチンと明確に、先生の頭の中にあったに違いない。

卒業文集に寄せて下さった文章には、先生の数学愛が熱く語られていた。詳しくは忘れてしまったが、『数学の問題が解決した時の「なるほど」という納得感がたまらなく好きなのだ』という内容だったと記憶している。友人達と「X先生らしいなあ」と笑い合ったものだ。

卒業後はお目にかかっていないが、今もお元気で囲碁を楽しんでおられるといいなあと思う。

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